上 下
32 / 44
領地で新婚生活編

30 新婚旅行?

しおりを挟む


 あっという間に一月が経ち、久しぶりに両親と一緒の晩餐。

「あなた達は新婚なのだから、暖かいところへ旅行してくるといい。のんびり色々な世界をみるのも楽しいよ。きっといい思い出になるから」

 父様が弾んだ声で提案してきた。
 もしかして、父様達は純粋に旅行に行っていたのかも。
 そして、父様も領地で母様と二人きりになりたいのかも……?
 
「そうですね、アンジー、行こうか」
「はい、ぜひ」




 国をまたぐことになって、語学が堪能な者も何人かついてくることになった。
 船に揺られて一週間。

「人間と獣人が仲良く共存する国で、僕も小さい頃に一度だけ訪れたことがあるんだけど、みんな子供に優しかったよ。……変わっていないといいな」

 僕が迷子になりかけた時、熊の獣人が肩車してくれて両親を探してくれた。
 菓子職人だったらしく、甘くて素朴なお菓子も用意してくれて、ほっとしたんだった。

「そうなの。私は初めてだからどきどきするわ」








 船から降りた瞬間、どこからか香ばしい香りがした。
 昔の記憶より整備されていてきれいだ。

「わくわくするわ……」

 そう言って笑うけど、アンジーの顔色がすぐれない。
 船酔いで、具合が悪いのに僕に心配かけないように元気を装う。

「今日は、このまま宿に向かおう? 時間はたっぷりあるからね」
「……ありがとう。ヴァル大好き」

 きゅん。
 気持ち悪いの、代わってあげられたらいいのに。
 父様お勧めの豪華な宿でアンジーのお世話をしながらのんびり過ごす。

 翌日、回復したアンジーが僕の行きたいところに行こうと言った。
 ヴァルの行きたいところが私の行きたいところだから、って。
 僕だって同じだけど、今日はそれに甘える。

「船を降りた時にね、すごくいい匂いがしたんだ。宿の主人に訊いたら有名な燻製肉があるらしい。……まだアンジーが食べられなくても、日持ちするから買いに行っていい?」
「ええ、もちろん。この辺りの名物なら、食べてみたい」

 売っているという店に行ったけれど、ちょうど売り切れ。
 ガッカリする僕に、直接作業場に行けば買えると教えてもらった。
 ここからそう遠くない場所と聞き、馬車で向かう。

「ここまで来たら、食べたいな。……アンジー、付き合わせてごめんね。体調は大丈夫?」
「うん、もう平気。だって、朝から食事がとれたもの」
 
 馬車から降りて少し歩くと建物が見えてきた。
 従者達は離れて後ろをついてくる。

「いい匂いがするから、あそこだね。あ、見て……エプロンしたゴリラ獣人が出てきた」
「職人さんって感じね……あ、私達に気づいたみたい」

 ゴリラ獣人が、部屋の中に向かってウホウホ吠えると、中から小柄で猫みたいな女性が出て来た。
 キョロキョロして僕達に気づくと手を振って声をかけてくれる。

「こんにちはー! お客サマかな? こちらへどうぞ!」

 言葉も通じるし、女性の人懐っこい雰囲気に僕たちはほっとした。
 
「燻製肉デスか?」
「あ、はい」
「どのくらいご用意しましょう?」
「じゃあ、これくらいで」

 僕が必要な量を言うと、女性が職人さんに話しかける。

「……ウホ。ウホウホっ、ウホ?」
「あの、お客サマ! どのくらい持ち歩きます? 三月くらい日持ちのするものと、一週間程度のものと、ありますケド?」
「じゃあ、日持ちのするほうを多く、短い方はこれくらいで」
「はい、かしこまりました~! アル、……!」

 二人は夫婦なのか、ものすごく仲が良さそう。
 さりげなくボディタッチして、時々見つめ合うから、見ているこっちが恥ずかしくなる。

「はい、お待たせしました。これ、よかったらおまけです。旅の疲れには甘いものデスヨ!」
「ありがとうございます。嬉しい……これも旦那様が作ったの?」

 アンジーが異国のお菓子に興味を示した。

「アルが? いえ、これはワタシが焼きました。素敵なご夫婦には幸せのお裾分けをしているので。ぜひ、また、来てくださいね!」

 





 部屋に戻って包みを開く。

「アンジーは、よくあの二人が夫婦って気づいたね」
「ふふっ……そう? あの旦那様、ちょっと似てるなって思ったの」

 え?
 僕、ゴリラっぽい……?

