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5 新生活

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「これ、よければ使って。指輪、なくすと困るよね?」

 ジュストさんが私に革紐を渡してくれた。

「ありがとうございます! これでもう落とす心配しないですみますね」

 なんで気づかなかったんだろう。
 指輪にリボンを通して首からかければよかったんだ。

「そんな紐しかなくて悪いな」
「いえ、かっこいいです! 嬉しい、です。本当にありがとうございます」

 私の言葉にジュストさんがほっとしたように笑った。








「ここが物置ですか……?」

 部屋を片づけたら家賃はいいって言うから、相当散らかっていると思ったけど……。

「木箱がたくさんありますねー」
「……屋台で使ったものとか、使わなくなったものとか……まぁ、屋台関係のものを置いてある」
「端に積み重ねてしまえば、私はこのままで大丈夫そうです」

 窓もあるし、天井も高くて部屋もけっこう広い。
 木箱の大きさも同じものが多いし、表に出ているものもなくて全部木箱の中にしまわれている。

「ごめん……とりあえず今日はそうしよう」

 窓を開けてジュストさんが箱をどんどん壁に寄せて積み上げる。
 私が箱を持とうとすると、ほうきを渡された。

「こっちは大丈夫だ。掃除を頼む」
「はい!」

 壁一面に箱を積み重ね、ほこりを落として床をはき、モップをかけた。
 するとベッドと小さなテーブルが置けるくらいのスペースができて。

「二人で片づけたら早かったですね。スッキリしました」

 どこかでブランケットを買ってこないと!
 マット代わりに敷く分とかける分で。
 それなら今の手持ちのお金で足りそう。
 寒くなるまでに部屋を整えればいいかな。

 そんなことを考えていると、ジュストさんが同じ大きさの木箱を床に並べ始めた。

「ジュストさん?」

 せっかく片づけたのに。

「とりあえず、これをベッド代わりにして。……マットがあるから持ってくる」

 ジュストさんが軽々とマットを抱えて来て、その上にシーツを置いた。

「私、やります!」

 一緒にシーツの端を持ってピンと広げてかぶせれば、立派なベッドが仕上がった。
 満足のいくものが作れて、ジュストさんと笑い合う。

「……毛布はこれを使って。寒いならもう一枚」
「いえ! 大丈夫です! よかったです、買いに行こうと思っていたので。とっても助かりました」

 ジュストさんって気遣いも細やかで、口に出さずに行動する、すごく理想的な男の人で感動しちゃう。
 
「足りないものはないか? うちにあるものは何を使ってもいいよ」
「ありがとうございます! 今すぐは思い浮かびません」

 ジュストさんが、私の頭をポンと撫でた。

「じゃあ、その時言って。次はシャワー浴びて、一眠りかな。……パジャマある?」
「ない、です……なくても平気です!」

 いや、俺が平気じゃないって、ジュストさんが呟いた気がしたけど。

「パジャマ代わりになりそうなもの持ってくるから」
「何から何まで、ありがとうございます」
「リルは、たいしたことしてなくてもありがとうって言うんだな」

 そう言われて首を傾げる。

「感謝の言葉は、何度言っても減らないから出し惜しみするなって、お母さんがよく言ってました」
「そうか……」
「ジュストさんには、言い足りないくらいです。本当に本当に感謝してます」

 わかった、って言ってジュストさんが部屋を出た。
 私、うるさかったかな。
 でもすぐにパジャマかわりのシャツを持って来てくれて浴室に案内してくれた。

「使い方は大丈夫か?」
「はい、あの……あまり、ありがとうって言わないほうがいいですか?」
「言葉が足りなくて悪かった。……すみませんと言われるよりありがとうのほうが気持ちいいものだって思ったんだ。……そのままでいい。リルはそのままがいい」

 何だかちょっと恥ずかしい気持ちになって。

「ありがとう、ございます……ジュストさん」
「うん、じゃあ、声かけなくていいから昼までゆっくり過ごして。俺も部屋で一休みする」
「はい、ありがとうございます」

 






 お風呂に入った後、ジュストさんに声をかけなくていいと言われていたけど迷っていた。
 さっき掃除したから、もう一回ジュストさんもお風呂に入りたいんじゃないかって。

 でも、疲れて部屋で眠っているかもしれない……。
 私を乗せてずっと走っていたから、すごく疲れているはず。
 邪魔しちゃうのは悪いし……。

 ジュストさんの部屋の前に立ったものの、ノックしていいものか悩んだ。
 部屋に戻ろうか、どうしようか廊下をウロウロする。 

 そしたらすっと扉が開いて。

「……リル? どうした?」

 足音立てたのかな、私。
 見上げると、ジュストさんがすうっと息を吸って、それから一歩後ろに下がった。

 私、邪魔しちゃったのかもしれない。
 だってなんだか困ったような、ちょっと怖い顔をしているから。

「あの……、お風呂ありがとうございました。ジュストさんも入るかなって……。邪魔してごめんなさい」
「そっか、ありがとう。謝ることは何もないよ。……じゃあ、冷たいシャワーでも浴びてこようかな。リル、早く部屋に戻っておやすみ」
「はい! おやすみなさい」

 ジャグリオン獣人さんは、水浴びするんだなぁ、なんて思って。
 足早に通り過ぎるジュストさんの後ろ姿を見送った。
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