上 下
9 / 12
番外編

ルルの恋のお話

しおりを挟む

* おまけから、さらに二年後くらいのお話です。全四話、Rは最終話です。








******


 ララが十九歳になった時、住み込みで仕立て屋さんへ修業に行くことになって、パパと二人暮らしになった。
 昔から成人したら修業したいって言っていたけど、マミーに赤ちゃんが産まれてすごく小さくてかわいくて。

 でもどうしたらいいかみんなで悩んで協力してたら日々があっという間に過ぎたのと、私が十六歳になって留守番もできるねってことでララが笑って家を出て行った。
  いつまでも子供扱いで少し拗ねたのは内緒。

 最初はちょっとさみしいかなぁと思ったけど、昼間はよくマミーのところで二人に増えた子どもたちの様子を見ながら、マミーのお手伝いをしたり、雑貨屋に卸すハンカチに刺繍をしたりもする。

 この頃のマミーは、途中で止めやすいからと編み物専門で、ベビー小物から帽子や靴下を育児の合間に作るのが息抜きになるって言う。

 そんなふうに過ごして、夕方になるとパパが迎えにきてくれるか、一人で大丈夫だよって言ってもシロくんがおうちまで送ってくれる。
 パパが仕事で泊まりになる時はマミーたちのおうちに泊まらせてもらうのだけど、二人がとっても仲がいいから私も早く番が現れないかなって、毎日お祈りしてる。
 
 みんなが言うには、番が近くにいると甘くていい匂いがするって。
 町に行くといい匂いがするから、きっとどこかにいるんだって私が言ったらパパは屋台のお菓子の匂いとは違うんだぞって言った。

 ほんのちょっと寂しそうな顔するからぎゅっと抱きついて、絶対、近くに住んでくれる番をみつけるから安心してって笑った。
 パパもぎゅっとしてくれて、大好きだなって思う。
 番が特別好きってどんな気持ちなんだろう。
 好きの種類が違うのかな。

 それに、番って一人じゃないんだって。
 もしも同時に二人みつかったらどうなるか聞いたら、みんなが聞いたことないなぁって言う中、何人と結婚してもいい国があるんだよってなんともいえない表情でシロくんが言った。
 そんな国があることに驚くけど、みんなが幸せになれるならいいのかな。

 私も早く番と出会いたい。
 マミーとシロくんみたいになりたい。
 ララはパパがママという番を亡くしてものすごく悲しんだのを見てきたから、番が現れなくてもいいんだって言う。

 ママが亡くなったのは私が六歳の頃で、どうしてもう会えないのか分からなくてしばらく涙が止まらなかったけど、パパがいっぱい抱きしめてくれたしララもいてくれた。

 幼かったからララと見てきたものが違うのだと思う。
 仕事で一人前になることがまず一つ目の目標なんだって言うから、それがララの幸せなら私は精いっぱい応援したい。
 







「あ~いい匂いっ! ここに来るといつも幸せな気分になるんだよね~」

 屋台の並ぶ公園へと続く大通り、今日は一人でララの修業しているお店までお届け物。
 昨日はお休みでおうちに戻ってきたララだったけど、お気に入りのストールを忘れて帰ったから、ささっと渡しに行った。

 今日はシロくんもお休みだから、マミーのところにはお邪魔しないことにして、久しぶりのショッピングを楽しむ。
 明るい時間だし、慣れ親しんだ街だから危ないこともない。

