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番外編

ルルの恋のお話 3

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 私の家の場所が街の外れだと知って、ノアさんは暗くなる前に送りたいからお散歩デートにしようと言った。
 ちょっと残念そうだったけど、私は少しでも長く一緒にいられることが嬉しい。
 
「ルルと色々なところへ出かけてたくさん思い出を作りたい」
「うん。これからいっぱいデートしてくれる?」
「もちろん」
 
 ノアさんは四、五年前にベンさんと一ヶ月ほどかけて海を渡ってこの街にやって来た菓子職人さんたちで、店を持つ前にまずは屋台を始めたのだと言う。

 ご両親の元には一番最初に番を得た妹たち夫婦がいるから心配しなくていいんだって。
 お兄さんは二年ほど前に番を見つけて結婚したから、ノアさんは一人暮らしをしているって聞いた。
 
「それなら、早く一緒に住めたらいいのにな」

 私の呟きにノアさんが唸る。
 なんとなく、私と同じ想いだけど大人としてうなずけない時に唸るのかなって。
 
「ここが私のお家。パパももうすぐ、帰ってくると思うの。……ノアさん、入って待って?」

 玄関の前で唸ってから言った。

「ダメだ、ルル。さっきも言っただろう? 外で待つから、ルルも気にせず家の仕事をしてくれ」
「でも……離れたくないのに」
「……黙って帰らないから、中に入って。見える所にいるから」

 ノアさんはなかなか頑固だと思う。
 私がもう一押ししようとしたら、パパが帰ってきた。
 
「そんなところでどうしたんだ?」

 振り返ったノアさんがきっちりお辞儀して挨拶をした。
 パパはすぐに私の番だとわかって、部屋に誘った。

 パパもノアさんも同じ熊獣人だからかすぐに打ち解けてそのまま一緒に夕食を取り、せっかくだからとチェリー煮とリンゴ煮を瓶ごと温めてサクサクのタマゴヤキに乗せて出す。

「ノアさんとお兄さんから頂いたの」

 彼が最後に六個にするって言ったのが、ちょうど一人二個ずつ食べることになってよかった。
 最初からこうなると思っていたかはわからないけど、もしかしたら想定はしていたのかな。

 どちらも本当に美味しくて、こんな美味しいものが作れる番ってすごいと思ってみつめてしまう。
 そんな私をパパは、結婚できるのは十八の誕生日だからねって念を押した。

「うん。わかってる。じゃあ……あと一年と半分ちょっとだね」

 ノアさんが二年切っているんだ、ってほっとしたように呟いたから、思わず私とパパは彼をじっとみつめた。

「……お嬢さんを大切にします。年の差があるので、ちゃんと……待ちますから」
「……よろしく、頼むよ。大事な末娘だから」
「はい、お約束します」








 十八歳のその日、ララが私のために作ってくれたとっても可愛いワンピースを身につけていた。
 前見頃にくるみボタンが並んでいて脱ぎ着がしやすいのは、マミーのアイデアで、結婚する日に着るワンピースは開きがあったほうがいいって。

 理由はわからないけど、この世界にたった一つしかない特別な私だけのワンピースだから、今度デートにも着たいと思う。

 仕立て屋で修業し始めてからララはすごく、すごく上手になった。
 私にはお店で売っているのと同じように見えるけど、まだまだって言う。
 髪型はマミーがゆるくまとめて生花を飾ってくれた。

「ルル、おめでとう。すごくきれい」
「ありがとう、私もマミーたちみたいな幸せな家庭を作りたい」
「私は……ケビンさんに、ララとルル、……みんなと過ごしたあの日々がお手本だと思っているよ。もちろん、今があるのはシロくんのおかげでもあるけど」

 もうすぐ三人目が産まれるマミーが大きなお腹で抱きついてきた。
 お腹の中の赤ちゃんが私のことを蹴るのはおめでとうって言ってくれてるのかな。
 今度はララが抱きついてきた。

「ルル、おめでとう。私、仕事が楽しくてまだ結婚なんて考えられないから、四人目の孫はルルにまかせたからね!」

 早く一人前になって、自分の工房を持つんだって熱く語っていて、それを聞いたシロくんが何かを描きつけていたし、パパも後ろにいたから近々ほんとにそうなりそう。

 ベンさんも奥さんも自然ととけ込んでいたのは明るい夫婦だからかな。
 私たちの結婚を祝う食事会の後、マミーたちが新婚時代に過ごしたあの幸せな家に向かった。

 何年か前にララと私、先に番を見つけたほうが住むなんて話をした時は半分冗談だったのに。
 パパの家からもマミーたちの家からも近いから嬉しい。
 ララの工房も近くに建ったらいいのにな。


「ルル」

 私は初めて会ったあの日のようにノアさんに抱き抱えられて、新居の中へと入る。
 私たちは上背があるから、大きめの家具をシロくんに注文したところ、結婚祝いとしてプレゼントしてくれた。

 今幸せに過ごせているのは私たちのおかげだからって。
 とても居心地の良い空間に、胸がじんとする。
 みんなの愛がいっぱい詰まって、そこに私はとても大好きな番と二人でいるから。

「ノアさん、愛してます」

 私の言葉にノアさんが打ち震えた。
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