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両親を殺めた男が私の夫となり、幸せだと思い込まされたけれど魔法が解けたので逃げ出したい。※☆ [改稿版]

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* こちらは、私がこれまで書いた中で一番救いのない胸糞な話、の改稿版です。
* 人が亡くなります。ヒーロー以外の陵辱表現もあり、ひたすら胸糞な話を……なんとかご都合主義発動させました。でもほとんど胸糞です。後半は甘めのR15 、淡々と進むのでダイジェストっぽいです。

* なんでもこいの方のみ、どうぞ……。









******


 エミリアはテラスでお茶を飲みながら、愛する夫アダムと娘ナタリーが庭で戯れているのを幸せな気持ちで眺めていた。

 なんて幸せなんだろう。

 一人でのんびり最近流行りの恋愛小説を読んでいるうちに、眠くなって寝椅子に横になった。







 そして、夢をみた。

 アダムはエミリアを手に入れるため、目の前で両親を殺し、彼女を監禁した。
 エミリアは彼のことが何となく怖かったし、両親もその様子から何度か彼から結婚の申し込みがあったものの、きっちり断っていたという。

『愛するエミリア。これでもう、僕達を邪魔するものはいないよ』
『どうして! 両親を殺めたあなたのことなんて、愛せない!』

 アダムの用意した大きな家で、エミリアは犯された。

『いやーーーーっ‼︎』
『あぁ、初めてで嬉しいよ。痛みを消してあげる』

 彼は魔法使いで、エミリアの痛みを取り除き、何度も何度も揺さぶって彼女の中で気持ちよさそうに子種を吐き出した。
 
『いやっ! 殺してーー! お父様っ! お母様! 迎えに、来てっ! 死にたい! 殺して!』
『あぁ。エミリア。混乱しているのかい? 仕方ないな』

 泣き叫ぶエミリアに忘却の魔法をかけ、愛するように仕向けた。
 
 身寄りのないエミリアを口説き落として結婚したばかりの夫婦なのだと。
 アダムの祖父の遺産を引き継いだから十分暮らせるのだと言って。
 でもそれはエミリアの両親の資産を奪ったものだった。
 
 信じたエミリアは愛するアダムの子供を産んだ。
 そしてはじめて家族ができたのだと、嬉しくて涙を流した。
 そんなエミリアをアダムが優しく包んで、これ以上の幸せはないと思ったのだ。

 かわいい娘ナタリーはエミリアに似ていて、アダムがお嫁に出したくないとそれはそれは可愛がった。
 時々庭にブランケットを敷いてピクニックのまねごとをしたり、仲良くおしゃべりしたり、お昼寝をした。

 なんでもない、日常の幸せな時間。
 でもそれはすべてまやかしで……。






 ふとエミリアは目覚め、寝椅子からゆっくり起き上がった。
 じっとりと汗をかき、動悸がする。

 なんてこと。
 すべて夢なんかじゃない。

 なんで、こんな大切なことを忘れていたんだろう。
 彼は両親を殺した憎き男。
 でも彼は、大切なナタリーの父親で……?
 頭が混乱する。

 理由がわからないけれど、エミリアの魔法が解けた。
 もしかしたら、あの時かけたものが時間と共に弱まったのかもしれない。

 エミリアは一旦頭の中を整理するためにここを離れたかった。
 だからそっと、室内に向かう。

「エミリー? どうしたの?」

 アダムに優しく声をかけられて、こめかみに手を当てた。

「うたた寝したら、なんだか頭が痛くなってしまったみたい……すこし休んでくるわね」

 男の目を見ることができず、ぎゅっとつぶった。

「ついていこうか? 心配だ……」

 声音から本当に心配されているのがわかる。
 でも。
 複雑な気持ちにエミリアは耐えられない。

「いえ、大丈夫よ。少し休めば……代わりにナタリーをお願いするわ」

 





 その夜は、もしかしたら風邪かもしれず、うつすと悪いからと言って別の寝室で一人で眠った。
 三歳のナタリーにはもともと子守りがついている。

「エミリー、体調はどうだい?」
「…………」

 この男は、男なりにエミリアを愛している。
 両親を殺してしまうほどに。
 魔法が解けたとわかったら、次はもっと強力な魔法をかけるだろう。
 そんな、生活いや。
 
 今は寝たふりをするしかできない。

「ゆっくり休んで。愛するエミリー」

 優しく頬を撫で、髪を一房とり、そっとキスを落とした。

「…………」

 ぞわりとしたけれど、なんとか耐えた。

  





 翌日、お世話になっている医者が呼ばれ、エミリアは夫に気づかれぬよう医者の弟子に親友宛の手紙を渡した。

 どうか、夫に内緒で届けてほしいと。
 親友と夫が仲違いをしているから、知られたくないから、と。
 返事をもらったら手紙は取りに行くまで預かってほしいと小遣いを多く渡して頼んだ。

