9 / 56
あなたの優しさを、愛情を 2
しおりを挟む悲しみは、まだきりきりと心臓を締め付けている。
けれど──ディルグの温もりが、声が、言葉が、感情が、メルティーナの悲しみを半分受け取ってくれるような気さえした。
「ティーナ、俺と君は、手の大きさが違う。体の形が違う。声も違うし、生まれた場所も違う」
「そうですね、違います」
「だが、出会った。俺は君に出会って恋をした。他の誰でもない、君に恋をしたんだ。耳と尻尾があるかないかなど、ほんの少しの違いだろう? それ以外にも、君と俺とはあまりにも、違う」
「……ディルグ様は、大きいです。手も大きくて、体も大きくて、私よりも年上で」
「君は俺よりも小さい。年下で、体も小さくて柔らかい。声も、耳が蕩けるほどに甘い」
重なった手を、慎重に握られる。
握った手を引き寄せられて、指先に唇が触れた。
「君が、好きだ。この一年でもっと、好きになった。今まで手紙など書いたことがなかった。だが、君には書きたいと思う。君の返事を待ち望んでいる。そうすると、毎日がとても楽しいんだ」
「私も同じです。ディルグ様の手紙を読むと、心が弾むようで……」
「それは……君も俺のことが好きだと……自惚れていいか?」
メルティーナは、こくんと頷いた。
恥ずかしくて、好きだとは口に出せなかった。
彼はいつか自分を裏切るかもしれない。捨てるかもしれない。
そう思いながら傍にいるなんて──それこそ、彼に対する酷い裏切りだろう。
両親のいいつけには反してしまうけれど、両親なき今、メルティーナは自分自身で考えていかなくてはいけない。
そしてメルティーナ自身が、ディルグが好きだと、信じたいと思っている。
どんな結果になったとしても。ディルグの、優しさを、愛情を、裏切りたくない。
「……君の両親に、約束をしなくてはいけないな。必ず君を幸せにする。何があってもずっと一緒だ、ティーナ」
「ディルグ様……嬉しいです。……きっと両親も安心してくれています。私も、泣いてばかりいないで、あなたに相応しい女にならなくてはいけません」
「君はそのままで十分だ。何か辛いことがあったらすぐに俺に言って欲しい」
「はい。……ありがとうございます」
番の話は──胸の奥に隠しておいたほうがいいのだろう。
ディルグを疑いたくない。そして同時に、疑っていたことを、知られたくなかった。
「ティーナ……眠れないなら、話をしようか。それとも、ただ、抱きしめていようか」
「……ありがとうございます、ディルグ様。あなたがいてくださって、よかった。大丈夫です、眠ることができそうです」
「そうか。おやすみ、ティーナ。君が怖い夢も、不安な夢もみないように」
ディルグは、メルティーナが眠るまでずっと、髪を撫でたり頬を撫でたり、額に口付けたりを繰り返した。
やがて、柔らかい眠りの淵へとメルティーナは落ちていった。
夢の中で両親が、「それがお前の選択なら、最後まで頑張りなさい」と、微笑んでくれたような気がした。
362
お気に入りに追加
2,386
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる