上 下
8 / 52
【1】

8 ※

しおりを挟む


「……あなたって人は」

 どうしてそんなに可愛いんだ、そう彼はささやいたのです。
 ブレンダン様が大股で寝室に向かい、私をそっと寝台に降ろしました。

 まるで壊れ物であるかのように優しく。
 そのまま包むこむように真上からブレンダン様がのぞき込みます。

「結婚した夜に、私が言ったことを覚えているかい?」
「はい、もちろんです」

 ――お互いに誠実な関係を築いて、愛し愛される関係になりたい。

 忘れるわけがありません。
 ブレンダン様はその言葉の通り、行動してくださいました。今も、そう。

「あなたを裏切るようなことはしない。これから先もずっと、アリソンだけを愛するよ」
「はい」
「私は重たいか?」

 そう問われて少し考えました。

「どうでしょうか? 私もこれから一生ブレンダン様を愛しますから、おあいこではないでしょうか?」
「…………」

 お互いに笑みがこぼれました。
 幸せすぎて夢のようで、でも触れて夢じゃないと分かるのです。
 ブレンダン様が再度唇を重ね、それから室内着を脱がしました。

「可愛いアリソン」

 ブレンダン様もたくましい体を晒し、私を抱きしめます。
 何もまとっていない、人肌の温かさに胸が早鐘を打つのに、安心もするのです。

「ブレンダン様……」

 吐息を漏らすようにささやきました。
 ブレンダン様の鼓動も私と同じくらい速いかもしれません。
 私だけじゃないと思いましたら、勇気がでました。
 そっと、背中に手を回して抱きしめたのです。

「アリソン」

 ブレンダン様が一瞬震えたのを感じて、ゆっくりと背中を撫でました。
 なんとなく、私に遠慮しているように感じたのです。

「ブレンダン様、私大丈夫ですよ」

 簡単に壊れることはありません。
 そう言いましたらブレンダン様は私の顔中に口づけを落とし、首筋に、それから肩にも唇で触れました。

「あなたが愛おしすぎて胸が痛い」

 絞り出すようにささやいて、私の息を奪います。
 それからゆっくりと私の全身にくまなく口づけを落としながら反応を引き出しました。

 私が慣れなくて体を強張らせるたび、とろりとした声で励ますので、黙っていられず打ち明けることにしたのです。

「ブレンダン様、私……このように触れられたことがなくて、とても恥ずかしいのです」

 薄明かりの中、私を慈しむように見つめるので、なぜか無性に泣きたくなりました。
 こうして弱音を吐いてもブレンダン様だけはいつだって失望の眼差しを向けてこないのですから。

「アリソン」
「はい」
「恥ずかしかったら目を閉じていればいい」
「……はい」

 頷いて目を閉じたものの、逆にどこにどのように触れているかを感じ取ってしまって慌てました。

「んっ……、あ……っ!」

 息が上がり、体が弾みます。
 それに全く恥ずかしさが消えません。
 私はどうしたら。

「アリソン、楽にしていて」

 そっと目を開けるとブレンダン様はとても楽しそうな様子でした。
 けれど私は大きく脚を開いたまま、彼の目の前にすべてを晒していてとてもはしたない姿です。

 しかも、彼の指がこの後の行為のために挿し入れられて拡げるように動き、彼の唇、舌が潤みを引き出すように触れました。
 
「あ……っ、や……ブレンダン様っ」
 
 彼を遠ざけようと手を伸ばしますのに、その手をしっかり握られて行為を続け、はしたない音が響くのです。
 体は素直に快楽を受け入れていました。

 けれどこんなふうに感じるのは初めてで、頭の中はかすみがかかったようにぼんやりします。
 嫌じゃないからこそ、わずかに残った理性は快楽が募っていくことに戸惑いました。
 視界のにじむ私の顔を見て、ブレンダン様が言います。