「だって、あの方アルって名前でしょ? 音がヴァルと似ているなって……好きなのはヴァルだけよ」

 一瞬ドキッとしちゃったよ!
 その後、二人でバナナケーキを分け合って食べて、甘い夜を過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BLの総受けは大好物だけど、私に逆ハーって理不尽

能登原あめ
恋愛
* R18あほエロ多めです。タグにご注意下さい。  女神様が言った。 「総受けヒャッハーって言ってたから、この世界を気にいると思って♡」  あれはBLゲーの話だし、お酒飲んでたし。  目の前に立つ五人の男たちは、この先私以外と結ばれることがないという。 「重っ……」 「ほら、流行りの逆ハーってやつね♫」  リアルでは相手は一人で十分。  五人の相手だなんて私には経験値が足りなすぎる!  そりゃ、ゲーム内ではビッチに何股もかけたけど。 「あら? 『ウェーイ!』って言わないの?」  イケメンさんたち過ぎて恐れ多い。  そんな私の逆ハーものがたり。 〈五人の男たち〉 カーソン  沼地に住む薬師 キーラン  黒髪の暗殺者 クラウス  BL総受けな雰囲気の教師 ケイ    炎の魔法使いの獣人? コリー   元日本人で神様?   (クラウスは不憫枠、コリーは変態枠となっております) * 10話までは一途プレイのように一人の名前だけ追って読んでも大丈夫です。 * 息抜きにさっくり読めるエロを目指したため、頭を空っぽにしてお読みいただけると幸いです。Rシーンはほとんど毎回入ります。 * 全11話+おまけ話 * コメント欄ネタバレ解放してありますのでお気をつけください。 * お読みいただきありがとうございます。ささやかに修正しました。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

カップル奴隷

MM
エッセイ・ノンフィクション
大好き彼女を寝取られ、カップル奴隷に落ちたサトシ。 プライドをズタズタにされどこまでも落ちてきく。。

【短編ホラー集】迷い込んだ者たちは・・・

ジャン・幸田
ホラー
 突然、理不尽に改造されたり人外にされたり・・・はたまた迷宮魔道などに迷い込んだりした者たちの物語。  そういった短編集になりはたまた  本当は、長編にしたいけど出来なかった作品集であります。表題作のほか、いろいろあります。

(完結)天然系大富豪の妻が裏切り者の夫に遺言してみたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はソフィア・フェラーリ。両親はすでに他界しているけれど結婚したばかりの夫と学生時代からの親友アメリアもいるし、忠実な使用人達に囲まれて幸せに暮らしていたの。 でもね、最近体調不良で悩んでいたわ。それで評判のお医者様に診ていただいたら難病だと言われたのよ。だから、私は遺言状を書くことにしたわ。 そんな時、庭園から聞こえてくる夫とアメリアの会話を耳にしてしまったの。それは、アメリアが妊娠してしまったという内容だったわ。 なんてこと! その話を聞いて私が考えた遺言状は・・・・・・皆が幸せになれるような内容だったのよ。ところが・・・・・・ これは大富豪のお人好しの人を疑うことをしないソフィアが無意識に復讐してしまう物語です。 最後はハッピーエンドですが、ざまぁ要素大きめかもしれない内容になっていますのでR15にしました。 因果応報のコメディー要素と残酷シーンありの物語です。 脱字・誤字多めの作者です(恥)ので教えていただけると助かります。設定として異世界のお話で必ずしも貴族が絶対権力をもつわけではありません。 終わりまで既に執筆済みですので完結保証。

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m

(完)結婚式当日にドタキャンされた私ー貴方にはもうなんの興味もありませんが?(全10話+おまけ)

青空一夏
恋愛
私はアーブリー・ウォーカー伯爵令嬢。今日は愛しのエイダン・アクス侯爵家嫡男と結婚式だ。 ところが、彼はなかなか姿を現さない。 そんななか、一人の少年が手紙を預かったと私に渡してきた。 『ごめん。僕は”真実の愛”をみつけた! 砂漠の国の王女のティアラが”真実の愛”の相手だ。だから、君とは結婚できない! どうか僕を許してほしい』  その手紙には、そんなことが書かれていた。  私は、ガクンと膝から崩れおちた。結婚式当日にドタキャンをされた私は、社交界でいい笑い者よ。  ところがこんな酷いことをしてきたエイダンが復縁を迫ってきた……私は……  ざまぁ系恋愛小説。コメディ風味のゆるふわ設定。異世界中世ヨーロッパ風。  全10話の予定です。ざまぁ後の末路は完結後のおまけ、そこだけR15です。 

宇宙航海士育成学校日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。  その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。  しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。  誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。

処理中です...