声に出して、伝えて

能登原あめ

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 エリヤスさんと暮らし始めて3ヶ月。
 朝は一緒に家を出て淡々と仕事をこなし、2人で同じ家に帰る。

 最初こそどうやって時間を過ごしたらいいかわからなかったけど、お手伝いさんが食事を温めるだけにしてくれているから、一緒に食べて、その後お風呂に入る。
 眠るまでの間はおしゃべりしたり、読書したりと色々。

 お惣菜屋さんには休みの日に2人で散歩しながら立ち寄ることもあるし、私が起きられない朝はエリヤスさんがお昼ご飯を買いに行くこともあった。
 ようやく慣れてきたこの生活、まだ慣れないこともある。

「リェーナ、おいで」

 先にベッドに入っていたエリヤスさんが、私を呼ぶ。

「……うん」

 横になると、エリヤスさんが私を抱き寄せる。
 彼の腕の中は温かくて、ドキドキするのにほっとするから変な感じ。
 この家に住み始めてからずっと一緒に眠っているのに、いつまで経っても心臓が落ち着かない。
 一緒にいる時間が増えるほど、もっと好きになるからかも。

「リェーナ」

 名前を呼ばれて顔を上げると唇が重なった。
 エリヤスさんの唇は柔らかくて、大きい。何度か重ねた後、私の唇を舐めたり啄んだりしてから舌を口内へ差し入れてくる。
 探るように動くエリヤスさんの舌が、私の舌を見つけて絡んだ。

「ん……」

 ついていくのに精いっぱいの私を愛おしそうに見つめる瞳と出会う。
 一気に体温が上がるのを感じて思わず視線をそらした。エリヤスさんは顔中にキスを落とすから、ちらっと視線を上げると、

「……可愛い、好きだよ」

 私の目を見て言った後、もう一度唇にキスする。
 いつのまにか大きな手が寝間着を巻き上げて直に背中を撫でた。
 ただ触れているだけなのに腰の辺りがむずむずしてくる。

「……エリヤス、さん」
 
 結婚の挨拶の時、男爵夫人が私を呼び出し夫婦の営みについて教えてくれた。
 その後迎えた初夜はとても優しく触れてくれたけど、痛くて涙が出た。
 エリヤスさんは私にたくさんキスして抱きしめて。その後もとても労ってくれたし、すごく大事にされているって感じた。

 それから回を重ね、私の体はエリヤスさんが触れるとすぐに熱くなる。
 今だって、ふくらみを包みこんだ手が私の反応を引き出すように柔らかく動く。
 優しすぎて、もっと触っても大丈夫って思うけど、恥ずかしいから言えなくてもどかしい。

「ん……」

 エリヤスさんは低く笑って、私を飲み込んでしまうような深いキスをした。

「んぅ……」
「リェーナ、可愛い。もっと」

 もっと?
 舌を伸ばすと彼の口の中へ誘い込まれた。
 頭の中がどんどんぼんやりしてきて、いつの間にかお互いに何も着ていない。
 夜はいつでも、そう。

 胸の先端を指先で弄られて、お腹の奥がきゅうとなる。
 エリヤスさんに体を作り変えられてしまったみたい。なんとかして欲しくて彼に体を押しつけた。

「そんなに焦らなくても」

 余裕のある態度に、私だけが熱くなっているみたいでなぜか泣きたくなる。

「あぁ、そんな顔しないで。優しくできなくなる」

 昼間のエリヤスさんは優しい。
 でも夜は少し優しくない。
 私が可愛すぎるからだって言うけれど、夜になると普段は隠されたエリヤスさんの雄の部分が前に出てくるのかも。

「ん!」

 エリヤスさんの口がふくらみの先端をとらえた。熱さと、生き物みたいに動く舌のせいで、触れられていない脚のつけ根も潤んでくる。
 私の反応が嬉しいってエリヤスさんは言うけど、勝手に彼を迎える準備をしているみたいで恥ずかしい。

「リェーナ、力を抜いて」

 きつく閉じていた太ももは、エリヤスによって開かれた。
 この時間が一番慣れなくて、両手で顔を覆ってしまう。

「痛くないようにするから」
「……うん」

 今では少しも痛くない。
 触れられるとすごく気持ちがよくて、耐えられない。
 エリヤスさんは毎回丁寧に、受け入れられるようにほぐしてくれて、全然やめてくれなかった。
 彼の指が触れると、水音がして濡れているのがよくわかる。
 そのまま指をすべらせて上下に撫でてからゆっくり開いた。
 
「露に濡れて、可愛い」
「言わないで……」

 どうしたら恥ずかしくなくなるんだろう。
 彼の指が脚のつけ根にある突起を、指先ですべらせるように撫でた。

「……っ!」
「刺激が強すぎた?」

 話しながらも指はそのまま。私の反応を見て指の動きを変える。

「痛くない?」

 ゆっくりと指を差し入れながら、エリヤスさんが訊く。
 口を閉じたまま首を縦に振って頷いた。
 そうしないと、口からあられも無い声が出てしまうから。

「よかった」

 初夜も同じように丁寧に触れてくれたけど、あの時のような違和感は全くなくて私の反応するところばかりゆるゆると触れてくる。
 
「ん、……っ」

 指が追加されて、腰の辺りが甘く痺れた。

「腰、浮いてる。可愛いな……もう少し」

 エリヤスさんは初めての時に私が痛がったのをすごく気にしているみたい。
 男爵夫人にも聞いていたから、気にしなくていいと伝えたけど……最近はエリヤスさんが楽しんでいるのかもってほんの少し疑っている。
 たくさん準備に時間をかけるとその分私だけ変になってつらいのに。
 今だって――。

