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1 それは処女受胎じゃなくて想像妊娠です
しおりを挟む「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」
診察室に入ってきた小柄な女の子はとてもいい匂いがした。
栗色の髪に大きな瞳、何もかも好ましい。
念願の番に会えたと思ったのに……残念だ。
「お相手はどちらに? 診察室に入ってもらっていいですよ」
番の場合、心配のあまりしつこく話を聞きたがるから、一度で説明を終わらせたい。
もしかしたら番じゃないかもしれないし。
その時は……どうしよう。待てるかな。
「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」
なん、だと……?
「それは……興味深い。何があったのですか? いや、何もなかったんですよね?」
何もなかったと言ってほしい。
興奮して瞳をキラキラさせた彼女がまぶしくてつらい。
これなら本当に神様に気に入られたのかもしれない……。
「今姉が妊娠三ヶ月なんです! つわりがひどくて、ご飯が食べられなくて、見ていたら私まで吐き気が!」
感受性が強いのかな。共感力が高いのかな。
俺の番、可愛いな。
「あ~、あ~なるほど……それで?」
「それに最近胸が……大きくなった気がして、ほらっ、お腹も!」
それはまじまじ見づらいし、答えづらい。
「…………」
誤解だって伝えたらものすごく落ち込んでしまいそう。
悩ましい。実に悩ましい。
「私、一人でもこの子を育てます! 無責任なことなんてできないっ」
俺の子も、大切に育ててくれそうだな。
「……えっと、じゃあ、月のものは……?」
「先週終わりました!」
「はぁ……」
だよね。お姉さんやご家族が少しこの子を甘やかしすぎたかな。
そんなところも可愛いけれど、彼女のためにも教育が必要だ。
俺が、教える……?
教えたいな。一から十まで。
「先生も、私みたいな小娘に子供なんて育てられないって言うんですかぁ⁉︎」
ため息みたいな返事をしたから、涙目の番が俺に詰め寄ってくる。
可愛い、愛しいなぁ。
「いや、むしろ愛情深くて、大事に育てるんじゃないかな」
本当にいい匂いだ。
彼女は人間なのかな、俺が番だって全く気づいていないけど。
「先生……」
そんなに潤んだ瞳で見つめないで。
我慢できなくなっちゃうよ。
「よかったら、私を父親にしてもらえないか? 医者だし、君に苦労はかけないよ」
それにいつか本当の父親にしてほしい!
「そんな……誰とも知らない子を……」
「いや、君、神の子だって言ったよね……まぁ、いい。番の面倒をみるのは当然だ」
このままここから出したくないくらい。
いや、診察室だからダメか。
「番?」
「君の番。私はこう見えてリス獣人だよ。ジャノだ」
「私はリーズです。ジャノ先生がリス獣人なのは見てわかりました。とっても可愛いので」
可愛い、だと――⁉︎
「可愛いのは、リーズ。君のほうだろう。一目見て好きになってしまった」
「……ジャノ先生!」
あれ、カップル成立かな!
「……私、これから先どうしようって思っていたので……そんな優しい言葉をかけられると、好きになっちゃいます!」
「好きになって! そうしたら、お互い幸せになれるから!」
番サイコー!
番可愛い。
「えーと、じゃあ今日の診察は午前中で終わるから、一緒に昼ごはん食べられる? あと何人か診るからしばらく待ってもらうことになるけど、その時に今後の相談ができたらいいな」
お願い、待つと言って欲しい!
「はい……先生。私いつまでも待ちます!」
番が俺をいつまでも待ってくれる⁉︎
なんて幸せな響き!
残りの仕事も頑張れるっ。
「……じゃあ、体に負担にならないようにこの部屋で休んでいて」
そう言って簡易ベッドとソファを置いた部屋へ案内する。
「先生、優しいですね。ありがとうございます」
「番に優しくしないなんてありえないんだよ。番を見つけたら、一生大切にする。番の幸せが私の幸せだから」
優しくするのは当たり前。
だって、ずっとずっと笑っていてほしいし、幸せに暮らしたい!
「先生、それ以上言うと私、先生にメロメロになっちゃうので……」
心の声も漏れちゃったのかな?
赤くなる番、大変可愛い。
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