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【2】

16 クリスマス③

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 今朝開けた包みの中には、柔らかな花の香りのするクリームが入っていました。

「唇に塗るように作られているらしい。手や爪に使ってもいいと聞いた」
「ありがとうございます」

 ブレンダン様がこれを買い求めた様子を思い浮かべると、何だかとても顔が緩んでしまいます。
 指先にとり、そっと唇にのせてのばしました。少し硬いかと思いましたが、体温で柔らかくなるようです。使い心地もよく、食事の邪魔をしないくらい香りも弱いです。

「アリソン」

 ブレンダン様が唇を重ねてきました。
 なぜこのタイミングなのでしょう。

「とても美味しそうにみえたんだ」
「塗って差し上げます」

 もう一度指先にとって、ブレンダンの唇にのばしました。そんなことをされるとは思わなかったみたいです。

「……悪くないな」

 私も真似して背伸びして口づけしました。
 ブレンダン様が私を抱きしめて持ち上げて何度も唇を啄みます。
 悪戯する気持ちもありましたのに、驚かせることができませんでした。
 まさか最初からこれが狙いだったのでしょうか。

「口に入っても問題ないと聞いた。次はもっと大きいものを買おう」

 包みの中身はどれも二人で楽しむものが入っているみたいです。
 翌日の香水は瑞々しい爽やかな香りで、新鮮でした。一緒につけてもなぜか匂いが違うので、お互いに距離が近い日だったかもしれません。
 強い香りではないからこそ、そばに近づいて嗅ぎたくなってしまいましたから。

 だんだんお菓子以外のものも増えてきたように感じます。
 ですが、ちょうどいいと思っていました。
 ダイニングルームには大きなお菓子の家――ジンジャーブレッドハウスが飾られていて、これはクリスマスに使用人達に分けられることになっています。

 コーツ伯爵家では、お菓子の家の周りに誰でもいつでもつまんでいいお菓子が添えられているものですから、常に甘いスパイスの香りがしました。
 ブレンダン様のお祖父様が始めたそうです。

「幼い頃は下から眺めるだけだったが、手が届くようになると、通るたびにビスケットを摘んだよ」
「お腹いっぱいになりませんでしたか?」

 食事が入らなくて叱られることはなかったのかと気になりました。
 ブレンダン様はいたずらっぽく笑います。

「ならなかったな。それに食事を取る頃にはまた腹が空いた」

 言われてみれば、兄もそうでした。
 驚くほど食べる時期があったので、男性はそういうものなのかもしれません。
 私もきっと時々つまむと思いました。
 コーツ伯爵家の伝統としてこれからも続けていきたいと思います。






 
 クリスマスが近づいて、モミの木の下にプレゼントが増えていきます。
 当日はブレンダン様のご両親と晩餐を共にする予定で、四人分のプレゼントだからでしょう。
 ブレンダン様へのセーターも編み上がり、ほっとしました。

 すでに一人三つ以上あるように見えます。
 やはり今年のほうが頻繁にクリスマスのための市場へ行くので、素敵なものを手に取ってしまったからかもしれません。

 去年は私の体がこちらの気候に慣れるように、ゆったりとした時間を過ごせるようにしてくださったのもあるのでしょう。
 ブレンダン様の心遣いに胸がいっぱいになります。
 目が覚めるたびに、この方が夫でよかったと思いますから。

「おはよう、アリソン」
「おはようございます、ブレンダン様」

 夜深くまで触れ合っていたので、少し体がだるく感じました。
 私も体力がついてきたと思うのですが、ブレンダン様はいつも目覚めがよいのです。

「湯浴みの用意を頼んである。目が覚めるよ」

 そう言って私を抱き上げ移動しました。
 相当ぐっすり眠っていたようで、ブレンダン様が起きたことにも気づかなかったです。 
 すでに部屋は温まっているので、お互いに薄着であっても平気でした。

 私がぼんやりしているうちに手際よく洗ってくださり一緒に湯に浸かりました。
 昨夜は向かい合ってお互いの体をつなげながら唇を啄み、のんびり会話をして、最初はゆったりとした営みだったと思います。

 じわじわと高められて、ブレンダン様の手によって快楽を覚えた私の体は、些細な動きにも反応するようになっていて――。

 穏やかに始まったのに、なぜか最後は泣かされることになりました。
 普段はとても優しいのに、あの時は甘いのに焦らされて少し意地悪に感じます。
 
「アリソン、風呂から出たら今日の包みを先に開けたい」
 
 もしかして、中身を全ておぼえているのでしょうか。
 今朝は全身に使えるオイルでしたから、ブレンダン様が大きな手で塗ってくださいました。
 私が赤くなって、吐息が漏れそうになったのは仕方ないと思います。

「すごくタイミングがいいものが出てきたな」

 本当でしょうか。
 もしも昨夜のことからわかっていて湯浴みの手配もしていたのなら、計画的だと思いました。
 そんなことを考えているのがわかったのか、ブレンダン様は何も言わずに笑っています。

「ベッドに戻りたくなかったら、そんな顔しないで」

 どんな顔をしたらいいのかわからなくなって、困ってしまいました。
 
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