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深く、静かに、激しく
しおりを挟む落とした腰を、拙い動きで必死に動かした。
ディルグの大きな手が、メルティーナの腰を支えてくれている。
恥ずかしい姿を見られている。視線が肌に触れるような気さえするほどに。
羞恥が快楽を煽るようだった。ディルグの腹に手を突いたまま、腰を浮かし、そして再び沈み込む。
「は、ぁ……あ、ぅ……っ」
自重のために、深く、深く、奥まで彼が届く。
子宮の入り口を押し広げるように彼の先端がメルティーナの深いところを、どちゅりと押し上げ、ぴったりと口付ける。
その都度、びりびりとした快楽が背中を走り抜けて、メルティーナは恍惚の涙をこぼした。
「ディルグ、さま……っ、きもち、い、ですか……?」
自分ばかりが、一人で好くなってしまっているようで、不安になる。
動くことのできない彼を、玩具のようにしているような気さえしてくる。
ディルグに気持ちよくなってほしいのに、昂ぶるのはメルティーナの体ばかりで。
もしかしたらこれは、独りよがりな行為かもしれない。
「わ、わたし……っ、ごめん、なさい……こんな、はず、じゃ……」
「どんな?」
優しく問われて、潤んだ瞳でディルグを見あげる。
ディルグの頬は僅かに朱色に染まり、喉の奥で唸るように、吐息を噛み殺している。
切なげに寄せられた眉や、平素よりも色彩の薄くなった瞳が、彼の興奮を伝えてくれるようだった。
「わたし、だけ、気持ちがいい、みたいで……っ」
「俺も同じだ、ティーナ。……狂おしいほどに、気持ちがいい。こらえていないと、すぐに達してしまいそうになる」
「して、ください……ディルグさま、なか、に……」
ディルグも、感じてくれている。
メルティーナの中でディルグが更に大きく膨れるのを感じて、心が歓喜に震えた。
静かな部屋に、はしたない水音と、小さな声だけが響いている。
この部屋のこと以外は、なにもわからない。
世界に二人だけになってしまったように。
愛しい、好き、あなたが大好き。その気持ちだけで、頭の中がいっぱいになる。
ディルグの手が、メルティーナの手を握る。指を一本一本絡ませ合うように繋がれた。
力強い手のひらを支えにしながら、メルティーナは更に腰を上下に揺すり、体の中央を貫いているディルグの欲望を、肉壁で包み込み擦りあげた。
「ティーナ……愛している、ティーナ……」
それは、泣き出しそうな声だった。
いつか、獣の姿をしたディルグに跨がり、星降りの丘にのぼった。
こうしていると、その時のことを思い出す。まるで、その背に乗って揺られているようだ。
今は、メルティーナは自ら腰を揺らしているけれど。
あの時から、メルティーナはディルグを信じると決めた。
ディルグになら傷つけられてもいいと、本心から、思っていた。
「ディルグ様、好きです、すき、すき……っ、どんなあなたでも、あなたが好き……っ」
高い場所に押し上げられるように、メルティーナの頭はぼんやりと覚束なくなってくる。
あの時の星が、天井から落ちてきているかのようだった。
手を伸ばしても届かない星たちが、きらきらと、降ってくる。
「っ、あ、ああっ、でぃる、ぐ、さま……もう、だめ、きちゃ、う……っ、あ、あ……っ」
「ティーナ……」
メルティーナの中がうねり、ディルグをきゅうきゅうと絞る。
その刺激に応えるように、ディルグは下から腰を幾度も突き上げた。
はくはく息をつきながら、メルティーナはディルグの上で体を跳ねさせる。
静かな、激しい熱に体が満たされていく。
まるで、二人で手を繋いで、どこか深い水底に沈んで行くような。
そこには幸福だけがある。誰にも否定されない、邪魔をされない静かな幸福のなかに沈んでいく。
「っ、……ふ、ぁ、……あ、……あっ」
