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2 島国
しおりを挟む島国ではある、多分。
海が近くて、潮の匂いがして……人々は黒髪黒目の人……以外もいっぱいいる!
女性はふんわりしたワンピースを着て、男性はシャツにハーフパンツに草履?
日本の最南端、とはまた違うと思う。
なんだろう? 違和感。
日本じゃなくて、まだ異世界じゃない?
「あのー、すみません。この島の地図ってどこかにありませんか?」
のんびり日向ぼっこをしている老夫婦に話しかけると、すぐ近くに観光案内所があることを教えてくれた。
さすがにここはどこですか、なんて訊けないよ!
来たことがない日本の小島ならいいんだけど……。
きっと、島全体が異国風の観光施設なのかも?
そうだ、きっとそれだ!
それか……基地の中なら異国っぽくてもおかしくない。物々しい装備してる人なんて1人もいないけどね!
違和感を感じながら辿り着いた場所で見たのは、地球では見たことのない配置の島々と文字。
なぜか読めるのはありがたいけど、ここは異世界のままらしい。
まさか……別の異世界だったらどうしよう⁉︎
お世話になったあの国は――?
「すみませーん、もっと大きい地図はないですか?」
観光案内所のお姉さんによると、ここはつい最近まで聖女として暮らしていた国の所有のメノアレス島と言って、本土まで船で5日くらいかかるみたい。
カレンダーを確認すると、時間も1年巻き戻って……いなかった――。
何度見ても、今日のまま。
ええー?
何でこんなところに飛んじゃったんだろう?
でも不幸中の幸いかも……別の異世界だったらどうすることもできなかっただろうし。
「週に一度船が出ていて、昨日出航してしまったんですよね。しばらくこの島から出ることはできないですよ。それにこの時期は大雨が多くて欠航も多いんです。……もし、宿代が心配なら船を待つ間できる短期のお仕事も紹介しますけど……観光地なので、結構そういうお客さんも多いんですよね」
そうだった。
宿代だけじゃなくて、船のチケットだって買えない!
こんなことなら、珊瑚のネックレスとか、柘榴石の指輪とかもらっておけばよかった。
お金はもらっても意味ないって思ったし。
日本に持ち帰ってもベルナルドさんを思い出してつらくなるかもだなんて、乙女心炸裂してる場合じゃなかったよ!
「……あの。どんな仕事ですか? 私にもできます?」
「そうですねぇ、女の子なら宿屋の皿洗いや掃除、料理屋の給仕ってところですね」
そう言って私をじろじろ見る。
「短期でしっかり稼ぎたいなら酒場もありますけど……成人してます?」
「してます! でも、料理屋がいいです。酔っ払いの相手は多分できないと思うので」
「わかりました……ちょっと聞いてみますね。宿はとってあります? まだなら一緒に探すか住み込みのところをあたってみますけど」
「住み込みでお願いします!」
紹介してもらったのは、島でも有名な大きなレストラン。働いているのも同じような立場の子やリゾートバイトのノリの子も多くいて、サバサバしている。
入れ替わりが多いからかな。
ありがたいことに寮があるからそこに入ることになった。賄いも出るというし食事も困らない。
人生で1回くらいリゾートバイトしてみたかったんだよね。いい経験かも!
ここで船代と神殿までの交通費と宿代を働いて貯めてから、もう一度、今度は正確に日本のあの時間に戻してもらわないと。
次は遠慮せずもらえるものはもらうって決めた。
この先何があるかわからないから、周りからどれくらいかかるか聞いて、余裕をみて最低2ヶ月、頑張れたら3ヶ月も働けばなんとかなると思う。
早く帰りたい気持ちもあるけど、あの日に戻してもらえるなら問題ない……多分。
こっちで生活している間に髪が伸びたり誕生日を迎えて成長している分、見た目と中身が当時と変わってしまう不安はあるけれど。
とにかく今やれることをやるしかない!
「アン、こっちをお願い!」
「はーい! わかりました」
仕事は朝食の片づけと皿洗い、昼食は配膳と片づけ。夜は酒場になるし、長時間労働はキツいから私は仕事しないけど、昼から夜中まで働く子達もいる。
チップがたくさんもらえるらしいから、同じ時間働くなら夜働いている子のほうが稼ぎもいいし、さっさと辞めていく。
同じ部屋の子が夜中心に働いていて、入れ違いで挨拶くらいしかしてないから、ほぼ一人部屋と変わらなかった。
気が合わなくてストレスが溜まることもないし、無理なく働いてあっという間に2ヶ月が経つ。
レストランのオーナーと支配人にはあと1ヶ月で辞めると伝えてある。
雨季らしく外に遊びに行くこともあまりないからお金を使うこともなくて予定より貯まっていると思う。
職場の人とだいぶ打ち解けてきたし、晴れたらBBQしようとか海にくり出そう、なんて話もしていてこの生活も悪くないかもと思う自分がいてちょっと困る。
案外私ってどこででも生きていけるのかも。
この島は観光にものすごく力を入れているみたいで、すぐに飽きることもないらしい。
のんびりするのもいいし、今は雨季だけどほとんどの季節は海で泳げるらしいし、お忍び利用のコテージもある。
島には酒造所もあって、お酒は安いし、おいしいし、島民も気さくで雰囲気がいいから心地いい。
せっかくだから船に乗る日までのんびり観光しながら、昼だけ働いてもいいかなと思っていたのだけど。
「悪いが、人が足りなくて今夜だけ仕事に出てくれないか? このところの雨続きで、出港できず客が多いんだ」
同室の女の子は3日前に結婚して、寮を出て行った。ちょっとびっくり。仕事は辞めないけどあと数日お休みをとっている。
昼の仕事も慣れたし、私も1回くらいなら夜の仕事もなんとかなるかな。
「昼間よりチップをたくさんもらえるから、稼げるよ。それに、ボーナスもはずむから」
「わかりました、やってみます」
そういうわけで、1日限定で夜の仕事に入ることになった。
何事も経験、経験。
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