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17 月日が流れて

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* ロルフ視点です。







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 これほど賑やかな生活を送ることになるとは思わなかった。
 レイチェルと結婚して最初の息子は初めて結ばれた夜に授かったらしい。
 子からまっすぐ注がれる愛情にひどく心が揺さぶられて、大切にしたいものが増えた。
 話すようになって自分と同じ性質だと気づいてからは、俺の子ではあるが、妻を奪われかねない相手として葛藤があったものの、概ねうまく関係を築けていると思う。
 妻との相性がいいのか続けて三人の息子を授かった。

 子どもを育てるのに広い本館で過ごすのは何かと便利だった。
 ただ、時々妻を愛で縛りつけそうになると、周りから小言を言われてしまうから、結婚記念日の前後だけは離れで二人きりで過ごして、妻を独り占めする。
 妻は言葉でも態度でも愛していると示してくれて、俺もそれ以上に愛を返す。
 今はこれ以上賑やかにならなくていいと思ったし、妻も三人もいれば十分ね、と笑っていたから、子種の動きを鈍くする生薬を飲むことを二人で話し合って決めた。
 今のところ大きな揉め事もなく穏やかに暮らしている。

 いや、一つだけ煩わしいことがあった。
 結婚して、十年目。
 今年社交界にデビューした公爵令嬢が、頻繁に鍛錬場にやって来て、必要以上に話しかけてくるようになった。
 俺に何かを重ねて恋した気分になっているのだろう。
 美しいとされる少女が熱っぽい視線で俺を見つめてくるが、俺には最愛の妻がいるし、迷惑としか思えない。
 いやむしろ、初めて見た時に不快感を感じた。
 これまで数回、今とは違う俺と妻が登場する夢を観てきたが、その中で妻の死因に関わった女が、あまりに彼女に似ていたからだろう。
 それが現実感のある夢だったから、見かけるたびに、嫌悪感が増して殺意まで湧くようになった。

 公爵令嬢は、俺が気づかないとでも思っているのか夜会で妻を睨んできたり、嘲笑を浮かべたりしてきた。
 妻も彼女が苦手なようだ。
 妻を悩ます女は、この国にいらない。

 我が伯爵家は代々騎士の家系で王家に仕えているが、その実、今は父を中心に諜報活動を得意とし、各所に密偵を潜ませている。
 俺は騎士という職業柄いろんな場所を訪れることが多く、思いがけない相手と接触することもあった。
 不可思議な呪い師のいる裏の世界を覗くこともできた。
 呪い師のおばばは時折予言めいたことを言うし、薄ら笑いを浮かべていて気味が悪いのになぜか嫌いになれない。
 縁があるんだろうよ、と歯の抜けた口を大きく開けて笑っていたが。
 
 そして今、他国の第二王子が遊学と称してやって来ていた。
 女性問題を起こして、ほとぼりが冷めるまで国を出されたのだが、色好みのため、美しい公爵令嬢を気にいることだろう。
 二人が知り合うように仕向けた結果、公爵が第二王子を支えることで、めでたく彼女は他国の王族に嫁いだ。
 公爵令嬢がいなくなって、俺達はお互いに随分気が晴れた。

 しかし時折あの悪夢を思い出して、安心できなくなる。
 それを妻に漏らすと、体温が同じになるまで抱きしめてくれて、心も満たされた。
 慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、俺の髪を優しく撫でて、囁く。

「ロルフ様、ずっとそばにおります。あなたを愛しています」

 俺は深く息を吐いて抱きしめ返す。
 妻は俺の唯一だと本当に思う。

「レイチェル、俺も愛している。ずっとそばにいてほしい」
「はい。もちろん……ロルフ様に甘えられるのもいいものですね」
「…………こんな情けない姿、レイチェルにしか見せることはできないよ」

 妻が小さく笑い声を漏らすから、顎に指をかけて口づけを落とした。

「……あの約束は守ってくれ」
「鍛錬場に近づかない、ですね。わかっています」

 悪夢は夢のままでいい。

 俺もあと数年したら、本格的に父の仕事を手伝うことになるだろうし、鍛錬場に顔を出すこともさらに減るだろう。



 
 結婚して十二年目の結婚記念日。
 二人きりでじっくり過ごせるように離れを快適な空間に整えた。
 ここに二人でやってくるのは年に一度だけだし、だいたい二、三泊が限度だから特別な時間になる。

 お互いのことだけを考えて、たくさん会話して笑い合って、触れ合って満たされる。
 もちろん普段も毎晩同じ寝台で眠っているし、会話も身体を重ねることもしているが、どうしても雑念が混じる。

 だからこうやって離れで過ごすことは初心を思い出すことにも繋がって、十年以上経ってもお互いを思いやれるのではないかと思う。

 寝台の横に置いた蝋燭の炎がぱちぱちと音を立て、小さくなった。

「消えてしまうかもしれませんね」

 腕の中の妻が、そっと俺に身を寄せた。
 その何気ない仕草も愛しくてたまらない。
 お互いの身体を繋げた後でしっとりと汗ばみ、気怠げな様子をみせる。

「ロルフ様、このまま眠りませんか……?」
「それもいいが、湯に入りたいだろう?」
「そうですね。……でも、もう体力がありません……」
「俺が連れて行くよ」

 蝋燭を吹き消し、暗闇の中で妻を抱き上げる。
 ほのかに浴室を照らす灯りを頼りに歩いた。

「見えているのですか? ぶつかりませんのね」
「あぁ。夜目がきくし、浴室の灯りが見える」

 レイチェルが笑ってぎゅっとしがみついた。

「ロルフ様はいつも頼りになるのですね」
「そうでありたいと、願っているよ」

 妻の額に口づけを落とす。
 ずっとずっと大切な宝だ。

 もし生まれ変わっても俺はレイチェルを愛するだろう。
 妻も同じように考えてくれることを願う。
 
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みんなの感想(46件)

himo2
2022.07.05 himo2

すごくよかったです!今日はこれを読もうと一気に最後まで読んじゃいました〜
この短さでも私好みですごいおもしろかったです〜♡

能登原あめ
2022.07.05 能登原あめ

わ〜✨一気読み嬉しいです!
。・:*:・(*´ー`*人)♡
多分初めての逆行もので、ヒロインが乗り移ったみたいな気分で書きました。
(普段は主役たちを横から眺めている感じなのですが)
himo2さま、コメントありがとうございました🤗

解除
鍋
2021.02.19
ネタバレ含む
能登原あめ
2021.02.19 能登原あめ

重すぎますよね〜😅
私も思います!
公爵令嬢のくだりはやっぱり書かないとかなぁと。
ようやく一区切りつきました( ^▽^)♪
ありがとうございます〜🤗

解除
田沢みん
2021.02.19 田沢みん

10年後も姿を現す公爵令嬢の執念が恐ろしいですね。
それも夢のおかげで悲しい事件を繰り返すことなく、上手く回避できて良かったです😊

能登原あめ
2021.02.19 能登原あめ

逆行前と同じ流れで、登場してもらいました〜😅
幸せな甘い二人を書くはずが、甘さってなんだっけ⁇という感じになってます〜
ありがとうございます〜🤗

解除

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