どくりと震えた欲望から、メルティーナの胎の奥へと熱い液体がほとばしる。
それはメルティーナの奥を満たした。
頭の中が白く濁り、メルティーナはディルグの体の上にくたりと倒れ込む。
しっかりと受け止めて、背を撫でてくれる手が、優しい。
額に、髪に、穏やかな口付けが落ちる。
うっとりと目を細めて、メルティーナはその甘さを享受した。
「……ティーナ、つらくなかったか」
「……ない、です」
メルティーナはディルグの胸に、甘えるように頬をつける。
人の温もりを、長い間忘れていた。
ずっと、一人だった。
村の人々は優しかった、よくしてもらっていたが、心に開いた穴からは冷たい風が吹き込んでいた。
一人の夜は怖くて、寂しくて。
それを認めることは弱いことだと思い込み、幾度も、大丈夫だと言い聞かせていた。
「ディルグ様、ディルグ様……寂しかった、不安でした、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「謝るのは、俺のほうだ」
「ごめんなさい、私が、いなくなったから……」
「君にその選択を選ばせたのは、俺の罪だ。……ティーナ、それでも俺は、君を愛している。君と生きたい。……会いたかった、ティーナ。俺の、ティーナ。もう、二度と離さない」
頬に包み込むように触れられて、唇が重なった。
舌で唇を舐られて、誘うように唇を開く。
舌が触れ合い、絡まる。口蓋の凹凸を撫でられて、舌の裏側までを舐られる。
メルティーナはディルグの首に抱きついて、必死に彼に応えた。
繋がったままのディルグの欲望が、再び熱をもっているのを感じる。
ゆるゆると突き上げられて、呼吸の狭間にくぐもった声を漏らした。
「っ、ん、ん……んぅ、ぁ……」
大きな手が、メルティーナの豊かな膨らみを撫でる。
指を柔らかい肉に埋めて、こねるように揉んだ。
ディルグの尻尾が、メルティーナの足を撫でる。そのくすぐったさも、熱を帯びた体は快楽として拾いあげていく。
「っ、ん、ぁ、あ……っ」
「ティーナ、会いたかった……愛している、君だけだ、ティーナ。君に触れたかった。声が聞きたかった。愛している、ティーナ」
「でぃるぐ、さま……っ、でぃる、っ、あ、あっ、あ……っ」
次第に激しくなっていく突き上げに、メルティーナはディルグにしがみつくことしかできない。
閉じた瞳の裏側に、星が散っている。
二人でみあげた星空が、すぐそこにある。
「きもち、い……でぃるぐさま、あぁ……っ」
「あぁ。俺も……同じだ」
「うれしい、です……きもちいの、ディルグ、さま……あっ、わたし、もう……っ」
メルティーナは先程、ディルグがどう思っているかわからずに不安になった。
だから言葉で伝えると、ディルグは嬉しそうに目を細めた。
ぞくぞくが、何度も背中を駆け、体中を支配して。
最奥をがつがつと穿たれて、メルティーナはきつくディルグに抱きついた。
再びの果てが近づいてくる。
ずっとこうしていたい。けれどもう、終わりがいい。
激しすぎる快楽に、どうしてか、逃げたくなってしまう。
相反する二つの感情に混乱しながら、ディルグの骨張った背中を抱きしめた。
「あ、あ……あ……っ」
もう一度、中に精が放たれる。
メルティーナは言葉にならない声をあげながら、それを受け入れた。
くたりと体から力が抜けていく。
ディルグはメルティーナの体を抱きしめる。獣が、大切なものを守るように。
腕と長い尾で包み込み、重なり合うように。
「……ティーナ、ここに、いてくれ。俺が目覚めた時、傍に」
「はい……ディルグ様。あたたかい、きもちいい……」
深く、深く、どこかに沈んで行くように。
甘い倦怠感にたゆたいながら目を閉じると、すぐに、ゆるりと意識が途切れていった。
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