ヒロインのはずなのに、王子様が迎えに来ません!

能登原あめ

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 学園全体での交流パーティーは庭園での立食スタイル。
 社交界に出たことがある子もない子も、場数を踏むために時々開かれるお茶会。
 
 今からどの派閥に入るのか、その辺りも見極めないといけない……というのも王太子がいるのに第三王子が賢く明るくて人の心を掴むのが上手らしく、次代の王に推す声もあるらしく。
 
 第二王子は病弱だから、領地をいただいて公爵家を新しくたてるんじゃないかって話。
 
 それも穏やかな生活ができそうでいい。
 だけど乙女ゲーム的には王太子と第三王子が共倒れで、実は隠れて鍛えていた第二王子が王になるセンも考えられる!
 
 それも悪くない。
 民衆に支持される親しみやすい男爵令嬢とのラブロマンス!
 悪くない。

「どうしてそんなに前のめりなんだ」

 クラスメイトと一緒に行動していたのに、セシルが背後からやって来て声をかけてきた。
 険しい表情の彼を前にしても、顔がゆるんでしかたない。

「それは、パーティーが嬉しくて。私、これまで参加させてもらえなかったので」
「まぁ……」
「スミス男爵家では……」

 姉たちの評判は社交界でよくなかった。
 やっぱり悪目立ちしていたみたい。
 この一年で過去のやらかしは聞いたけど、エイミーのほうはバツ2イケメンの子爵と結婚が決まったのだとか。
 可愛い子どもを産むのが契約らしいんだけどどうかな。
 
「パーティーなら俺の国では毎晩ある。シンシアもくればいい」
「それはすごいね」
「あぁ、もう飽きた。毎回喧嘩になるからな」

 それは喧嘩祭り⁉︎
 喧嘩祭りって聞いたことあるけど、それなのでは⁉︎
 みんな血の気が多すぎる。

「それはちょっと……」
「俺はその中でも気が長いほうだ」
「へぇ……」

 私の半径1メートルに人がいなくなったんだけど?
 いつも周りを威嚇しているから、みんな怖がって喧嘩売らないだけだと思う。
 コーンズ先生にもみんな仲良く、って言われたらしいし……。まぁ、無理だよね。

「心配するな、喧嘩で負けたことはない」
「すごーい!」
「あぁ、安心しろ」

 セシルが満面の笑みを浮かべた。
 黙っていればほんっとうに格好いいのに!

「ダグラス殿下だ……」
「見て……ダグラス様だわ」

 ざわめきが広がって、第二王子の登場が伝わってくる。
 どきどきしてきた!
 これが、再会イベントになる。

 背が低くて見えなくて、人のすきまからのぞこうとすると、肩に手が置かれた。

「……殿下を見たいのか?」

 セシルにジロリとにらまれて、一瞬言葉につまる。でも、大事なイベントだ!

「同じ学校なのに一度もお目にかかったことがないから、興味があるの」
「それだけ?」
「それだけです」

 7歳の時に出会っているって話したい。
 きっと覚えてくれているはず。

「シンシアがほかの男に興味を持つのは面白くない。だが……アイツには婚約者がいるし、シンシアにはどうにもできないか」

 はい?
 婚約者?

「知らなかったのか?」

 ギロっとにらまれて、怖いよー。
 婚約者とうまくいっているかわからないし、恋愛に障害はつきものって聞くし!
 お互いに望んでいない政略結婚……かもしれない。王子様だしね。
 
「はい、知りませんでした……でも、この国の王族ですし、興味あります。婚約者の方はどなたなのですか?」

 王子様は見えないし、いっそのこと婚約者対策を練ったほうがいいかも。
 悪役令嬢と言われる種族かもしれない!
 キョロキョロする私に、セシルが息を吐いて手をつかみ、スタスタ歩き出した。

「こっちから見たらいい」

 みんなから離れて横からのぞきこむように全体を見る。

「あそこに見える空色のドレスで金髪の、ファース伯爵家のアイリス嬢。ダグラス殿下の婚約者だ」

 あれ?
 不思議な世界に迷い込む童話に出てきた女の子にそっくり。
 エプロンドレスっぽいデザインだし、髪にリボンつけてるし。
 でもどうして学園に……乙女ゲームだからか!

 私の名前はシンシアだしね。シンディとかレイラでも良かったと思うけど、もうシンシアでなじんでいるからいっか。そういうことだよね、これ。
 
 これから王子様を奪い合う、女の戦いのスタートなんだわ!

「婚約は少し前に決まったらしいから、知らない者も多いのかもしれない」

 私がじっと見つめていたからか、セシルが説明してくれる。

「彼は王位継承に関わらない代わりに、王の温情で恋愛結婚らしい。俺も愛のない結婚はしない」

 恋愛結婚⁉︎
 まさか、そんな……何か事情があるはず。
 よくある見せかけ結婚じゃないのー?
 誰か否定してー!

「ここからなら、殿下も見える」

 とうとう会える。今はのぞき見だけど。
 きっと再会すれば、2人の恋が動き出すはず。
 ぐるぐる考える私をセシルがいきなり抱え上げた。

「え! セシル⁉︎」
「誰もこっちなんて見てないさ。騒げば別だが」

 驚いて、しがみついてしまった。
 すぐに降ろしてほしくて離れそうとしたのに、セシルの腕に力がこもる。
 
 黒い瞳が私をじっと見つめてささやいた。

「このくらいの旨味がなければやってられない。シンシアがほかの男を見るのは5秒が限界だ。ほら……5、4、3」

 そうだった!
 幼い頃のあの子は淡い金髪に海のように深い青い瞳。
 名前はリー。
 慌てて王子様に視線を向けると――。
 
「誰?」

 
 
 

 
 
 

  


  

 
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