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3 二人の兄様と家族のこと

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「お友達にアーサー様っていないの?」

 穏やかな性格のイーサン兄様が首を傾げる。
 黄色味の強い金髪に緑色の瞳が母様とそっくり。

「今回の茶会に招かれた子息子女は、殿下の歳に近い者ばかりだから、俺達より年下だろうと思う。殿下は十三歳だから」

 アーサー様は思ったより私と歳が近い?
 落ち着いていて頼りになる雰囲気だったからすごくびっくり。

 明るくていつも元気なローガン兄様が私をぎゅっと抱きしめた。

「エヴァ、そいつは俺より格好いいのか?」

 年子で生まれた兄様達は双子みたいにそっくりだし、整った顔だと思う。

「兄様達のほうが格好いいと思うわ」
 
 でも。優しくて、クマみたいに大きな体も大きな手も好ましく思った。
 あの焦茶色の瞳もとても温かくて、思い出すとキュンとする。
 あ、やっぱりアーサー様の方が格好いいかも!

「そうか! エヴァはかわいいなぁ」

 ローガン兄様が目をキラキラさせて私の頭が動くくらい勢いよく撫でる。
 今さら、アーサー様の方が格好いいなんて言えない。
 
「兄様、目が回るわっ」
「エヴァ、名前以外に何かわかるかい?」

 イーサン兄様に訊かれて、私は父様の言っていたことを伝えた。

「ジョンにそっくり? それって……」

 兄様達がお互いに目配せする。
 私は首をかしげた。

「もしかして、誰かわかったの?」
「まだ、違うかもしれないから調べてみるよ。……エヴァは彼を知って、どうしたいんだい?」

 イーサン兄様の思慮深い瞳が私をじっと見る。

「お礼を言いたいの!」
「エヴァ! まだお嫁に行くのは早いよ! 僕が面倒を見るからそばにいて!」

 ローガン兄様が何を想像したのか、ますます私をぎゅうっと抱きしめた。
 なんだか父様みたい。

「兄様っ……私、まだ十二歳よっ……」
「……ローガン、エヴァが苦しそうだ」

 イーサン兄様が真っ赤な顔をした私を救い出してくれて、柔らかく抱きしめるからホッとした。
 ローガン兄様が私の髪を撫でながら言う。

「ごめんね、エヴァ! あー、エヴァは本当にかわいいなぁ」

 イーサン兄様は婚約者が成人する五年後に結婚することになっていて、今は手紙などのやりとりをしていて年に数回顔を合わせているらしい。

 手紙が届くと嬉しそうだし、プレゼントを送る時は私に流行りを訊いてくるし、選んでいる姿はとても楽しそう。

 たまたま受けた縁談でお互いに気が合ったんだと聞いた。
 二人が揃うとなんだかとっても素敵なの。
 お互いがお互いをいたわり合う姿がいいなって、羨ましく思う。

 ローガン兄様はゆくゆくはお祖父様から子爵の爵位と、小さな領地をもらうことになっていて、何度か婚約の話が出たけどまだ早いって断っている。

 私より好きな子ができるまで結婚しないって宣言した。
 父様も母様もローガン兄様に自由に相手を決めていいと言っていて、私にもそうだって。

 父様と母様はずっと仲良しで、一般的な貴族の夫婦とは違うんだと家庭教師の先生に教えてもらうまで知らなかった。

 いつもべったり……おもに父様が母様にくっついていて、家の中は明るい笑い声が響いてる。
 幸運なことに、父様も母様も政略結婚の相手が初恋の相手だと聞いた。

 私もそれを夢見ていたけど、そんなことありえないって、王宮の茶会にちょっと顔を出しただけでわかった。

 完璧な淑女になれない私はきっと結婚相手に望まれないんだろうって。

 脚が弱いのもあるけど、あの女の子達みたいに着飾って、毎日過ごすなんて私には耐えられない!

 別に結婚なんてしなくてもいい。
 家族と一緒にいられたら私は幸せ。
 みんなと離れるほうが寂しいもの。

 きっとアーサー様にも婚約者がいるんだろうな。
 あんなに格好いいんだもん。
 それでも。
 見るくらい、いいと思うの。

 もう一度会って、お礼を言いたい。
 だからどうしたら会えるかなって。

 そんなふうに私はずっとずっとアーサー様のことを考えている。 
 
 父様が知っているんだから、母様だって知っているかもしれない。
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