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領地で新婚生活編
30 新婚旅行?
しおりを挟むあっという間に一月が経ち、久しぶりに両親と一緒の晩餐。
「あなた達は新婚なのだから、暖かいところへ旅行してくるといい。のんびり色々な世界をみるのも楽しいよ。きっといい思い出になるから」
父様が弾んだ声で提案してきた。
もしかして、父様達は純粋に旅行に行っていたのかも。
そして、父様も領地で母様と二人きりになりたいのかも……?
「そうですね、アンジー、行こうか」
「はい、ぜひ」
国をまたぐことになって、語学が堪能な者も何人かついてくることになった。
船に揺られて一週間。
「人間と獣人が仲良く共存する国で、僕も小さい頃に一度だけ訪れたことがあるんだけど、みんな子供に優しかったよ。……変わっていないといいな」
僕が迷子になりかけた時、熊の獣人が肩車してくれて両親を探してくれた。
菓子職人だったらしく、甘くて素朴なお菓子も用意してくれて、ほっとしたんだった。
「そうなの。私は初めてだからどきどきするわ」
船から降りた瞬間、どこからか香ばしい香りがした。
昔の記憶より整備されていてきれいだ。
「わくわくするわ……」
そう言って笑うけど、アンジーの顔色がすぐれない。
船酔いで、具合が悪いのに僕に心配かけないように元気を装う。
「今日は、このまま宿に向かおう? 時間はたっぷりあるからね」
「……ありがとう。ヴァル大好き」
きゅん。
気持ち悪いの、代わってあげられたらいいのに。
父様お勧めの豪華な宿でアンジーのお世話をしながらのんびり過ごす。
翌日、回復したアンジーが僕の行きたいところに行こうと言った。
ヴァルの行きたいところが私の行きたいところだから、って。
僕だって同じだけど、今日はそれに甘える。
「船を降りた時にね、すごくいい匂いがしたんだ。宿の主人に訊いたら有名な燻製肉があるらしい。……まだアンジーが食べられなくても、日持ちするから買いに行っていい?」
「ええ、もちろん。この辺りの名物なら、食べてみたい」
売っているという店に行ったけれど、ちょうど売り切れ。
ガッカリする僕に、直接作業場に行けば買えると教えてもらった。
ここからそう遠くない場所と聞き、馬車で向かう。
「ここまで来たら、食べたいな。……アンジー、付き合わせてごめんね。体調は大丈夫?」
「うん、もう平気。だって、朝から食事がとれたもの」
馬車から降りて少し歩くと建物が見えてきた。
従者達は離れて後ろをついてくる。
「いい匂いがするから、あそこだね。あ、見て……エプロンしたゴリラ獣人が出てきた」
「職人さんって感じね……あ、私達に気づいたみたい」
ゴリラ獣人が、部屋の中に向かってウホウホ吠えると、中から小柄で猫みたいな女性が出て来た。
キョロキョロして僕達に気づくと手を振って声をかけてくれる。
「こんにちはー! お客サマかな? こちらへどうぞ!」
言葉も通じるし、女性の人懐っこい雰囲気に僕たちはほっとした。
「燻製肉デスか?」
「あ、はい」
「どのくらいご用意しましょう?」
「じゃあ、これくらいで」
僕が必要な量を言うと、女性が職人さんに話しかける。
「……ウホ。ウホウホっ、ウホ?」
「あの、お客サマ! どのくらい持ち歩きます? 三月くらい日持ちのするものと、一週間程度のものと、ありますケド?」
「じゃあ、日持ちのするほうを多く、短い方はこれくらいで」
「はい、かしこまりました~! アル、……!」
二人は夫婦なのか、ものすごく仲が良さそう。
さりげなくボディタッチして、時々見つめ合うから、見ているこっちが恥ずかしくなる。
「はい、お待たせしました。これ、よかったらおまけです。旅の疲れには甘いものデスヨ!」
「ありがとうございます。嬉しい……これも旦那様が作ったの?」
アンジーが異国のお菓子に興味を示した。
「アルが? いえ、これはワタシが焼きました。素敵なご夫婦には幸せのお裾分けをしているので。ぜひ、また、来てくださいね!」
部屋に戻って包みを開く。
「アンジーは、よくあの二人が夫婦って気づいたね」
「ふふっ……そう? あの旦那様、ちょっと似てるなって思ったの」
え?
僕、ゴリラっぽい……?
「だって、あの方アルって名前でしょ? 音がヴァルと似ているなって……好きなのはヴァルだけよ」
一瞬ドキッとしちゃったよ!
その後、二人でバナナケーキを分け合って食べて、甘い夜を過ごした。
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