上 下
2 / 4

2 家庭訪問しまーす

しおりを挟む


 診察が終わり、そっと扉を叩いて入る。
  
「リーズ、お待たせ」

 ふぁ~。
 番の匂いでいっぱいだ。
 幸せ、幸せってこんなに近くにあったんだ!

「ジャノ先生、それほど待っていないですよ。それに、ここにある妊娠について書かれた本がとても面白いです。また読みに来てもいいですか?」
「もちろん! いつだって大歓迎だよ」

「ありがとうございます! 私、仕事辞めるってここに来る前に伝えたばかりなんです。……お金は大切だけど、お腹の子に何かあったら大変だから」

 うん?
 だいぶ先走っちゃったみたいだけど。俺がいるから大丈夫!
 
「そうだね。……私は医者だからこれからはお金のことは心配しなくていいよ」
「よかった……! 私、給金が入ったら好きなもの買っちゃうからいっつもお金ないんです」

 え?
 その状態でもし本当に妊娠していたら、大変なことになっていたぞ。
 でもこれからは俺がいるから大丈夫!
 がんばって稼ぐぞー!

「続きは食事をしながらにしようか。好き嫌いある?」
「ありません。食べることは大好きだし、なんでも食べます!」
「じゃあ、すぐ準備するからね」

 昨日の夜、ジェノベーゼソースを作っておいてよかった。 
 生パスタを茹でて、ソースと和える。
 にんじんのナッツサラダも作り置きしておいてよかった。

「ジャノ先生、すごい! 手早い! 私が手伝う暇がなかったです」
「いいんだ、たまたま用意があったから早かっただけだよ。さぁ、食べよう」

 番が俺の作ったものを食べるって嬉しいな。
 食べ物によって体が作られるわけだし……つまり、俺の作った料理でリーズを満たして作り変えたい!

 甘美!
 なんて甘美な誘惑なんだ!

「今度は私の得意料理も食べてくださいね。結構料理は好きなんです。ジャノ先生の好みも覚えますから」

 ずきゅん。
 やっぱり俺が作り変えられてもいいや!
 リーズが俺のために料理を作る……想像しただけで天国に登りそう。

「……楽しみにしているよ。さぁ、温かいうちに食べよう」

 もぐもぐ食べるリーズ、可愛いな。
 
「とっても美味しいです! どうしよう……ジャノ先生がこんなに上手だと、私ちょっと恥ずかしいかも」
「褒めてくれて嬉しいけど、リーズの手料理に勝るものはないはずだよ。楽しみにしている」

 どんな料理だって天国に行けちゃうよ、俺。

「……はい。じゃあ、頑張って作ります」

 番が健気で可愛い。

「この後、リーズのご両親に会いに行ってもいいかい? ご挨拶して結婚を認めてもらいたいし、早くリーズにここに住んでほしい」
「両親は野菜を作っているので畑にいると思います。まだ、子供のことは言ってなくて……」

 友達に伝えたら、笑い飛ばされたらしい。
 それと職場に伝えた、と。 
 これは早く事実にしてあげないといけないな!
 
「わかった。私に任せて欲しい」








「私は三か月前にこの街にやって来て医者をしているジャノと申します。娘さんと結婚させてください!」

 リーズのお母さんはおっとりした雰囲気。

「あらあら、いつの間にこんな素敵な人と出会ったの? 子供だったリーズが恋人を連れてくるなんて……」

 リーズのお母さんが嬉しそうに声を上げる。
 お父さんは俺をジロジロみた。

「いつからだ?」

 これは正直に言うべきか?

「今日よ! ジャノ先生と今日運命の出会いをしたの! それですぐに結婚を……」

 お父さんがため息をつく。

「それなら、急がずともいいだろう。リーズはまだ十八になったばかりだ。一年後くらいに式を……」
「そんなのだめなのっ! だって私、妊娠してるんだもの!」

 あー。
 ややこしくなりそう。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています *表紙イラストは星影さき様に描いていただきました

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

【完結】推しと婚約~しがない子爵令嬢は、推しの公爵様に溺愛される~

うり北 うりこ
恋愛
しがない子爵令嬢のファーラは、ある日突然、推しのイヴォルフ様と婚約をした。 信じられない幸福を噛みしめ、推しの過剰摂取で天に召されそうになったりしながらも、幸せな日々を過ごしていた。 しかし、王女様の婚約パーティーに行くときにある噂を思い出す。イヴォルフ様と王女様が両思いである……と。 パーティーでは、二人の親密さを目の当たりにしてしまい──。 ゆるい設定なので、頭を空っぽにして読んで頂けると助かります。 全4話になります。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...