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結婚式に私を番だと言ってさらった竜人を愛せない ③終※

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「はじめまして。私はローレンス……貴女の名前は?」

 私は目の前にいきなり現れた竜人の青年に言葉を失った。
 この世界に住まう竜人たちは、各国をめぐりたった1人の番を探し求めるのだと言う。
 もし選ばれて、プロポーズを受け入れたらとても大事にされて何不自由ない生活ができて幸せになれるのだと、村の女の子たちの憧れのおとぎ話なのだけど……。

 なぜか私はその話がとても嫌い。
 プロポーズは好きな人がいたら断っていいらしいけど、本当かな。
 竜人のおとぎ話を聞くだけで背中がぞわぞわしてしまう。

 周りに竜人と結婚した人がいないから現実味がないのかも。
 そんな夢のような話より、目の前の大切な人たちを優先したい。
 
 だけど今、目の前にとても綺麗な顔立ちの青年が立っている。

「…………」
「そんなに警戒しなくてもいいのに。貴女は私の番じゃない。……ただ、お母様の魂に出会えて嬉しかったんだ」

 青年が訳のわからないことを言う。

「……私はあなたの番ではないのですね?」
「うん、番じゃないよ。嘘じゃない、誓うよ」
「…………私はジェシカです。私の母に何か用事でもありますか?」

「いや、貴女自身に興味がある。少し話したいんだ。これからどこかへ行くところ?」
「夫の元へ」
「そう、結婚しているんだね。幸せ?」
「はい、とても。先月結婚したばかりなので……」

 隣に並ぶから、籠いっぱいの木の実を抱えて、夫のサムの元へ戻ることにした。
 夫は幼なじみで私と同い年。

 たくさん喧嘩もしたけど、一緒にいると言いたいことも言えるしたくさん笑わせてくれるし、楽しい。
 だからサムがプロポーズしてくれた時はすごく嬉しくて舞い上がった。

「……今幸せなんだね?」

 同じことを聞く竜人に私は頷く。

「はい、とても。好きな人と結婚できたから」
「そう、なんだ……それはよかったね。私の父は貴女が生まれる随分前に亡くなっているのだけど、母が先立ち、後を追うように息を引き取ったよ。悲しみが深かったんだろうね」

「そうなんですか……先に好きな人が亡くなってしまうのはつらかったでしょうね」

 突然青年の両親の話をされて戸惑った。
 
「そうだね、本来竜人は長命なんだけど。他種族の場合、同意を取らないと一緒に幸せになれないんだ。私は残念ながらまだ番と出会えていないが、もし見つけたら合意をとるように母から言われた」
             
「人は合意なしでは結婚できませんから……」
「そうだね。今は竜人も、略奪禁止令があるんだよ」
「そうですか……それはよかったです」

 私がそう言うと、なぜかこの青年は寂しそうに笑った。

「ジェシカ!」

 大きな声で名前を呼ばれ、向かいからサムが駆けてくる。

「サム!」

 すごく慌てた顔で、ちらちらと青年を見ていた。

「あの! 彼女は俺の妻です! 絶対に譲れません」

 もしかしたら、番と言われたって勘違いしているかも。

「サム、大丈夫よ。この方は……」
「ローレンスだ。私は番を探して旅をしているが、彼女に道を聞いただけだよ」

 サムがほっとした顔を見せた。
 ローレンスさんが興味深げにサムを見て口を開く。

「ありがとう、ジェシカ。じゃあ、お二人ともお幸せに。ではさようなら」
「え、あ、さようなら。道中お気をつけて」

 私がそう言うと、ぎゅっと抱きしめられた。

「え⁉︎ あ、ちょっと!」

 サムが声を上げ、次の瞬間青年は一人空へ向かって飛び上がる。

「会えてよかった、またね!」

 竜人の青年に抱きしめられて嫌じゃなかった。
 懐かしいような、家族みたいって思うなんて変なの。
 竜の姿になって空を駆ける様子をぼんやり見つめる私に、サムが声をかけてくる。

