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パターン5 (クールを気取った目覚めたばかりのヤンデレ)

すれ違った後は

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 昨日の買い物報告をしながら、いつものようにブレーカーの横を歩く。
 少し早足じゃないとついていけなくて、話しながら歩いているからか、息が切れる。
 今日は寝不足なのか朝から機嫌が悪そうで、手をつなげそうな雰囲気はない。

「あのねっ、それで……お揃いのハンカチを、買ったんだけどねっ」
「誰と?」

 昨日はデボラと買い物だって伝えてあったのに、覚えてないなんて私のこと興味がないのかな。

「えっと、ブレーカー、全然話聞いてなかったでしょ⁉︎ デボラと色違いにしたの」
「ふうん」
「それでね……えーと」

 何を話していたかわからなくなって、口ごもる。

「はっきり言っていいよ」
「はっきり? なにを?」
「…………

 今日のブレーカーはとてもおかしい。
 学校に着いて、ジョシュに絡まれた時も口数少なくて、授業中に気になってブレーカーを見るとたいてい目が合う。

 でもすぐにそらされるし、不機嫌なままだし、でも気づくとこっちを見てるし、いつもと様子が違った。

「わからない……」
「何が?」

 トビーに話しかけられて、首を振る。

「あのさ、急なんだけど今日、パイの試食に来れる?」
「うん、いいよ。でもデボラは無理かも。昨日予定があるって言ってたから」
「そうなんだ……急だし仕方ないか。彼女にはまた次の時にお願いしようかな。じゃあ、今日は一緒に帰ろうよ」

「うん、わかった。ブレーカーに話してくるね」
「……大丈夫?」
「えっと、なにが? じゃあ、またあとで!」

 トビーが大丈夫って聞いてきたのは、ブレーカーがものすごく不機嫌な顔をしていたからかもしれない。

「……聞こえてた。行ってくれば」
「うん、じゃあ帰りは一緒に帰れないけど……」
「別にもう好きにすればいい」
「ブレーカー?」

 ブレーカーの投げやりな言い方がすごく気になったけど、プイッと顔を背けるから何も言えなくなってしまった。
 それにこんな時は落ち着くまで待ったほうがいい。

「エリン、行ける?」

 離れたところからトビーに声をかけられて私が頷くと、ブレーカーの舌打ちが聞こえた。
 すごくすごく機嫌が悪い。

 そうっとブレーカーから離れるように一歩踏み出して、抵抗を感じて振り返る。

「ブレーカー?」

 私の服の裾をぎゅっと握っていて不思議に思う。
 これじゃあ、行ってほしくなくて拗ねてるみたい。

「……もしかして、ブレーカーも食べたいの? ずるいと思ってる? ブレーカーも甘いもの大好きだもんね。トビーに訊いてみようか?」
「……俺が行ったら邪魔じゃないか?」
「どうして? 私はブレーカーも一緒だと嬉しいけど」
「……つき合ってないのか?」

「え? 誰と? なんの話? えーと、わからないけど、ちょっと待ってね。……トビー! デボラの代わりにブレーカー連れてっていい? 私より味にうるさいから」

 トビーに向かって大きな声で尋ねた。

「いいよな?」

 ブレーカーの言葉にトビーはちょっと口元を引きつらせたように見えたけど、すぐに頷いた。
 なんとなくさっきよりブレーカーの機嫌が良くなっているように見えなくもない。

「チャドも来るよな?」

 トビーがチャドも誘って、なぜか男子の多い試食会になった。
 学園からそう遠くない場所にお店があって、よかったと思う。
 ちょっとみんなの会話がぎこちなかったから……。

 トビーのお兄さんは笑って、甘党の男達が集まったのかと喜んだ。店の奥へと案内されてカットされたパイが目の前に置かれる。

「こっちがレモンクリームパイ。こっちがチェリーパイだ。食べて素直な感想を聞かせてほしい」

 私はどちらもおいしくて、

「甘くてサクサクしておいしいです!」

 何か言いかけたチャドが口を閉ざす。代わりにブレーカーが言った。

「レモンクリームは甘酸っぱくて男でも食べやすいですね。これくらいの酸味なら爽やかで、いくつでも食べられそうかな、でもバターの風味が強いから2個で限界かもしれません。……チェリーパイは何かお酒の風味が残っていて大人っぽいので、小さな子供より大人の女性向けのように思いました。もちろんどちらもおいしいです」

 トビーのお兄さんが、レモンとお砂糖の配合に気を遣ったと答えた。
 チャドもレモンクリームパイが気に入ったみたい。チェリーパイは昔から食べなれてる甘味の強いほうがいいと答えていたけど。

「チェリーパイは伝統の作り方のものは今年も出すけど、一捻りしたいと思ったんだ。旬のものはどこの店も一斉に出すからね」

 私は単純においしいって言葉しか出てこなくてちょっと恥ずかしかったけど、ブレーカーを連れてきて正解だったかも。
 チェリーパイはもう少し変えるかもしれないってお兄さんが言っていた。

 長居してお店の邪魔をしてもいけないから、私達はそれぞれ帰ることに。
 トビーが店の前で手を振ってくれたけど、眉が下がっていたのは、私が頼りない感想しか言えなかったからかな。

「どっちもおいしかったね。ほんとにおいしくて言葉が出なかったよ。恥ずかしいなぁ」
「…………あぁ」

 いつの間にか機嫌はなおっていたけど、ブレーカーの口数はいつも以上に少ない。
 
「ブレーカー、手をつなごう」

 断られる覚悟をして言うと、立ち止まって私の前に手を出した。
 でも手を握ろうとすると、スッとよける。

「手を取る前によく考えてほしいんだ。もし俺の手をとったら、これから一生エリンを離さないし、逃がさない。逃げようとしたら、多分閉じ込める。……覚悟ができたら手を握ってくれ」

 ぽかんとしてしまったけど、考えるうちにじわじわと顔が熱くなる。

「それって……私のことが好きってこと? 離したくないくらい大好き? 監禁するくらい私を愛してるってこと?」

 ブレーカーは私の言葉にみるみる赤くなる。

「エリンはさ、俺が好き、なんだよな?」
「うん! 大好き」

 俺も、って返してくれるのかと期待した私にブレーカーは言う。

「じゃあなんで昨日トビーといたんだ?」
「えっと……デボラと別れた後、強風で傘が壊れて困っていたらトビーと会ったの。それで送ってくれたんだよ」
「…………」

 もしかしてずっと機嫌が悪かったのはトビーとずっと一緒にいたと思ったのかな?

「私はずっと昔からブレーカーが大好きだよ! 気持ちが揺らいだことないから! ブレーカーは……?」
「好きだ。俺はもう覚悟を決めた。エリンだけだ。だから早く手を取れ。絶対に、2度と逃さないから」

 ブレーカーの蜂蜜色の瞳に見入る。
 私は少しもためらうことなくブレーカーの手を握った。







          パターン5 終



******


 お読みくださりありがとうございました。
 変態で終わるのもなーと、爽やか?路線でヤンデレ風味です。

 これにて一旦完結とさせていただきます。
 また違ったヤンデレを思いつきましたら書いてみたいと思います!
 
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