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【1】
8 ※
しおりを挟む「……あなたって人は」
どうしてそんなに可愛いんだ、そう彼はささやいたのです。
ブレンダン様が大股で寝室に向かい、私をそっと寝台に降ろしました。
まるで壊れ物であるかのように優しく。
そのまま包むこむように真上からブレンダン様がのぞき込みます。
「結婚した夜に、私が言ったことを覚えているかい?」
「はい、もちろんです」
――お互いに誠実な関係を築いて、愛し愛される関係になりたい。
忘れるわけがありません。
ブレンダン様はその言葉の通り、行動してくださいました。今も、そう。
「あなたを裏切るようなことはしない。これから先もずっと、アリソンだけを愛するよ」
「はい」
「私は重たいか?」
そう問われて少し考えました。
「どうでしょうか? 私もこれから一生ブレンダン様を愛しますから、おあいこではないでしょうか?」
「…………」
お互いに笑みが溢れました。
幸せすぎて夢のようで、でも触れて夢じゃないと分かるのです。
ブレンダン様が再度唇を重ね、それから室内着を脱がしました。
「可愛いアリソン」
ブレンダン様も逞しい体を晒し、私を抱きしめます。
何もまとっていない、人肌の温かさに胸が早鐘を打つのに、安心もするのです。
「ブレンダン様……」
吐息を漏らすようにささやきました。
ブレンダン様の鼓動も私と同じくらい速いかもしれません。
私だけじゃないと思いましたら、勇気がでました。
そっと、背中に手を回して抱きしめたのです。
「アリソン」
ブレンダン様が一瞬震えたのを感じて、ゆっくりと背中を撫でました。
なんとなく、私に遠慮しているように感じたのです。
「ブレンダン様、私大丈夫ですよ」
簡単に壊れることはありません。
そう言いましたらブレンダン様は私の顔中に口づけを落とし、首筋に、それから肩にも唇で触れました。
「あなたが愛おしすぎて胸が痛い」
絞り出すようにささやいて、私の息を奪います。
それからゆっくりと私の全身にくまなく口づけを落としながら反応を引き出しました。
私が慣れなくて体を強張らせるたび、とろりとした声で励ますので、黙っていられず打ち明けることにしたのです。
「ブレンダン様、私……このように触れられたことがなくて、とても恥ずかしいのです」
薄明かりの中、私を慈しむように見つめるので、なぜか無性に泣きたくなりました。
こうして弱音を吐いてもブレンダン様だけはいつだって失望の眼差しを向けてこないのですから。
「アリソン」
「はい」
「恥ずかしかったら目を閉じていればいい」
「……はい」
頷いて目を閉じたものの、逆にどこにどのように触れているかを感じ取ってしまって慌てました。
「んっ……、あ……っ!」
息が上がり、体が弾みます。
それに全く恥ずかしさが消えません。
私はどうしたら。
「アリソン、楽にしていて」
そっと目を開けるとブレンダン様はとても楽しそうな様子でした。
けれど私は大きく脚を開いたまま、彼の目の前にすべてを晒していてとてもはしたない姿です。
しかも、彼の指がこの後の行為のために挿し入れられて拡げるように動き、彼の唇、舌が潤みを引き出すように触れました。
「あ……っ、や……ブレンダン様っ」
彼を遠ざけようと手を伸ばしますのに、その手をしっかり握られて行為を続け、はしたない音が響くのです。
体は素直に快楽を受け入れていました。
けれどこんなふうに感じるのは初めてで、頭の中は霞がかかったようにぼんやりします。
嫌じゃないからこそ、わずかに残った理性は快楽が募っていくことに戸惑いました。
視界の滲む私の顔を見て、ブレンダン様が言います。
「そんな顔をすると私の理性が焼き切れる」
雄らしい欲を浮かべ、体を起こすと私の両膝の裏に手をかけて深く折り曲げました。
