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「私にも愛させて」

 体の力は抜けていたけれど、指を彼に向かって伸ばした。

「ロー、また今度。今はすぐにローの中に入りたい」

 エルは私の手をとり、指先をくわえた。
 率直な物言いと思いがけない仕草に赤い顔がもっと赤くなっている気がする。
 指先も濡れて熱い。

「うん、私も……一つになりたい」

 今日はエルの見たことのない面ばかり発見している。
 驚いてばかりだけど、好きな気持ちに変わりはない。
 ドキドキして、もっともっと好きになった。

「大好き、エル」

 言葉にするたびに幸せがあふれる。
 いつになくこわばった顔のエルが彼自身を脚のつけ根に押しつけた。

「俺も。ロー、痛かったら言って」
「うん、でもやめないで」
「…………」
「エル、約束して。全部ちょうだい」
「……ロー、愛している」

 押しつけられた彼自身がゆっくり私の身体を拓いていく。
 痛みより圧倒されるような、身体を明け渡す感覚に飲み込まれそう。
 真剣な眼差しで、私を注意深く見つめている。

 私もエルの表情を見逃したくなくて見続けた。
 初めてだから、今この瞬間を逃したくない。

 エルは小刻みに腰を前後させながら奥へと進む。
 すごく気遣ってくれているのがわかるけど、やっぱり少し痛い。

 唇を噛んでしまった私に、エルが身体を倒して唇を重ねる。その動きでより深く身体が重なり何か内側から破れるような鈍い音がして痛みが増した。

「……んんッ‼︎」

 私の声はエルの口内に飲み込まれ、まだ奥へとエルが入り込んで止まった。
 いたわるようにエルが私の頬を撫でながら優しいキスを繰り返す。

「……全部入ったよ、ロー。痛みは?」

 顔を上げて私をのぞき込む彼の額には汗が浮いていて、思わず手で拭った。

「うん、大丈夫。想像より痛くなかった。それにこうなれて嬉しい。私の中にエルがいるんだね」
「ロー……俺だけのお姫様」
「もう違うのに。エルだって私だけの騎士様よ。だけどこれからは私の一番大切な夫……んぅッ」

 舌を絡める深いキスに、私は何も言えなくなった。
 エルは全部入ったって言ったのにさらに奥へ進もうとしているみたい。

「愛しているよ、ロー」
「私も……ねぇ、エル。全部って嘘だったの? もっと奥まで入ってきたみたい」
「ロー、違う。嘘じゃない」
「でも」

 今だって私の中でエルの存在感が大きく感じている。

「ローが可愛いから、反応してさらに大きくなったんだと思う」
「そんなことが?」
「そう、多分」

 困ったように笑うエルを見ていたら、私も笑ってしまった。

「知らないことがいっぱいあるのね。エル、全部教えて」

 すうっと笑いの引いたエルの顔は再び雄の顔に戻った。
 本当に今夜はいつもと違う。
 お互いむき出しで本能的な行為だから、そうなってしまうのかもしれない。

 でも、嫌じゃない。
 今のエルも好き。
 だってきっと私しか知らないエルだもの。

「エル、なんでもしていいよ。私、エルのしたいことがしてみたい」

 黙ったまま私を抱きしめたエルだけど、奥深くにいるエル自身がわずかに動くのを感じた。

「ローといろんなことがしたい。でもそれは今日じゃなくていい」

 馬車の中で眠るどころか座っていられなくなる、って。

「わかったわ、それなら今すぐエルの子種をちょうだい」
「ロー、それは自由に出せないんだ。刺激がないと……動いていいか?」
「そうなのね。物語ではすぐ終わっていたから。いいよ、エル」
「ありがとう」

 困ったような笑みを浮かべるのを不思議に思いながら見ていると、エルがゆっくり身体を起こして腰を引いた。

「……んっ」

 鈍い痛みを感じて思わず声を上げる。
 短く息を吐いた彼が私の太ももに手を置いた。

「なるべく早く終わらせるから」

 エルは浅いところを小刻みに突き始める。
 さっき指で触れていたところを狙っているみたいで、じわじわと熱くなっていく。
 覚えたての私の身体は、すぐに快楽を拾い始めて目の前がぼやけてきた。

