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18 面倒事3
しおりを挟むあっさりとドレスを決めた私たちは、料理が届くまでの時間、ミアの話をした。
私の話を聞いて、相変わらず迷惑な女だとオーブリーが眉間にしわを寄せる。
だけど、私がミアの態度が悪かったら追い出すのと笑ったからか、じっと見つめながら優しく私の頬を撫でた。
「一緒にいたかったな。じゃあ、この後は援護するよ」
その手で私の唇に触れて、私の目を見つめたまま指に口づけて楽しそうに笑う。
色気のある仕草に心臓が跳ねたけど、ちょうど料理が届いたから何でもない風を装って食事をとった。
次にデートしたい場所だとか、食べたいものだとか、したいことを話しながら。
そんな私を穏やかな顔でじっと見るから、恥ずかしくて顔が熱くなった。
オーブリーが甘すぎる。
そんな時に出されたデザートに目を見張る。
給仕係が小さな陶器に入ったケーキの上に、たっぷりのアルコールをかけて目の前で火をつけた。
ゆらゆらと揺れる炎がきれい。
その演出が女性に好まれて人気が出るのもわかる。
「夜来たら、よかったな」
「うん。またオーブリーと来たいな」
昼間だというのに熱っぽい瞳で見つめてくるから私はどうしていいかわからない。
「オーブリー……そんな風に、見ないで」
「どんな風に見える?」
私を食べたいって思ってる?
そんなこと聞けないけど。
考えて赤くなる。
「赤くなるようなこと、考えたんだ」
「……デザートのせいだから」
私の指に彼の指が絡む。
「かわいすぎる」
「オーブリーのほうがかっこいいよ……」
「……まいったな、早く帰りたいのにすぐ動けなくなった」
「どうして? 今日は早く仕事を終わらせたからまだ一時間くらい大丈夫だよ?」
まいったな、って困ったように微笑む。
意味のわからない私が首を傾げると、絡めた手を包み込まれてオーブリーの脚の間へ誘導する。
温かく硬いものを握らされて私は固まった。
ますます赤くなった私をみて笑いながら手を離す。
「そういうこと。……気が紛れること話そう」
「あの……、せ、船長さんとの話、どうだった?」
「ああ、船の修理にあと半月くらいかかるらしいからその間に募集かけるって。万一の時は、船員を医者にするって笑ってたよ」
「そんなことできるの?」
「無理だよな」
本当は船長も医者なんだけどね、両方は大変だからって探してる。
まあ、なんとかなる、大丈夫だよと笑った。
「そろそろ、荷物取って帰ろうか」
私たちが店を出たところで身なりのいい穏やかそうな顔立ちの男に呼び止められた。
多分オーブリーより少し年上くらい。
焦っているような、眉尻を下げて困っているような表情をしている。
どうしたのかなと、前にでそうになった私を守るようにオーブリーが一歩前に出た。
「驚かせてすみません。私はジルと申します……先ほど、緑の石のついた指輪を売られた方、ですか? 指輪の持ち主を探しているのです。恋人なんですが、喧嘩して怒らせてしまいまして……」
私は瞬きして固まった。
ミアの恋人……?
確かにしたたかなミアならこんなタイプの男を手玉にとりそう。
「私はあなたたちのすぐ後に買取商に寄ったので、すぐに追いかけたのですが、慣れない土地で迷ってしまいました。それで、彼女は……?」
私がどう答えようか迷っていると、オーブリーが先に口を開いた。
「あなたのことは、知っています。直接お話したことはありませんが、同じ船に乗っていたので」
彼女のことは一日も早くあなたにお願いしたいです、とオーブリーが続けて言った。
「信用していいの?」
私が小声で聞くと彼は他国で有名な商人だから任せて、と頷く。
「先に彼女を送り届けたいので、少し待っていただけますか? 頼まれたとはいえ指輪を売ってしまったので、詳しい話はそのあとで」
「いえ、指輪くらい大したものではないので気になさらずに。彼女の気が済むなら安いものです。……では宿泊先まで一緒について行っていいですか? 今日はどこにいるかだけ確認したいので、私のことはまだ内緒にして下さい。何かプレゼントを用意してからもう一度口説きたいので」
人好きのする笑みを見せられて私は頷いた。
ほんの少しの違和感を感じながら。
目の奥が笑ってないようにみえたけど、相当怒らせたのかな。
お金も持っていそうだし、きっと喧嘩も値段のつけられないようなものをおねだりしたのかもしれない。
そうだとしても、ミアならプレゼントでころっと態度が変わるかもと思う。
オーブリーも任せろっていうし、早くミアがいなくなるなら、と私は深く考えることを放棄した。
「わかりました」
衣料店でドレスを受け取り、宿屋の手前でオーブリーが言った。
「先に着替えを渡しておいて。彼と今後のことを話してから戻るから」
「まだ秘密にして下さいね。……愛する人に逃げられるのはとてもとても悲しいので」
「はい」
ミアの元夫と恋人、だと思うと奇妙な組み合わせだけど、今のオーブリーは私の恋人なんだと訂正しながら私は扉を潜る。
カウンターにいたウィルに変わったことは何もないと聞いてから九号室に向かった。
「……まぁ、ちょっと地味だけど昼間着る分にはいいわ」
元々着ていたドレスは椅子の背にかけ、シーツを巻きつけただけの姿でベッドに座っていた。
化粧を落とした顔は本当の年齢よりだいぶ年上に見えるし、だらしない様子に目を丸くする。
もしかしたら明日にでも迎えがきて帰ってもらえるかもしれないと思うと、そんな姿もどうでもよくなった。
ジルさんがミアの手綱をうまく捌いてくれたらいいなと思う。
長居しないで部屋を後にした私に、デーヴィドが声をかけてきた。
「姉ちゃん、おかえり。特に変わったことはなかったよ……あいつ、全然出てこないのな。入り口見張っていたけど」
「多分……何もしないことに慣れてるんじゃないのかな」
夕食を運ぶと言っていたデーヴィドだけど、ミアがまだシーツだけの姿でいる可能性もあったからミリーに任せた。
案の定で、ミリーもあの客は娼婦ですかと聞いてくるから私は違うと思うと答えた。
それから、ウィルのことは信じてるけど、あれには近づけたくないと眉をしかめるから、そうだよね、と笑った。
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