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14 初めて入る部屋 ※微
しおりを挟む初めてのキスで私からも舌を絡めるなんてあってはいけないことですよね。
どうしてそんなことをしてしまったのか、今さらどうしたらいいのかわかりません。
脚が震え、ロルフ様にきつくしがみつく私の唇の上で彼が囁きました。
「レイチェル、俺の部屋で話そう」
やはり私は間違ってしまったようです。
今の状態でロルフ様の部屋になど入ってしまったら、どうなってしまうかわかりません。
「……ロルフ様が初めてです」
冷静に対応したいのに、動揺を隠せません。
二十八歳の記憶と経験が、悪い方向に働きました。
それでも、相手はロルフ様しかいませんし、なんとかして誤解を解くしかありません。
私達は黙ったまま見つめ合いました。
「……部屋に行こう」
私はそのまま抱き上げられて、初めてロルフ様の部屋に入りました。
すれ違った使用人に、こちらから呼ぶまで二人きりにしてほしいと伝えます。
雲行きが怪しくなってきました。
「ロルフ様、嘘ではありません」
「レイチェル……」
私を抱きしめていたロルフ様が、ゆっくりと寝台へと下ろして、そのまま覆い被さるように上から覗き込みます。
「……結婚式の後まで待てませんか?」
ロルフ様なら一ヶ月後の私の誕生日に式を間に合わせることだって可能だと思います。
すると、小さく息を漏らして笑いました。
「レイチェル、信じているよ」
過去のロルフ様なら、きっと閉じ込めてしまうのでしょうけど、目の前のロルフ様は私の頬を優しく撫でて笑顔まで浮かべています。
どうしてそんな顔をされているのかわからないので、戸惑いながらも弁明することにしました。
「実は……ロルフ様と口づけする夢を何度か観ました」
「…………」
少し困ったような笑顔を浮かべています。
もしかしてあれは夢ではなかったのでしょうか?
眠っている私に悪戯していたのだとしたら。
そう考えれば、今のロルフ様の態度にも説明がつく気がするのです。
「ロルフ様……?」
彼が私をきつく抱きしめて、大きく息を吐きました。
「もしかして、あれは……?」
私を遮るように、ロルフ様が言いました。
「レイチェルの誕生日に結婚しよう。その夜まで待つから、今は、しばらく抱きしめさせてほしい」
寝台に上がったロルフ様の胸にそっと抱き寄せられました。
きっと、高ぶりを抑えようとしているのかもしれません。
我慢なんてなさらない方でしたから、まさかこんな日が来るなんて思いませんでした。
口づけについて誤魔化されてしまいましたが、私の想像通りなのかもしれません。
私は彼の腕の中でじっと息を潜め、つらつらとそんなことを考えていました。
その間、彼は私の頭頂部に唇を寄せて時折そこへ口づけしていたようです。
静かに時が流れました。
「……この隣に、レイチェルの部屋が整った。結婚後はそこを使ってもらうが、最初の夜は……ここでもいいか?」
お義母様から離れを準備している話を聞いていましたから、不思議に思いながらも私は頷きます。
「今こうして、レイチェルを抱きしめていると、ここでしたいことがたくさん思い浮かぶ」
「そう、ですか……」
どんなことを考えているかわかりませんが、なんだか顔が熱くなってきました。
ロルフ様がそんな私を見て頬を撫で、愛しくてたまらないというように微笑みました。
「レイチェル、忙しくなるぞ」
私達の結婚式は、まるで初めから私の誕生日を予定していたかのようにつつがなく挙げることができました。
用意されたドレスは、前回のものと違ってトレーンは長く、膨らみのほとんどないスレンダーラインの少し大人びたデザインです。
ロルフ様の意識の変化を感じるドレスだと思います。
「きれいだよ。あぁ、俺の妻だって周りに自慢して歩きたい」
そんな言葉が出てくるなんて思いませんでしたので、思わず瞬きをしてしまいます。
「でも、俺以外の、誰の目にも触れさせたくないとも思う……複雑だな」
本質はそう簡単には変わらないのですね。
なんて答えたらいいか戸惑いながら口を開きます。
「ロルフ様」
「いや、気持ちとしては閉じ込めたいが、それをしてレイチェルの心が離れるのは、嫌だ……ようやく結婚まで漕ぎ着けたというのに」
私は彼の手を握って肯定するように、にっこり微笑みました。
「ロルフ様、これからもたくさんお話ししましょう」
彼の心が闇に傾いてきたら、すぐにわかるように。
そうすればすぐに対応できるのではないでしょうか。
ロルフ様が繋いだ手を持ち上げて、その手の甲にそっと口づけを落としました。
結婚式を終えた夜、私は準備を整えて彼の部屋へと続く扉の前に立ちました。
初夜に、何が行われるかはすでに過去において経験していますから、今は口づけの時のような失敗をしてしまわないか不安でたまりません。
それと同時に、愛される喜びを思い出して緊張感が高まります。
扉を叩こうとして、手が震えているのに気づきました。
二度三度と、その場で深呼吸をしてからようやく扉を叩くことができました。
カチャリ、と扉が開きロルフ様が私に腕を伸ばします。
待ちきれなかったのでしょうか。
後ろに控えていた侍女に、下がっていいとロルフ様が声をかけ、私は彼の部屋に入りました。
扉が閉じられる前に、私は彼の腕の中にいました。
「レイチェル」
名前を呼びながら強く私を抱きしめます。
私もそっと彼を抱きしめました。
「この一ヶ月、本当に長かった……」
感慨深げに言われて、私はゆっくりと顔を上げました。
だいぶ灯りは落としてありますが、どんな表情をしているかくらいはわかります。
「ロルフ様」
私は吐息混じりに彼の名を囁きました。
私のことを見つめる瞳はとても優しくて本当に好きなのだと、訴えてくるのです。
今の声音に、私の好きという気持ちも伝わったのかもしれません。
ロルフ様がそっと柔らかい口づけを落とすのですから。
「愛しています」
「あぁ、レイチェル、愛している」
それからはまるで嵐のようでした。
飲み込まれるような深い口づけを受けながら、寝台へと沈みました。
寝衣はあっけなく解かれて彼の大きくて肉厚の手が全身を這います。
ざらりとした彼の指の腹で撫でられると、腰の辺りにぞわりとした疼きを感じました。
「んっ、ぁ……」
懐かしいような、あの頃を思い出して、期待に身体が震えます。
私の緊張を宥めるように彼の唇がそこかしこに触れて、私の身体は高まっていきました。
ふと目に入った、彼の欲望に満ちた雄の顔に、私は息を呑みました。
「怖がらないでくれ」
彼が私の頬を包みます。
私はその手に頬を擦り寄せるようにして、それから彼の手に手を重ねました。
「怖くは、ないのです……ただ、いつもとロルフ様が違うので、驚いてしまって……」
ほんの少しだけ、ロルフ様の目元が緩みました。
「レイチェルが欲しくてたまらないんだ。……今夜は俺しか知らないレイチェルを見せて欲しい」
彼の手が私の太腿をゆっくりとなぞりました。
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