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シャーロット様、三倍返しする

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 そう。
 私はやり返したのである。

 オリーフィアさんは被害者で、私が加害者に見えてしまうだろうとか、そんなことはどうでも良い。
 私に攻撃するとはどういうことなのかを、思い知らせてやらなければいけない。

 目の前を飛ぶ邪魔な羽虫は両手で叩き潰すもの。
 それと同じだ。
 もちろん私にぶつかってきたのが、故意ではなければ、本当にただの失敗だったとしたら、私も口で注意をする程度で、やり返したりはしないのだけれど、オリーフィアさんの場合はそうじゃない。

 純粋な悪意には、悪意で応じる。私が怒らないと思ったら大間違いである。
 それで自分の立場が悪くなろうが、誰かが私を恐れようが、そんなことはどうでも良い。

 そして今、私が間借りしている白沢果林は、三月さんによってびしょ濡れにされた。

「甘いわね……」

 全身から雫をこぼしながら、私はつぶやく。
 三月さんはもしかしたら悪い人間ではないのではないかしら。
 ホースの水というのは清潔だし、トイレの床には排水溝があるので、水をぶちまけても大して問題にはならない。

 私としては濡れたぐらいで、怪我をしたわけでもないし、私が加害者にされたというわけでもない。

「オリーフィアさんの方がしたたかだったわね」

 髪やドレスをジュースまみれにしたオリーフィアさんと私は、セルジュ様の計らいで控えの間に通された。
 事情を聞くから待機していろと命じられて大人しくしていると、オリーフィアさんは自分のドレスを自分でびりびりに引き裂いたのである。
 そして、やってきたセルジュ様に、私に暴力を振るわれたと言って泣きついた。

 セルジュ様がオリーフィアさんを信じたかどうかはわからないけれど、そちらがそのつもりなら、私が自らドレスを引き裂いて、扇で横面を叩いてやればよかったと思う。

 セルジュ様にはその後注意された。
 事情はどうあれ、腹が立っても耐えなければいけないこともあるのだと。
 けれど私はセルジュ様のいうことを聞かなかった。だって私が我慢をするなどおかしな話だからだ。

 そうして、婚約は白紙に戻されて、私は死んでしまったというわけである。

「懐かしい……女同士の争いというのは、どこの国でも一緒ね」

 オリーフィアさんはセルジュ様の婚約者だった私を羨んでいたのだろう。
 そして三月さんは、紅樹先輩やルイ先輩に構われている果林を羨んでいる。

「構われているというか、絡まれているというか、だけれど……」

 ともかく私は、トイレの掃除用具入れをあさった。
 そしてそこからバケツを引っ張り出すと、水を溜めて、それを手にして颯爽と女子トイレを後にしたのである。

 水をぼたぼた滴らせながらバケツを手にして歩く私に、他の生徒たちがギョッとした視線を向けてくる。
 私はまっすぐ教室へ向かった。
 教室では、自分の席に座って、三月さんが先ほどの女生徒たちと一緒に楽しそうに何かを話している。

 教室に入った私を、三月さんが見て、大声で笑い始めた。

「白沢さん、ずぶ濡れじゃない、どうしたの~? そういえば水泳部に入ったんだよね、もうプールに入ってきたの? 待ちきれなかったのかなぁ」

 他の生徒たちも、私の姿を見ている。
 私は濡れているし、濡れた制服では肌も透けて見えるだろう。
 けれど、私には何の落ち度もない。恥じる必要など何一つない。

「そういえば、部活見に行ってあげようと思ってたんだ。白沢さん、入る水着あるのかなぁって。サイズいくつ? 私の貸してあげようか。白沢さんが着たら破けちゃうかなぁ」

 三月の言葉に、ぎょっとしていた他の生徒たちも、私を小馬鹿にしたように笑い始める。
 あぁ、馬鹿ばかりだわ。

 あなたはこんな場所で、生きているのね、果林。 

「白沢さん、何かあった……?」

 教室の隅の席で本を読んでいた楓が立ち上がって、私に話しかけてくれる。
 私は楓に返事をせずに、三月さんの前までまっすぐ進むと、手にしていたバケツの水を三月さんの頭から、ざばっとかけた。

「何するのよ……!」

 三月さんや、女生徒たちから悲鳴が上がる。
 私は三月さんに向かって胸を逸らして微笑んだ。

「水をかけられる覚悟があるものだけが、私に水をかけなさい。やったらやり返される。私が泣き寝入りすると思ったら大間違いよ。これは当然の報復」

「あんたなんてブスで馬鹿で豚で、誰にも相手にされない癖に……!」

「それが、何か? 子供みたいな悪口しか言えないのね、三月さん。まるで、幼児の悪口だわ」

 やれやれと、私はため息をついた。
 三月さんの体も机もびしょ濡れになって、床に水溜りができている。

「これで少しはあなたの心の汚れも綺麗になったかしら」

「………ふざけるんじゃないわよ……!」

 怒りに震えながら、三月さんが私に掴みかかってこようとする。

「二人とも、保健室へ。一緒に来なさい。次の授業は自習。皆で協力して、床を掃除しておくように」

 いつの間にか教室に来ていたサリエルが、落ち着いた声音で言った。
 それから暴れる三月さんを小脇に抱えて、教室から出ていった。

「白沢さん、大丈夫?」

「平気よ。それよりも、放課後はプール掃除よ、楓。どうせ濡れるのだから、今濡れてもいつ濡れても同じこと」

「そう……」

 心配そうな楓に私は返事をして、サリエルの後を追った。
 サリエルに邪魔をされなければ、掴みかかってきた三月さんの頬を叩くなどしてもう少しスッキリできたかもしれないのに、残念だわ。


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