「そんな顔をすると私の理性が焼き切れる」

 雄らしい欲を浮かべ、体を起こすと私の両膝の裏に手をかけて深く折り曲げました。
 腰が浮かんで慌ててシーツを掴みます。

「アリソン、息を吸えるか?」
「はい……」
「吐いて」

 不思議に思いましたが、言う通りに吐きますとブレンダン様のたかまりが私の体の中を押し拡げながらゆっくり入ってきます。

「あ……、は、……ぁ、……」

 ブレンダン様は体が大きい分、そちらも大きいのかもしれません。
 痛みはないものの苦しさと、何かわからないものに体が震えます。

「アリソン、呼吸を忘れないで」

 ブレンダン様が腰を引いたので私は安心して息を吸いました。
 多分今はきっと先端だけが収まっている状態なのでしょうが、ものすごく拡げられている気がします。

「痛くはないか?」
「……痛くは、ありません」

 私が息を吐く度にブレンダン様はさっきよりも深く、より深く入ってきます。
 内臓を押し上げられるような圧迫感と、足先までしびれるように広がる感覚に圧倒されて、ただひたすら私はブレンダン様を見つめました。
 
 ブレンダン様の私を見つめる瞳に、情愛と気遣い、燃えるような欲が浮かぶのです。
 彼の想いに心が震えて、悲しくないのに涙が流れました。
 訳の分からない感覚に私は、頼りない声しか出ません。

「ブレンダン様……」
「大丈夫だよ、アリソン」

 彼は私を深く繋ぎ止めると、安心させるようにそのまま覆いかぶさりました。
 それから目元へと口づけを落とし、優しく唇に触れました。

 いたわるような口づけが嬉しくて、口を開いて彼の舌を迎え入れますと、いつもより深く味わうように絡み合います。

 それからシーツを掴んでいた私の手を握り、首の後ろに回すように促しました。

「私につかまって」

 彼の体に包まれると安心感と幸せな気持ちがわき上がります。
 彼の言葉に偽りはありませんから、私は全てを明け渡しました。

「ブレンダン様、愛しています」
「アリソン、私もだ。愛している」

 子供を授かる行為というだけでなく、二人の仲を深める行為でもあるのだと、私は今頃気づきました。

くさび、みたいですね」

 ブレンダン様がほんの少し面白そうな表情を浮かべました。

「こんな時に冗談が言えるなんて、余裕だな」
「いえ、冗談を言ったわけではなかったのです……」

 楔には絆といった意味合い以外に杭のような道具があることを思い出しました。
 なんだかとても恥ずかしい言葉を口にしてしまったように感じて、さらに体温が上がったかもしれません。

「アリソン、考え事はもうおしまいだよ」
「え? いえ、本当にっ、……あっ」
 
 ブレンダン様がほんの少し口角を上げてゆっくり腰を揺らし、私にその存在を知らしめました。
 誤解を解きたい私は再三話しかけようとするのですが、私の口からは意味のなさない言葉しか出ません。

「……わかってるよ、可愛いアリソン」

 揶揄からかわれたのでしょうか。
 ブレンダン様の思うままに揺さぶられ快感の極みに達した私は、真っ白な頭のまま彼にしがみつきました。

 彼の愛で溺れそうです。
 長い長い夜の間、私は乞われるまま体を重ね、身の内に幾度も彼の精を受けたのでした。
 








 翌朝目覚めるといつものようにブレンダン様に抱きしめられていたのですが、お互いに素肌を晒したままでした。

「……おはよゔ、ござい、ます……?」

 自分のものとは思えない枯れた声に、昨夜のことを思い出して顔が赤くなります。
 ブレンダン様はそんな私を優しく見守っていて――。

「あなたがあまりにも可愛いから、無理をさせてしまった。風呂に入れてあげるから許してほしい」

 寝起きの私には後半の意味がよくわからなくて、首を傾げてしまいます。
 ブレンダン様がグラスに水を注いで渡してくれたので、私は喉の渇きを癒しました。

「あの、求められて嬉しかったので……その、気になさらないで。お風呂も大丈夫ですから……」

 残念そうなお顔をされるから、私は困ってしまいました。
しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...