「エリヤス、さんっ、もう……っ!」

 脚のつけ根の突起に息がかかって、ぬるりと舐められた。
 熱が溜まっているから、新しい刺激に弱い。
 脚に力が入って勝手に体が跳ねる。

「もっと気持ちよくなってから」

 指が増やされた時、目の前がチカチカ光って真っ白になった。
 極点まで押し上げられた後は、私の快楽を引き延ばすようにゆっくり指を動かし続ける。
 
「~~っ、……!」
「そろそろ、顔を見せて」

 私は首を横に大きく振った。
 顔を覆っていると息苦しいけど、外したくない。
 今のエリヤスさんの顔はいつもは見せない雄の顔をして笑っているはず。
 全部食べられてしまうんじゃないかって、ぞくりとするのにそれでもいいって思ってしまって、ひどく長い夜を過ごすことになるから。
 
「しかたないね」

 そう言ってエリヤスさんが指を引き抜いた。
 ベッドが軋んで彼が起き上がったのがわかる。
 膝の裏に手をかけて持ち上げ、脚のつけ根にゆっくりと彼自身が擦りつけられた。

 それだけで私の体はひくんと跳ねる。
 長大なものが前後に動いて突起を刺激した。

 どうしよう。
 もやがかかったみたいに、頭の中が空っぽになっていく。
 そっと、指のすきまからエリヤスさんをのぞき見た。
 やっぱり楽しそうな表情で私を見ている。

「……っ、……ふ」

 一定のリズムのせいで再び熱が溜まっていく。
 気持ちよくてぎゅっと閉じていた唇から息が漏れ、手のひらを唇に強く押し当て声を抑えた。

「リェーナ」

 エリヤスさんが体を倒して私の手の甲に優しくキスする。

「ほら、外して。キスもできない」

 再び指の間からのぞく。
 
「愛しているよ、リェーナ」
「……私も」

 とうとう諦めて、ゆっくり手を退けた。
 嬉しそうなエリヤスさんの顔が近づいてきて、触れる直前で止まる。
 吐息がかかる距離に胸が痛いくらい心臓が強く打つ。
 キスしてほしいのは、私のほうだったかもしれない。
 止まったままのエリヤスさんがささやいた。

「まだ恥ずかしい?」
「うん」
「慣れて」

 返事をする前に深く唇が合わさった。
 擦りつけられていた彼自身が確かな動きで私の中へ押し入る。

「んんっ!」

 ぴったりと体が合わさって、エリヤスさんが顔を上げた。

「痛くない?」
「うん」
「よかった」

 私の両手をそれぞれ指を絡めるように握った。
 手をつなぐと心もつないでいるみたいに感じるけど、顔を隠すことも声を抑えることもできない。
 それならずっとキスしてくれたらいいのに。
 でも、はしたなくて言えない。
 
「リェーナ、愛している。俺だって全部さらしているんだ。そのままのリェーナも可愛いよ」

 エリヤスさんが腰を揺らすと、2人のつながりから濡れた音がする。
 それからゆっくり引いてゆっくり押し挿れた。
 
「大丈夫そうだね」
「ん…………、あっ!」

 エリヤスさんは、穏やかに一定のリズムを刻んでいたかと思うと、ぐっと奥まで押しつける。
 緩急をつけた動きに、私は声を抑えられなくて。

「だめ……あぁっ、んっ……あ、はっ」
「だめ? どうして?」

 目の前がぼやける。
 ぽろっと涙がこぼれるけど、生理的なもの。
 痛いとか怖いとかじゃない。
 
「ん、だって……頭の中、おかしくなる、から……あっ、あっ、エリヤスさんっ!」

 正直に話したのに。
 エリヤスさんは全然止まってくれない。
 反応するところばかり突いて、押しつけて、そうされると私――。
 
「あ、あぁッ、も、へんッ、あ――!」

 再び極点に押し上げられて、そのまま降りてこられなくなる。

「あー……可愛い、愛しているよ。もっと、声を聞かせて」

 エリヤスさんは体を起こして、私の腰が浮くくらい高く持ち上げた。
 そのまま上から落とし込むように突かれると、当たる場所が変わる。

「あーっ、あーっ、だめッ、あーー!」
「本当に? 絡みついて……ッ、すごくうねってる」

 エリヤスさんからも堪えるような吐息が漏らす。
 律動が速まり私は声を上げ続け、しばらくした後で、ぐっと奥に押しつけて子種を吐き出した。
 お腹の中にじわじわと温かく広がって、その刺激にも体が喜ぶように震える。

「愛しているよ、リェーナ……」
「……私も、愛してます」

 上から覆い被されて、ぎゅっと抱きしめられて、深く息を吐いた。
 ちょうどいい重みを感じながら、お互いの心音をしばらく黙って聞いていると、エリヤスさんが顔を上げる。

「眠い?」
「うん、少し」

 本当は目を閉じたら今すぐにでも眠りに落ちそう。
 それがわかったのか、エリヤスさんが
私と体の位置を入れ替えた。
 彼の上に乗って、だらしなく手足を伸ばす。もう力が入らない。

「リェーナ、愛している」
「私も愛してる……大好き」
「俺も大好きだ」

 エリヤスさんが息を漏らして笑ったのがわかった。
 なんで笑うんだろう。
 おかしなことなんて言っていないのに。

「眠っていいよ。あとは任せて」

 抱きしめられたまま背中を撫でられているとどんどん目蓋が重くなる。
 本当はベタベタした体をきれいにしたいし、エリヤスさんに明日のこととか、この後のこととか話したいことがあるのに。

「好き……幸せ」
「俺も」

 エリヤスさんの腕の中はとても心地よくて、私は満たされていて――。

「おやすみ、リェーナ」

 続きはまたあとで、って声がかすかに聞こえて……私はそのまま眠りに落ちた。


 
 
 
 

 






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