上 下
20 / 56

 運命の人 2

しおりを挟む

 ディルグと手を繋いで、学園への道を歩いて行く。
 もうすぐ冬期休暇になる。年末にはセラフィーナの大祝賀会が催される。
 これは、王国全土で、王国民の信仰の対象である、女神セラフィーナの生誕を祝うものである。

 王城には貴族たちが集まり、祝いの会が催されて、ダンスや食事を楽しむ。
 去年メルティーナは不参加だった。
 王都に向かおうとした時には、王都に続く街道が雪で埋まってしまっていたのだ。
 父が手紙鳩を飛ばして、国王陛下に謝罪の手紙を送った。

 ──だが、メルティーナは口に出さなかったけれど、あれは父がわざと出立を後らせていたのではないかと思う。
 今思えば父は極力、メルティーナとディルグを会わせないようにしていた。
 それもメルティーナを守るためだったのだろう。

 本当は、婚約者であるメルティーナは率先して参加をしなくてはいけなかったのに。
 ディルグはそれでも怒らず、メルティーナを責めるようなこともしなかった。
 ディルグには、申し訳ないことばかりをしていた。
  
 今年は彼の隣に並ぶことができる。一緒に踊ることができるだろうか。
 着飾って、晩餐会を楽しむことができるだろうか。
 ──楽しみだ。

「……っ」

 不意に、ディルグが息を飲んだ。
 視線の先には、一人の少女がいる。
 見たことのない少女だ。メルティーナと同じぐらいの年齢だろうか。
 学園の、真新しい制服を着ている。降りしきる雪と同じような、ふわりとした白の髪に、垂れたうさぎのような耳がはえていた。

 人獣の少女である。空を見あげていた彼女は、彼女は困り果てた顔をして──メルティーナとディルグのほうに振り向いた。

 大きな桃色の瞳に、薔薇色の頬。小さな鼻と唇が可愛らしい顔立ちの少女だ。
 彼女はぱちぱちと、目をしばたかせて、じっとディルグを見つめた。
 その頬が、更に赤みを増した。その瞳が、潤んだ。

「あ──あの。わ、私、イルマール辺境伯家の三女で、ヴィオレットともうします。体が弱く、ようやく外出することができるようになって、今日、はじめての登校で……校舎に行こうとしたら、迷ってしまって」

 遠慮がちで愛らしい声が、メルティーナの心を雪雲のような暗雲で覆い尽くしていく。
 ディルグのメルティーナと繋いだ手に、痛いぐらいの力が込もる。

「──ティーナ、案内を頼めるか?」
「はい、もちろんです」

 ディルグは低い声でそれだけ言うと、メルティーナから手を離して、その場からいなくなった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

処理中です...