 どうか、うまくいって。






 一週間後、市場に出かけたエミリアは、いきなり腕を引っ張られて露地に連れ込まれた。

「エイミー……本物だ……。生きていたんだな」

 エミリアの腕を掴んだのは親友であり、初恋の人エドガーだった。
 手紙を取りに行く前に会えたことに驚く。
 あの弟子から状況を聞いて、待ち伏せしようとしたところだったと言われた。

「もちろん、生きているわ……どういうこと?」
「両親と一緒に亡くなった、と。強盗に押し入られて、家に火を放たれたから……まさか、こんな近くにいると思わなかった。思い込みもあったし、平民として暮らしていたら気づかないものだな」
「…………」
 
 アダムがそこまでしていたなんて……酷すぎる。
 エミリアは呆然とした。

「隠れているということは、困っているのか? このまま連れだそうか?」

 逃げたい。
 今すぐにでも助けてほしい。
 でも子供がいる。

「……お願い」

 もうアダムの顔なんて見るのも嫌。
 子供の顔が目に浮かぶけど、彼はとても可愛がってくれている。
 子供も彼に懐いている……悪いようにはしないだろうと考えて、一人逃げようとするなんて母親失格だ。
 私は取り返しのつかない、赦されないことを口にしてしまった。
 
「おいで」

 それでも。
 エミリアは、彼の手をとった。
 それしか選べなかった。


 





 
 それから、しばらくエドガーの隠れ家に匿ってもらい、アダムに気づかれる前に二人で異国へ向かった。
 彼は家督を弟に譲ってしまったけど、晴れやかな笑顔を見せた。
 代わりにかなりの資金があるのだと。

「心配する必要はないよ。ここは誰も知らない。俺達は新しくここで幸せになろう」

 彼はずっとエミリアを好きでいてくれて、静かに寄り添ってくれる。
 逃げた先で幸せになっていいのか、葛藤しないわけではない。

 時々、娘を想って胸が痛むけれど、その気持ちとは一生つき合っていくことになるのだろう。
 それは自分勝手な想いだから。
 エミリアはこれ以上彼を煩わせたくなくて、笑いかける。

「エドガー、会えてよかったわ。あなたは、私の初恋の人だもの」

 エミリアの上に影が落ちて、唇が重なる。
 
「愛しているよ」

 エドガーと身体を重ねるのはとても恥ずかしくて、怖かった。
 結婚して、子供を産んで。
 昔のままの、自分ではないから。

 そんなエミリアに忍耐強く、ささやく。

「きれいだよ。今が一番きれいだ」

 彼はゆっくり、じっくりと時間をかけて優しく触れる。
 エミリアも彼の身体に腕を回して近づいた。

「エドガー……」
「エミリア、一生君だけだ」

 二人の身体が一つに重なり、お互いをきつく抱きしめ合った。
 どちらのものかわからない速い鼓動を感じながら唇を重ねる。
 身体だけでなく心も満たされて、欠けたものを手に入れたような気さえした。

「ずっと、ずっと好きだったわ、エドガー」

 素肌で抱きしめ合うのも、お互いの体温を感じるのもとても幸せで。
 心からそう思えた。








 季節が一回りした頃、私達を訪ねて来たのはエドガーの友人と、少し成長したナタリーだった。

「やぁ、久しぶりだね。二人とも元気そうでよかった。例の男の様子がおかしくなっていたものでね、エドガーに言われた通り連れて来たよ」

 ナタリーの瞳に涙がたまり、ポロポロと流れた。

「おかあさまっ、……あいたかったっ……」

 エミリアは彼女の小さな身体を抱きしめる。

「ごめん、なさい。……ごめんなさいっ……会えて、嬉しいわ、ナタリー……!」

 エドガーはずっと、アダムの動向を調べさせていたらしい。
 探しても探してもエミリアが見つからず、酒量が増えて酔い潰れることが多くなり、ナタリーを放置するようになっていったようだ。
 その隙に連れ出してここにいるという。

「ナタリー、これからはここでお母様と俺と一緒に暮らそう」
「おかあさま……? はい」

 エミリアとエドガーを何度も見て不思議な顔をしたけれど、彼女は頷いた。
 エドガーは血のつながりのない娘にも忍耐強く接して、三人は少しずつ歩み寄ることができ家族らしくなっていく。

 ナタリーがアダムのことを口に出さなくなった頃、エミリアはエドガーとの子を身篭った。
 生まれてきた男の子をナタリーが優しく見つめていて……。
 異国の地で平穏を手に入れた。
 








******


 お読みいただきありがとうございます。
 改稿前を覚えていらっしゃる方がいるかわかりませんが、元々は親友の手を取らず数年耐えて、逃げ出す話でした。
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