「今の何だ⁉︎ 一体何があった? ごめんな、俺の顔、普通で。見惚れていたぞ⁉︎」

「そんなことないよ。さっきのは……竜人式挨拶じゃないかな。本物の竜人を見て驚いていただけだよ。竜の姿って綺麗なんだね」
 
「ああ、綺麗だったな……こんなど田舎に竜人が現れるなんてびっくりした」
「私も。……ところでサムの顔好きだよ。愛嬌があって」
 
「なんか褒めてない……こういう時はカッコいいって言ってくれていいんだぞ⁉︎」
「うん、カッコいい」
 
 サムが拗ねるような顔をするから、彼の手を握った。

「本当にそう思っているよ。サム、大好き」
「ああ! 俺だって好きだ」
「早く家に帰ろう」

 2人の新居まであと少し。

「わぁ⁉︎」

 サムが私を担ぎ上げて大股で歩き出す。

「あれが竜人式挨拶でも、俺の妻が他の男に触られるのは嫌だ」
「サムったら……私、ずっとサムのことしか好きになったことないよ」

 お互いに幼い頃から知っていて、でも結婚するまで知らなかったこともある。

「俺だって、ずっとジェシカだけが好きだ。ほかなんて目に入らないよ」
 
 そのまま家に入り、勢いよくドアを閉めた。
 私は下されてすぐ唇を奪われる。

「ん、まだ、玄関だから……!」

 彼の手が私の全身を撫でるように動き、スカートをめくり上げた。

「なんか悔しい。あの男、番じゃなくても変な目でジェシカを見てた」
「変な目、って……そんなことない。多分変わっている人なんだとおも、んっ!」

「よかった……濡れてる」
「だってサムがキスするから」

 彼の指先が脚のつけ根を撫でた。
 ぶるりと震えて、私も彼が欲しくなる。

「して、いいよ……」
「……ベッドまで我慢しようと思ったのに」
「嘘」
「嘘じゃない」

 そう言いながらもベルトを緩めて、陰茎を取りだし直にこすりつけてきた。

「サムのせっかち」
「さっき、いいって……」
「うん、ゆっくりにしてね」
「わかってる!」

 立ったまま、私の片脚を持ち上げて蜜口に押し当てる。

「ジェシカ」

 ググッと腰を押しつけてくるから、私はバランスを崩しそうになってサムにしがみついた。

「ん……ッ」
「可愛い、あったかい」
「サム……」

 濡れてはいたけれど、サムの陰茎が私の内壁を押し拡げ苦しい。

「やっぱり移動しよう。ここじゃ、ジェシカのこと十分愛せないよ」

 もう片方の脚も持ち上げるから、私はサムにしがみつくしかなかった。

「サムのバカ。エッチ」
「ジェシカがいいって言った。……ちょっと待ってろ」

 サムは力持ちで体力がある。
 それは知っていたけど、夫婦になって実感することも多くて。
 ベッドに一緒に倒れ込んで、思わず笑った。

「サム、大好き」
「俺も」
「夕食の準備、まだだから1回だけだよ?」
「大丈夫、俺キノコのシチュー作っておいた」
「ありがとう。でも……んんっ」

 舌を絡めるキスに連動するように腰を押しつけてくる。
 サムに触れられると幸せで他のことを考えたくなくなる。

「ジェシカ、好きだ。3回ならいい?」
「暗くなっちゃう」
「じゃあ2回」
「うーん、わかった」

 私はサムの腰に脚を絡めて引き寄せた。
 角度が変わって私も思わず息を漏らす。

「…………そんなに早く終わらせないよ」

 彼が苦しそうな顔で腰を揺らす。

「遠慮しなくていいのに」
「わかった、遠慮しない」

 お互いの遠慮がどうやら違う意味で。
 揺さぶられて私は昇りつめ、ほとんど同時にサムが果てた。

「次は余裕あるから、のんびり楽しもう」
「もう、サムっ!」

 今のサムは本当に余裕があるみたい。
 私のほうが一度熱くなって、くすぶっている。

「ジェシカが可愛いのが悪い。竜人に話しかけられるくらい可愛いのが特に悪い。お仕置きが必要」
「サムのえっち」

 お互いに軽口を叩きながら、再び触れ合う。
 こうして気持ちを確認できるこの時間がとても好き。まだサムについて知らないことがたくさんある。

 私は彼の腕の中で満たされて、この人と結婚してよかったって思うのだった。
 







******


 お読みくださりありがとうございます。
 
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