「エル、エル……っ」
「あぁ、可愛い」

 自然と漏れてしまったような言葉がさらに私を熱くする。

「ロー、ここは?」

 エルがキスしていたところを指が探る。
 甘くて強い刺激に声が抑えられない。

「そこ、は……熱くなるのっ、エル!」
「痛くないならよかった」
 
 そう言った後で、浅い動きのまま親指でぐりんと押しつぶす。

「ああァッ――⁉︎」

 気持ち良すぎてお腹の中がきゅうっと動く。
 一瞬息が止まって、頭の中が真っ白になった。
 
「ロー、ごめん」

 ぐっと深く腰を進められても、痛みより気持ち良さが勝る。
 相手が大好きな人だから。
 エルがたくさん私の身体を愛してくれたから。

「気持ち、いい……っ」
「……ッ、ロー、好きだ」

 大きく揺さぶられて、身体の奥深くにエルが子種を放った。しばらく私を抱きしめた後、彼が私の中から抜け出ると、少し寂しくなってしがみつく。
 エルは私を腕の中に抱え直して額に張りついた髪を後ろへ流した。その優しい手つきも大事にされているようで嬉しくなる。

「エルってなんでも上手なのね」
「どうかな、正直わからない。だがローがそう思ってくれるなら嬉しい」

 お互いの少し速い心音がなんとも心地いい。

「我慢しないでもっと早くからすればよかったかな」
「ロー……」

 エルの前だと考えていることをすぐに口に出してしまう。彼はすべて受け止めてくれるから。

「私、エルを困らせている? 少し考えてから話したほうがいいのかな。今夜はエルの困った顔をたくさん見たわ」

「今夜のローは俺を惑わす小悪魔だった。できれば……」
「やめてほしい?」

 エルを見上げると、思いのほか楽しそうな笑顔。

「いや、領地に着いたらもっと惑わせてほしい。その時はちゃんと応えるから」

 応えるって……どういうこと?
 考え込む私の額にキスを落とす。

「眠ろう、疲れただろう」
「うん、そうだね。……おやすみ、エル」
「おやすみ、ロー。明日の朝、一緒に湯浴みをしよう」
「…………」

 エルはそう言ったらしいのだけど、私はその言葉を聞く前に眠りに落ちてしまったらしい。
 翌朝、当たり前のように風呂に入ることになって私は慌てふためき、エルはとても機嫌がよかった。


 

 


 私たちの領地は、フェデリカ様のいる隣国にも遠くない。

「ロー、夢みたい。王都から離れているのも嬉しいし、それに……」

 小さいけれど温泉がわき出ているみたい。
 穏やかな海とミモザで色づいた山の綺麗な景色。
 
「温かいところだな。領地は小さいが、宿屋が目立つのは観光も栄えているのか」

 領民は漁業で細々と暮らしていると聞いていたけれど、陛下は観光業について知っていて言わなかったのかも。
 
 王都からはものすごく離れているから聞いたことのない地名だし、険しい山を越えて辿り着いた。
 気軽に訪れることはできないから、国内の有名な観光地のように知られてないのだと思う。

「領主様、奥方様、お待ちしておりました」

 すでに老伯爵は引退していて王都から管理人が来ていたのだけど、領民たちは私たちが来たことを嬉しそうに迎えてくれた。
 屋敷もきれいに掃除されていて、整っている。
 
 離宮で働いていた者たちの中で希望者を募ったら、ほぼ全員ついてきてくれた。
 私のお母様もこちらで一緒に暮らすことになっている。

 すべてがうまく回っている。
 幸せすぎて、エルの手をぎゅっと握った。

「この地を守り、栄えるよう尽力をつくそう」

 エルとならどんな苦労も乗り越えていける。
 この先もずっと、愛するあなたと歩んでいきたい。
 




                終




 ******


 お読みいただきありがとうございました。
 マルコ殿下とアンネッテにあの夜何が起こったのかは、うまくまとまったら書きたいと思います。
 
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