上 下
15 / 51
【2】

15 クリスマス②

しおりを挟む

 
 馬車に乗り、ウイスキー醸造所に着きました。
 この時期はいつ来ても賑わっているようです。

「何か欲しいものはあるか?」
「そうですね……。見て回りましょう」

 ブレンダン様の腕に手をかけてゆっくり一回りします。
 私達に気づいた領民達の大半は、視察ではなくて息抜きに来ているのだと気づくと、そっとしておいてくれました。
 ブレンダン様がそのまま受け入れられ、敬愛されている様子に私も嬉しくなります。

 ここはクリスマスまで特別な屋台が集まっていて、様々なプディングに果物のパイ、モミの木の形のプレッツェルなどがあります。

 クリスマスの直前には七面鳥の丸焼きや牛のかたまり肉を焼いたものなども並ぶのですが、今は肉の串焼きが味見も兼ねて売れているのでしょうか。とてもいい匂いがします。

 ろうそくや、モミの木の飾り、家族や愛する人への贈り物も売っていました。
 もちろん、特別なウイスキーを飲むことも買うこともできます。

 せっかくなので今回はモミの木の飾りを追加で買いました。
 使用人達とすでに飾りつけを終えているのですが、可愛い天使を見かけていつか私達の元にもやってきたらいいなと、そんな想いもあったのです。

「高いところに飾るといい。持ち上げてあげるから」

 飾りつけの時もブレンダン様は私を持ち上げてくださいましたが、少し……周りの者達の視線を恥ずかしく思いました。
 梯子はしごもありましたのに、それは危ないと言うのです。

「これを飾る時は二人きりの時にしてくださいね?」
「わかった」

 声に笑いが含んでいるのはどうしてでしょうか。ブレンダン様はあまり恥ずかしいという気持ちは持っていないのかもしれません。

 使用人達にも、旦那様は奥様が大好きだから甘やかしたくて仕方ないのですよ、と。
 それに可愛らしい反応をされるから手を出したくなるのでしょう、とも。

 思わずブレンダン様をじっと見つめてしまいます。

「そんなに可愛い顔していると、口づけしたくなる」
「……!」

 ブレンダン様は時々言葉通りに行動するので――。
 声は抑えていますが、私達を知っている誰かが聞いているのではないかと視線を彷徨さまよわせてしまいました。

「ホットチョコレート、飲むか?」
「はい」

 揶揄からかわれたのかもしれない、そう思っていたら私の髪に口づけを落として笑顔を浮かべています。

「またあとで」

 耳元で囁くのも、私だけどきどきさせてずるいと思いました。

「…………今日はウイスキー入りにしてください」

 ブレンダン様は眉を上げましたが、言う通りにしてくださいました。
 ここではホットチョコレートを飲める屋台が人気で、いつも必ずブレンダン様が買ってくださいます。
 寒い気候だからか温かくて甘い飲み物は体の中から暖めてくれて幸せな気分にしてくれました。

 普段は子供からお年寄りまで大人気のお酒の入っていないものを選ぶのですが、せっかくなので一度ちゃんと飲んでみたいと思います。
 ブレンダン様は毎回ウイスキー入りのホットチョコレートで、いつも一口しか飲ませてくれませんでしたから。
 
「ゆっくり飲んで」

 カップを渡されて、頷きました。
 とろりとして美味しいです。一口飲んだだけでぽかぽかするような気がしましたが、これなら飲み干すことができるでしょう。

「ブレンダン様、私も次からは時々こちらも飲みたいです。心配しなくても大丈夫そうですよ」

 この地へ来て少しずつウイスキーにも慣れました。強くはないかもしれませんが、これくらいなら――。

「アップルサイダーも飲んだほうがいいだろう」
「そんなに甘いものばかり飲めませんわ」

 発酵した林檎ジュースはとても甘くて舌の上でぴりぴりします。
 美味しいですが、さすがにお腹の中が水分だけで満たされてしまいそうでした。

「ではホットアップルサイダーを買ってくる」
「それならハーブティーをお願いします」

 いつもお酒をいただく時、ブレンダン様はたくさん水分をとらせようとするのです。
 ちょっと過保護な気もしますが、いやではありません。

 ホットチョコレートをゆっくり飲みながら、にぎやかな雰囲気を楽しみます。
 初々しい恋人達に、子供のたどたどしいおしゃべりに耳を傾ける両親、言葉は交わしていないものの長い時を過ごしてきたように見える老夫婦。みな笑顔です。

 ブレンダン様が持ってきてくださったのは、ラベンダーなどいくつか混ぜたハーブティーでした。

「サトウカエデは入っていないよ」
「ありがとうございます。嬉しい……大好き、ブレンダン様」

 私の好みを私以上に知っているのかもしれません。
 幸せです。
 大事にされすぎて、浮かれているかもしれません。
 胸がいっぱいで気分のよくなった私に、ブレンダン様はハーブティーをたくさん飲むように言いました。
 
 ふわふわした気分ですが、歌い出すこともないですしもちろん踊りだすこともないです。
 転ぶこともありませんのに、どうしてそんなに心配そうな顔をするのでしょう。

「大丈夫ですよ、ブレンダン様。……大好きです」
 
 





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。 ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。 要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」 そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。 要「今日はやたら素直だな・・・。」 美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」 いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

とある険悪な王と王妃の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
コーラル王国の国王アレクと、彼に嫁いだプラテアド帝国第六皇女ミリィナは、客人の前でも平気で怒鳴り合う険悪な仲。 ……なのだけど? 政略から始まった二人の結婚生活の行方。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜
恋愛
平民だけれど裕福な家庭で育ったシャンディアナ・フォルト(通称シャンティ)は、あり得ないことに結婚式当日に花婿に逃げられてしまった。 それだけでも青天の霹靂なのだが、今度はイケメン軍人(ギルフォード・ディラス)に連れ去られ……偽装夫婦を演じる羽目になってしまったのだ。 信じられないことに、彼もまた結婚式当日に花嫁に逃げられてしまったということで。 少しの同情と、かなりの脅迫から始まったこの偽装結婚の日々は、思っていたような淡々とした日々ではなく、ドタバタとドキドキの連続。 そしてシャンティの心の中にはある想いが芽生えて……。 ※★があるお話は主人公以外の視点でのお話となります。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

その温かな手を離す日は近い

キムラましゅろう
恋愛
ミルルの夫ハルジオ(通称ハルさん)は魔法省職員時代の元先輩だ。 とある魔法事件を追っている時にハルジオの判断ミスでミルルは一生消えない傷を負ってしまった。 その責任を取る形で、ハルジオはミルルを妻に迎えたのだ。 可哀想なハルさん、無理やり責任を取らされ、わたしなんかを押し付けられて。 可哀想なハルさん、ホントは心から愛している人がいたのに。 でもハルさんは本当に優しい人で、夫としての務めを懸命に果たしてくれている。 嫌な顔ひとつせずに、いつも楽しそうに笑顔で。 ハルさんは本当にいい人だ。 だからわたしは考えた。ちゃんと責任を取ったハルさんを自由にしてあげようと。 本当に好きな人と人生をやり直せるように……… 慢性誤字脱字病患者が執筆しているお話です。 従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。 作中に傷跡や怪我による後遺症について触れる場面があります。地雷の方はご自衛のほどよろしくお願い申し上げます。 完全ご都合主義。ノーリアリティ、ノークオリティなお話となります。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんにも投稿します。

処理中です...