腰が浮かんで慌ててシーツを掴みます。
「アリソン、息を吸えるか?」
「はい……」
「吐いて」
不思議に思いましたが、言う通りに吐きますとブレンダン様の昂まりが私の体の中を押し拡げながらゆっくり入ってきます。
「あ……、は、……ぁ、……」
ブレンダン様は体が大きい分、そちらも大きいのかもしれません。
痛みはないものの苦しさと、何かわからないものに体が震えます。
「アリソン、呼吸を忘れないで」
ブレンダン様が腰を引いたので私は安心して息を吸いました。
多分今はきっと先端だけが収まっている状態なのでしょうが、ものすごく拡げられている気がします。
「痛くはないか?」
「……痛くは、ありません」
私が息を吐く度にブレンダン様はさっきよりも深く、より深く入ってきます。
内臓を押し上げられるような圧迫感と、足先まで痺れるように広がる感覚に圧倒されて、ただひたすら私はブレンダン様を見つめました。
ブレンダン様の私を見つめる瞳に、情愛と気遣い、燃えるような欲が浮かぶのです。
彼の想いに心が震えて、悲しくないのに涙が流れました。
訳の分からない感覚に私は、頼りない声しか出ません。
「ブレンダン様……」
「大丈夫だよ、アリソン」
彼は私を深く繋ぎ止めると、安心させるようにそのまま覆いかぶさりました。
それから目元へと口づけを落とし、優しく唇に触れました。
いたわるような口づけが嬉しくて、口を開いて彼の舌を迎え入れますと、いつもより深く味わうように絡み合います。
それからシーツを掴んでいた私の手を握り、首の後ろに回すように促しました。
「私につかまって」
彼の体に包まれると安心感と幸せな気持ちがわき上がります。
彼の言葉に偽りはありませんから、私は全てを明け渡しました。
「ブレンダン様、愛しています」
「アリソン、私もだ。愛している」
子供を授かる行為というだけでなく、二人の仲を深める行為でもあるのだと、私は今頃気づきました。
「楔、みたいですね」
ブレンダン様がほんの少し面白そうな表情を浮かべました。
「こんな時に冗談が言えるなんて、余裕だな」
「いえ、冗談を言ったわけではなかったのです……」
楔には絆といった意味合い以外に杭のような道具があることを思い出しました。
なんだかとても恥ずかしい言葉を口にしてしまったように感じて、さらに体温が上がったかもしれません。
「アリソン、考え事はもうおしまいだよ」
「え? いえ、本当にっ、……あっ」
ブレンダン様がほんの少し口角を上げてゆっくり腰を揺らし、私にその存在を知らしめました。
誤解を解きたい私は再三話しかけようとするのですが、私の口からは意味のなさない言葉しか出ません。
「……わかってるよ、可愛いアリソン」
揶揄われたのでしょうか。
ブレンダン様の思うままに揺さぶられ快感の極みに達した私は、真っ白な頭のまま彼にしがみつきました。
彼の愛で溺れそうです。
長い長い夜の間、私は乞われるまま体を重ね、身の内に幾度も彼の精を受けたのでした。
翌朝目覚めるといつものようにブレンダン様に抱きしめられていたのですが、お互いに素肌を晒したままでした。
「……おはよゔ、ござい、ます……?」
自分のものとは思えない枯れた声に、昨夜のことを思い出して顔が赤くなります。
ブレンダン様はそんな私を優しく見守っていて――。
「あなたがあまりにも可愛いから、無理をさせてしまった。風呂に入れてあげるから許してほしい」
寝起きの私には後半の意味がよくわからなくて、首を傾げてしまいます。
ブレンダン様がグラスに水を注いで渡してくれたので、私は喉の渇きを癒しました。
「あの、求められて嬉しかったので……その、気になさらないで。お風呂も大丈夫ですから……」
残念そうなお顔をされるから、私は困ってしまいました。
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