嫌いって言って。

能登原あめ

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「ルチア、婚約おめでとう。あー、本当によかった! 私、一目で苦手って思ったの! 私は馬に乗って剣をブンブンふる筋肉モリモリの強くてカッコいい人と結婚したい!」

 ソフィアお姉様はリビオ様のいないところで、私に言った。

「リビオさまはとっっても、やさしいよ。私はけっこんしたらまいにち絵本をよんでもらえるからたのしみ!」

 婚約の前に何回も会ったけど、リビオ様の悪いところなんてひとつもなかった。
 太ってるのって悪いことなのかな?
 肌は白くてきれいだと思うし、柔らかくてマシュマロみたい。
 
「絵本なんて、大人になったら読まないわよ! それより大きくなったら夜会でダンスするのよ? あんなにコロコロしてたら踊れないんじゃない?」
「一緒にれんしゅうするから大丈夫だもん!」

 お姉様は王宮のパーティーで婚約者を見つけるんだって。
 お父様もお母様もそれでいいって言った。
 2歳の弟が伯爵家を継ぐし心配しないでいいんだって。

 私は知らない変な人と結婚するよりリビオ様のほうがいい。
 やわらかい手をつなぐのも好きだし、庭を歩いて花の名前を教えてもらったり、一緒に外でお茶を飲むのも楽しかった。
 
 用意したおやつの入ったバスケットがからっぽになって、お母様が男の子はたくさん食べるって先に教えてくれなかったら驚いていたと思う。
 見ていて気持ちよかった。
 お姉様は信じられないって顔していたけど。

「だいたい食べ過ぎなのよ」
「そうかな? 私はうらやましい。大好きなチェリーのクロスタータを丸ごと食べてみたいのに、すぐおなかいっぱいになっちゃうもの」

 たっぷりの甘酸っぱいチェリーのジャムをはさんだしっとりしたタルトは毎日食べたいくらい大好き。

 リビオ様はこの頃、剣術や体術の授業が増えてお腹がすくんだって言っていた。それに甘いものを食べるのは私と一緒の時だけの特別らしいから、たくさん食べたっていいと思う。

 ミントとレモンのゼリーはたくさん食べても太らないって侍女たちが言っていたし、パスティッチェーレ菓子職人が美味しいパンナコッタも作ってくれる。

「本当、お似合いの2人よね」
「ありがとう、お姉様! やっぱりリビオ様と結婚したいとか言わないでね? 私が結婚するんだから!」

「言わないわよ! 言うわけないわ。約束する」
「絶対よ? 約束だからね!」







 ソフィアお姉様は17歳の時に社交界にデビューしたけれど、20歳になる今も運命の相手に出会えていないらしい。
 貴族の令嬢は22歳までに結婚するものらしく、お姉様は時々私とリビオ様を見てため息をつく。

「来年、私より先に結婚するのよね?」
「今年、お姉様が相手を見つけたら一緒に結婚式ができるわ」
「そうね、そうだわ。一緒に結婚式は嫌だけど。私は私の好きな結婚式がしたいもの!」
 
 私とお姉様の会話をリビオ様は黙ったまま笑顔を浮かべて聞いている。
 22歳になったリビオ様は、私より頭ひとつ分背が高くなってふっくらした身体もいつの間にかすらっとして引き締まっていた。
 
 ダンスだって驚くくらい上手で、ホールで2曲続けて踊った後、バルコニーで続けてこっそり踊るくらい体力もある。
 私は昔の姿も今の姿もどちらも好きだし、中身は昔から穏やかで優しいまま。

 お姉様がリビオ様を上から下までジロジロ見ていると嫌な気分になる。
 私の婚約者は年々カッコよくなっている。
 いつも私に安心感とドキドキさせてくれる特別な人。
 
 やっぱりお姉様はリビオ様と婚約しなかったことを後悔しているのかな。
 もちろん譲るつもりなんてないし、万一の時は戦うつもりでいるけれど。

「どうしたの、ルチア? 楽しくない?」

 リビオ様は小さいことにも気づくから、首を横に振って笑った。
  
「リビオ様が隣にいて楽しくなかったことなんて一度もないわ。大好き、リビオ様が大好きです」

 私の身体がすっぽりと抱きしめられた。
 すごく安心して、私もリビオ様の背中に腕を回す。
 リビオ様以外と結婚なんて考えられない。

「僕も。ルチア、結婚式が楽しみだね」

 私の18歳の誕生日に結婚する。
 あと1年――。
 そう思っていたのに、リビオ様が原因不明の病で倒れた。
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