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しおりを挟むケビンさん立ち会いのもと、今後を話し合うことになった。
今度は私たちが恋人つなぎをしたまま、隣同士に座る。
シロくんは十八歳と若いけど大工さんの家系で小さい頃から従事していたそう。
中でも室内装飾や家具作りが得意らしくこちらで仕事をみつけるとのこと。
ゆくゆくは私と住む家を建てたいと言ってくれた……嬉しい。
ケビンさんの家から街へ向かって十分ほど歩いたところに彼の両親が住んでいた小さな家がある。
「しばらくここを改装して二人で住んだらいいよ」
「ありがとうございます。改装中も泊まり込んで作業していいですか?」
「いいよ。ただし、食事はうちに摂りに来なさい。改装が終わったら仕事を始めること、結婚はそれからだよ?」
ケビンさんがそう言っておおらかに笑った。
私がちらりとシロくんをみたら、にっこり笑って手を握ってくれた。
「……シロくん、手伝えることがあったら遠慮なく言ってね」
***
それからシロくんは日中改装に励み、晩ご飯を食べにやってくる。
帰る時に私も庭に出て見送るのだけど、ついでに朝食用のパンを渡す。
「マミさん、もうすぐ仕上がるので待っていてくださいね」
「うん、楽しみだね」
しばらく二人で見つめあっていたけど、シロくんが握っていた手をくいっとひっぱって抱きしめた。
心臓がどきどきするのに、ものすごく満たされる。
シロくんが小さくため息をついた。
お互い離れがたいから、もう一度ぎゅっと強く抱きしめてから、私の頭をポンポンと撫でてシロくんは帰っていく。
そして私は毎日ララとルルにからかわれながら手伝いと称してのぞきに行く。
改装が明日にも終わるという頃、ケビンさんが私に言った。
「マミは……子作りの知識はあるのかな? 本当は母親から聞くものなんだけど……」
「……私は、多分、なんとなく」
お互い気恥ずかしい雰囲気になる。
「そうか、じゃあ、いいか。シロくんには男同士で話したし、多分種族的に大丈夫と思う」
「……種族的に?」
「ネズミ獣人は基本子沢山だからね、うん、まあ、マミは人間だから心配することはないよ」
大丈夫、うまくいかない番なんて聞いたことないからと笑って言った。
***
それなのに、ぎくしゃくしている。
ほとんど完成した家の中でシロくんが目を合わせてくれない。
私が近づくとシロくんが固まるようになった。
「シロくん? 私なんかした?」
「マミさんは何も悪くありません! 僕が勝手に……」
シロくんは真っ赤になって片手で顔を覆ってしゃがんで背を向ける。
だけど手だけは私の方へ伸ばしてきた。
触れたいとは思ってくれているのかな。
「今日だけ、ごめんなさい……意識しちゃって……」
それでピンときた。
ケビンさん、どんな話をしたんだろう?
私はシロくんの手を握らずに背中に抱きついた。
細身だけど、しっかりとした骨格に男の子なんだな、と思う。
顔が見えないからと言って、大胆すぎたかも。
シロくんの体温を感じながら背中に耳をつけて心音を聞く。
「シロくんの顔が見れないのも、触れられないのは寂しい……」
「マミさん……」
オレンジ色の髪の間から小さな丸い耳が飛び出した。
ルルの幼い頃みたい。
そう思って手を伸ばす。
ふわふわな髪と耳に触れると、シロくんの腕が私の背中に回された。
「明日……仕事を探しに行きます。……だから、一日も早く結婚してください」
「うん……いいけど、一日くらい休まなくて大丈夫? シロくん、ここに来てから休んでないんじゃない?」
「このくらい大丈夫ですよ。早く二人で生活できるようになりたいので」
「シロくん、好きだよ……」
またシロくんが固まった。
それから大きくため息をついて言った。
「僕、言うの我慢してるのに……言ったら止められなくなると思って……」
そのまま二人で立ち上がると私の方に向き直る。
赤い顔をしたまま、私の頬を撫でる。
優しい瞳に赤い顔の私が映った。
「大好きです」
じっとみつめたまま、顔を近づけてくるからゆっくりと目を閉じた。
額に口づけた後、シロくんが小さく息を吐くのが聞こえた。
触れているだけで幸せ。
目を閉じていても怖くない。
ドキドキするけど信じているから。
次に両まぶた、両頬にも唇が触れる。
私は目を閉じたまま彼の背中に腕をまわす。
何度も顔中に口づけされて、その優しい感触に浸っているとそっと名前を呼ばれた。
「マミ」
目を開けたところで唇が重なった。
やわらかい。
間近で見つめ合う。
それは一瞬のことで、驚く私にシロくんはもう一度口づけを落とす。
さっきより長く触れ合って、私の心臓が壊れそうなくらい激しく打った。
「すき……」
どちらの唇から発したのかわからないくらいお互いの気持ちが重なって、シロくんの舌がそっと私の口内に滑り込んだ。
「んっ……」
驚いて仰反ると、彼の唇が追いかけてくる。
優しく髪を撫でられて、私は囚われる。
怖がらないように上唇と下唇を優しく食んでから、もう一度そっと舌が差し込まれた。
私の舌にシロくんの舌が慎重に触れる。
「んっ……」
痺れるような、初めての感覚に私は戸惑った。
知識はあったけど、自分がどう感じるかまではわからなかったから。
しっとりと動くシロくんの舌が甘くて好ましく思うなんて。
だんだんと遠慮がなくなって、私の口内を自由に探りだす。
「はぁっ……」
どうやって呼吸していいのかわからない。
酸欠とシロくんから与えられる熱に耐えられず、私はしがみついて震える足をなんとか支えた。
「シロ、くんっ……」
私の声に慌てて唇を離したシロくんは、支えるべく強く抱きしめる。
「ごめん、なさいっ……早く、早く結婚したい、です」
お互いの心音が落ち着くまでの長い間、しっかりと抱きしめあっていた。
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