6 / 14
6
しおりを挟む私が口を開いた時、外から人がなだれ込んだ。
「きれーい! みてみて!」
「ここが、有名な大聖堂かぁ。……まぁ、悪くないよな」
「えー? 感動しない? ここで結婚式したぁい!」
「まじかよ、俺はちょっと堅苦しいかなー」
「しーっ、あなた達、静かにしなさいよ!」
「お前の声のがうるさいよ」
友達同士で楽しそうにはしゃぐ学生達の姿をみて、リーヌス様が立ち上がった。
私達の間に流れていた、特別な空気が途切れる。
「カリン、出よう」
「……はい、リーヌス様」
手をつないだまま、そっと大聖堂を出た。
ちょうど太陽が真上にあって、とてもまぶしい。さっきまでの時間が夢みたい。
でも、お互いの指に指輪がある。
「……食事にしようか」
リーヌス様が案内してくれたのは、少し高級な雰囲気のお店だった。
私が戸惑わないように個室を選んでくれたみたいで、ふわふわした気持ちのままメニューを眺める。
「おすすめはこれと、これ。確か、そう言ってた。……騎士団の連中が!」
私が首を傾げると、リーヌス様が慌ててつけ足すから笑ってしまう。
リーヌス様はこれまでモテていたと思うけど、今は私を大切にしてくれる夫だから、気にしないのに。
「えっと、じゃあ、これにしてみようかな。騎士様達はたくさん情報を持ってるね」
「……うん、みんなはいろんな所に出かけるから」
私はこの街の名物、ひき肉とほうれん草をパスタ生地で包んで、スープに浮かべたものにした。
一つ一つが手のひらくらいの大きさで、意外と食べごたえがある。
リーヌス様は豚の塩漬け肉の大きな塊をこんがり焼いたもので、マッシュポテトとザワークラウトが添えられていた。
「乾杯」
私はりんごのお酒、リーヌス様はこの地で作られた銅色のビールにしたら、まるで水のように一気に飲み干してしまう。
「うまい。カリンはどう?」
「甘酸っぱくておいしい」
「先におかわりするけど……もし飲みきれなかったら言って」
「ありがとう」
お酒も料理もおいしくて、その後石畳の街並みをぶらぶら歩いてお店をのぞき、夕焼けで赤く染まる川を眺めながらベンチに座って休憩した。
普段よりたくさん歩いたから、脚が疲れてこっそりふくらはぎを撫でる。
「カリン、そろそろ家に帰ろうか」
「はい。すごく楽しかった、リーヌス様ありがとう」
「うん、俺も」
差し出された手を握り、無意識にリーヌス様の指輪を指で撫でる。
「カリン?」
くすぐったかったのか、リーヌス様がピクリと指を動かした。
「指輪があるのが嬉しくて。リーヌス様が私の旦那様なんだなぁって、すごく実感して今胸がいっぱいで……」
顔を上げるとリーヌス様にじっと見つめられて、困ってしまった。
「私、もしかして恥ずかしいこと言ってる……?」
「いや。カリンの素直な気持ちが聞けて嬉しい。……早く帰ろう」
乗合馬車の中で私達はお互いの手を握り合った。
私がリーヌス様の指輪に触れたいみたいに、彼も私の指輪に触れていたいみたいだった。
馬車には疲れて眠るおじいさんと、眠る子供達を抱えた一組の家族だけ。誰も私達のことを気にかける人はいない。
馬車を下りた後も、暗い道は危ないからと言ってリーヌス様が私を縦に抱き上げた。
「リーヌス様も疲れているでしょ? 私歩けるから……」
「歩けるのはわかっているけど、家までもうすぐだからこのままでいたい。今日は楽しかったから、全く疲れていないんだ」
そう言って笑うから、私はほっとして体を預けた。正直、馬車に乗っている間にどっと疲れが押し寄せて。
リーヌス様は騎士様達の中では細身にみえるけど、力も安定感もあって、しっかり鍛えられていると思う。
意識したら恥ずかしくなってきた。
今好きって言っていいのかな。
大聖堂でリーヌス様に好きって言われたのに、私はそれに応えてない。
「カリン……? 眠くなった?」
リーヌス様が黙る私の背中をぽんぽん叩く。
「大丈夫。……あのね。リーヌス様、大好き。さっき言えなかったけど……結婚してからリーヌス様に恋したの。私ってとても幸せだと思う」
「…………」
今度はリーヌス様が黙ってしまって、私はこの沈黙が耐えられなくて。
「あの、大聖堂で……すごく嬉しかった。指輪も見るたびに幸せだし、他の人と結婚していたら、こんな気持ちになれなかったと思うから、えっと……リーヌス様?」
リーヌス様はさっきから少し早足で。
大股で歩くから揺れて私はぎゅっとしがみついた。
「カリン、やっと着いた」
朝起きて感じるリーヌス様の鼓動より、今のほうが少し速い。
「約束、覚えている?」
結婚して1ヶ月後の休みに、私達は本物の夫婦になろうって約束した。
「……はい」
今夜のことを忘れていたわけじゃない。
あれ以来このことを口に出すことはなかったけど、今日のデートが本当に楽しくて浮かれていて――それが今、現実味を帯びた。
「この1ヶ月、ずっと楽しみだったよ」
0
お気に入りに追加
1,572
あなたにおすすめの小説
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
エリート騎士は、移し身の乙女を甘やかしたい
当麻月菜
恋愛
娼館に身を置くティアは、他人の傷を自分に移すことができる通称”移し身”という術を持つ少女。
そんなティアはある日、路地裏で深手を負った騎士グレンシスの命を救った。……理由は単純。とてもイケメンだったから。
そして二人は、3年後ひょんなことから再会をする。
けれど自分を救ってくれた相手とは露知らず、グレンはティアに対して横柄な態度を取ってしまい………。
これは複雑な事情を抱え諦めモードでいる少女と、順風満帆に生きてきたエリート騎士が互いの価値観を少しずつ共有し恋を育むお話です。
※◇が付いているお話は、主にグレンシスに重点を置いたものになります。
※他のサイトにも重複投稿させていただいております。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる