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領地で新婚生活編

2 散策、そして。

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 領地へ着いて食事を済ませた後、ずっと座り続けて凝り固まった身体をほぐすために、アンジーと散策することにした。

 僕の育った場所を彼女に見せることができて嬉しい。
 いつかここで、僕たちの子供達を育てることになるんだって考えるだけで泣けてくる。
 泣くのは我慢するけどね!
 アンジーの手をぎゅっと握り、屋敷の裏に広がる林に案内した。

「この木はね、ほら、みて。りんご。あと少しで収穫の時期かな。こっちは生でおいしい。あっちの木のりんごは赤いけど酸っぱいからパイに向くんだって」

 昔、木に登って食べたら酸っぱくて驚いたんだ。
 あの時の経験が今、生かされている!
 役に立たない経験なんてないんだね。

「そうなの……楽しみね」

 彼女の柔らかい笑顔にきゅんとする。
 あー、かわいい。
 絶対、りんごよりアンジーのほうがおいしいよ。

「うん、他にも焼きりんごとかりんごのシチューとか、アンジーが食べたいものがあったら言って」
「ありがとう。伯爵領にはりんごはなかったの。りんごのジャムののったクッキーとか、作れるかな……?」
「もちろん! 僕、食べたことないけど、きっと作れると思う!」
「ふふっ……それなら、ヴァルは初体験なんだね。とっても、おいしいの」

 初体験⁉︎
 アンジーの言葉に違うこと考えちゃうよ!
 あぁ、やっぱり、屋敷の一室をおこもり部屋に改装しようかな? 
 父様達が帰ってくるまで、アンジーと初めてのコトにチャレンジしてもいいと思う!
 
「アンジーとここに来れてよかった!」
「うん、私も」

 そのまま林を抜けて川まで出た。

「この川を挟んで隣の領地なのだけど……うん、ここでピクニックもいいかも」
「そうね、流れも穏やかだし、きれい」

 川の幅は男の背丈の五人分くらい。
 なぜそんな測り方かと言うと、向かいの領地の七人兄弟のうち、上の五人が川岸から川岸までお互いの足を持って橋を作って遊んでいたから。

 彼らの末っ子が僕と同い年だから、ごくまれに遊んだこともあるけど、たいてい野生的な遊びを見ているだけだった。
 
 魚を素手で捕まえて火に放り込んで焼いて食べたり、木登りしてりんごを投げ合ったり、大きな穴を掘って池を作ろうとしたり……蛇を振り回して追いかけられたり……まぁ、いい思い出……ではないな。
 
 今は長男が伯爵領を継ぐことになっていて、他の兄弟は騎士になったり、冒険者になったり、婿養子になったりしているらしい。
 確か四男と同い年の七男が残っていたと思う。


「おーい! ヴァル‼︎ 久しぶりだな!」
 
 そんなことを考えていたからかな。
 川の向こうから、おっとりした七男のジョンに声をかけられた。
 彼は成長期だからかずい分大きくなった。
 熊並みに。
 その後ろに気怠そうな四男、カーターが立っている。

 あ、なんかいやな予感。
 あいつ、嫌い。

 水遊びは川じゃなくて湖に変更!
 僕はアンジーを引き寄せた。
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