シング 神さまの指先

笑里

文字の大きさ
上 下
14 / 97

拡散

しおりを挟む
 ——そんな未来。
 圭太は社長の菊池から言われて、初めて自分にもギターだけではなく、新しい才能の発掘やプロデュースという未来も選択肢にあることに想いを馳せながら、「ケイ」と名乗ったあの女の子と自分がコラボした動画を何度も何度も繰り返し見ていた。
 多分スマホのカメラで撮影したと思われるこの動画は、録画状態もさしてよくなく、マイクも通さず屋外で歌っているケイの声の何分の1も伝えきれてないが、ちょうどよい角度から撮影されていて、あの日、圭太がほとんど背中から見ていた彼女を正面から捉えている。
 まだ幼さの残る顔と、彼女がまだ生まれていない時代のオールディーズとのギャップが逆にとても新鮮だ。しかも、まるで録音を何度も重ねて作り上げるメディアのように完璧な音程で、とても初めてのセッションでの歌唱とは誰も信じないかもしれない。
 動画を何度も繰り返すうちに、圭太は居ても立っても居られない気分になるなった。
 ——なんとかしてケイを探してみる方法は?
 思案しているうちに、圭太はスマホを手に動画サイトの投稿者へのダイレクトメールを出してみることを思いついた。投稿者があの街に住んでいるか働いている可能性がある。そうだとすれば、あの日あそこを通りがかった彼女の制服が、どこの高校あるいは中学のものか知っているかもしれない。

「初めまして。自分はあなたの投稿した動画でギターを弾いていた、プロのミュージシャンとして活動している者です。もしよければあなたと少しお話をしたいので、お返事をいただけませんか」

 ——送信、と。

 これまで知らない相手にこんなメールを送ったことはない。こんなメールに返事が来るかどうかはわからないが、一か八かだ。そう覚悟を決めた。
 メールを送ってまた動画を見ていると、ほんの数十秒後にスマホが「ヴヴッ」と震えた。

「すごく上手いデュオだなとは思いましたが、やっぱりプロの方だったんですね。だとしたら、やはり投稿しては不味かったですよね。すみません。削除させていただきますので、許してください」

 動画の投稿者からのメールだった。圭太は慌ててまたメールを送る。

「いや、動画はそのままでも構いません。というか、ぜひ消さないでください」

「ありがとうございます。あの日、2人がすごくかっこよかったのでつい動画を撮影してしまいました」

 メールのやり取りが始まった。

「謝る必要は何もありませんので気になさらずに。ところで少し聞きたいことがあるんですが」

「なんでしょう」

「ここで歌っている少女なんですが、あなたも知らない子ですよね?」

「はい、知りませんが。デュオとして活動しているんじゃないんですか」

「いえ、実はあの日が初めて会った子で。じゃあ、つかぬことを聞きますが、彼女が着ている制服はどこの学校かご存知ありませんか。あの辺の地元の高校ならあなたは知らないかなと思ってメールしました」

「私も長くあの近くの仕事場に通ってますが、あの制服は駅の近くでも見たことはありませんよ」

「そうですか。残念です。実はあの子を探しているんですが、無理そうですね」

「ああ、そうなんですか。でも、それならネットに聞けば一発ですよ、きっと。なんなら私が探してみましょうか」

「そんな方法があるなら、お願いできますか」

「ちょっと時間をください」

 いったい何をする気だろう。とにかく待つしかないと腹を括り、圭太は動画を見ながら返事を待った。
 30分ほど経過した頃、再びメールが入った。

「見つけました。横浜にある聖華国際学園という私立高校です」

「ありがとうございます。横浜ですか。制服だったので近くかと思っていました。でも、どうやってわかったんですか」

「ツブッターに乗せて、友達に拡散してもらいました。すみません、今度はツブッターでちょっとバズったかもしれません。きっとすっかりお二人は有名人になってるかも知れませんw」

「私は一応プロなので、名前が売れるのはいいことだと思いたいです。色々ありがとうございました」

「こちらこそ。テレビとか出ることになったら、教えてください。応援しています」

「基本はスタジオミュージシャンなので、なかなかそういう機会はなさそうですが、努力します。その時はよろしくお願いします。では」

 そう言ってメールのやり取りは終わった。その時圭太はまだ気がついてなかったのだが、確かにツブッターではまた「超絶歌がうまい女子高生」の動画が順調に拡散されたことを圭太が知ったのは翌日の朝になってからだった。社長の菊池はどんな悔しい顔をしてその動画を眺めていたかは知らぬが花だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...