 今夜は何か甘いものを買って帰ろうかな。
 夕食の準備もしてきたし、パパと二人きりだから、旬のタイタンがのったタマゴヤキを二切れ買おうかな。

 ここ数年流行っているお菓子で、甘く煮た果物が小麦粉と油と塩と水だけで作ったサクサクの生地の上にのっていて、おいしいのだけど、作るのにちょっと手間がかかる。

 いつもだとみんなが好きなイモノニッコロガシの店で買うけど、今日は冒険するつもり。
 だって、すごく甘くて美味しい匂いがするもの。

「あっ……!」
「みつけた」

 私は甘い匂いのする屋台の前で立ち止まった。
 一瞬でわかるってほんとなんだ。
 驚いた声を上げた相手に私は訊いた。

「あなた、私の番でしょ?」
「……そう、だ。…………こっちにきて」

 お店の内側に呼ばれて私は近づく。
 パパほどは大きくないけど、なぜか彼も熊獣人だと思う。

「兄さん、番が現れたからしばらく店を任せていい?」
「今日はもういいよ。こっちも売り切ったら早めに終わるから。あとで紹介してくれ」

 隣にお兄さんがいたことにも気づかず見つめていたから、慌てて頭を下げた。

「こんにちは」
「こんにちは、お嬢ちゃんかわいいな」

 大柄でいかついお兄さんにそう言って笑いかけられて、ぽかんとしていたら私は番の男の人にひょいっと縦に抱き上げられた。

「……悪い。兄さん、よろしく」

 歩き出した彼にぎゅっとしがみつく。
 気づいてもらえてよかったなって、お兄さんの呟きが聞こえた気がした。

「……ここなら邪魔されないから」

 歩いて五分ほどのところにある公園のベンチに下された私は彼を見つめた。
 くっついているのがすごく自然に感じていたから、今ちょっとさみしい。
 そしたら大きな手で私の頭を撫でた後、隣に座って手を握ってくれた。

「俺はノア。二十四歳だ。君は?」
「私はルル、十六歳……ノアさんとは八つ歳が違うんだね」
「……ルル。名前もかわいいな…………あと、二年もあるのか……」

 そう言われて首を傾げると、ノアさんは私の手をぎゅっと握った。

「あと二年結婚できないってこと。……結婚してくれるか?」
「うん、もちろん」
「今、抱きしめていい?」
「うん」

 私の脇の下に手を入れて膝に乗せてくれる。
 ノアさんは大きくていい匂いで腕の中にいると安心する。 
 私からもぎゅっと抱きついた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ
恋愛
R18、R18シーンは18才になってから。 タグお読みください。 難関高校に合格した私は、家族とお祝いにレストランに向かっていた。エレベーターに乗りそこに向かう途中、エレベーターが落下するような感覚に襲われる。 気がつけば、私は家族と離れ、エレベーターに同乗していたJKと共に異世界にやって来たようだ。 彼らが望んだのはJK。 不用品だけれども還せないからと、訳アリの王子たちの妻にさせられ──。 合わないと思ったかたはバックお願いいたします。 右手は出すと思います!ヒーローたち視点のモノローグあり シリアス、ロマンチック、コメディあり。いつもですね。 筋肉はもれなく、嫌だと言われてもオプションサービスとなって付随しています。 今度のマスコット(?)は絵文字にあります。 獣化状態とのR18シーンはありません。 2022.3.26HOTランキング2位、ご支援いただきありがとうございました。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。  朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。  しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。  向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。  終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。

砂漠の異世界で獣人の王に囚われる~王様はホワイトタイガー

篠崎笙
BL
・王様はホワイトタイガー 美大生の王子七海は、竜巻に巻き込まれて異世界に。何故か王に見初められて、拘束されたまま手酷く犯されてしまう。しかも王は虎の獣人で……みたいな話。  ・ツガイは異世界の王子  王様はホワイトタイガーのナミル視点。  ・獅子の王の寵愛 松田新は身寄りのない中卒の少年だったが、川に落ちて何故か異世界に。名前以外の記憶を失い、砂漠の王様に拾われ身に余る待遇で可愛がられるが、拾ったのは新を后にして美味しくいただくためだった……みたいな話。  ・砂漠の獅子は幼き寵姫を愛す  獅子の王の寵愛のアサド視点。  ・おまけ  二年後の話。アサド視点。

木漏れ日の中で…

きりか
BL
春の桜のような花びらが舞う下で、 その花の美しさに見惚れて佇んでいたところ、 ここは、カラーの名の付く物語の中に転生したことに俺は気づいた。 その時、目の前を故郷の辺境領の雪のような美しい白銀の髪の持ち主が現れ恋をする。 しかし、その人は第二王子の婚約者。決して許されるものではなく…。 攻視点と受け視点が交互になります。 他サイトにあげたのを、書き直してこちらであげさしていただきました。 よろしくお願いします。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

処理中です...