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私の家族です、旦那様!
しおりを挟むお兄様とお父様は、オルデイル牛から颯爽と降りた。
颯爽と降りたのは体格のいいお兄様だけで、お父様は足をばたつかせながらよいしょ、という感じで降りていた。
「どうしたのですか、二人とも! どうしてここに、それで牛が、一体どこから?」
「ディジー、元気そうでなによりだ!」
「ディジーちゃん、会いたかったよ……!」
豪快に笑いながらお兄様が私をぐりぐり撫でて、お父様はうるうる泣いた。
お兄様は密林に住むゴリラに似ている。体型が。お父様はたぬきに似ている。丸くて可愛らしい。
お二人ともいつも通りお元気そうだった。
「エステランド伯爵、それにヴェイク殿。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ダンテ・ミランティスです」
「これはこれは、ダンテ様!」
「噂に違わない偉丈夫ですな! こちらこそ、とんだ無作法をしてしまい申し訳ありません」
お父様はハンチング帽を脱いだ。てっぺんの薄い頭が現れる。その頭を撫でて「薄毛で失礼します」とお父様は言った。
ダンテ様は眉間の皺を深くした。
「ど、どうしよう、ディジーちゃん。ミランティス公を怒らせてしまった……!」
「大丈夫ですよ、お父様。怒っているわけではなくて、あのお顔はどう反応していいのかわからないという顔です」
「わかるのかい、ディジーちゃん」
「さすがは夫婦だ、以心伝心というやつだな」
お父様が心配しながら私にこそこそ言って、お兄様は快活に笑った。
「ダンテ様、お父様はいつもこんな感じですので、笑ってくださっていいのですよ」
「いや、しかし。エステランド伯爵にそれは失礼というものだろう」
「エステランド伯爵なんて……! 僕はただの田舎の農家です。ディジーちゃんの父親なので、ミランティス公の父ということにもなりますね。こ、こんな立派な息子ができてしまった……僕よりも頭が四つも五つも大きく、足が四倍も長い息子が……!」
「お父様、さすがにそれでは、ダンテ様が巨人すぎます」
「そうかな!」
「父親……」
ダンテ様がぽつりと呟く。
私たちを少し離れたところで見守りながら、ロゼッタさんたちが「本当にタンクトップでいらっしゃる……」「ハンチング帽だわ……!」とざわざわしている。
「ダンテ様は俺よりも年が若いとお聞きしました。つまり、俺のことは兄と」
「兄……」
「お、おこがましかったでしょうか」
「すみません、ダンテ様がディジーと仲良くしているのが嬉しくて、つい」
「いえ。……ありがたく思います」
硬い表情のままダンテ様が言う。
お父様とお兄様が一瞬困ったように顔を見合わせるので、私は慌てて「今はとても嬉しいと思っていらっしゃいます。とても嬉しいというお顔です、ね、ダンテ様!」と付け加えた。
「ディジーちゃん、嫁いでからまだ少ししかたっていないのに、すっかり仲良しになって……」
「ディジーならば大丈夫だろうとは思ってはいたが、本当に大丈夫そうで安心した」
「はい! ミランティス家の方々にも、街の人たちにもとってもよくしていただいていて……それよりも、お二人はどうして」
「ディジーちゃんの結婚式のために、物見遊山がてら早めに出立していてね。なんせ、都会に出るのは久々だし、せっかくならゆっくりと街を眺めたいと思って」
「実は数日前から、ヴィレワークの街に滞在をしていたんだ」
「そうだったのですね。連絡をくださればよかったのに」
「あまり早くにミランティス家に行ってもね、ほら、気をつかわせてしまうなぁと思って」
「見るものがたくさんあって、いつの間にか一日が終わっているという感じで……そうしたら、吹雪の予報だろう? 俺たちも吹雪の準備を手伝ったりしていた。それで、天候が落ち着いて外に出てみたら、大聖堂が雪で埋まっていると街の人たちが心配をしていてな」
そこで、お父様たちは話し合い、救出に向かうことを決めたらしい。
先に闘牛場で見ていたオルデイル牛が役に立つという話になり、闘牛場に借りに行ったのだそう。
闘牛場の方々は「ディジー様のご家族様にならもちろんお貸しいたしますよ」と言って、快くオルデイル牛を貸してくれたそうだ。
そうして、大聖堂の前まで雪道を突き進んできたところ、私やダンテ様の姿を見つけたというわけである。
「こんなに壁のようになってしまっては、人の手で掘り進めるのは難しいだろう。のぼったとしても、皆を救出するのは難しいし、物資を運ぶにも人の手で運べる量には限りがある。だから、お父様に任せなさい」
小柄でまん丸いお父様は、胸を張って言った。
いつも愛嬌のある姿で、可愛らしいお父様だけれど、今日はとても頼りになる。
私たちが見守る中、お父様はオルデイル牛に乗ってずんずんと丘を進んでいく。
雪深い道を牛が進むことで雪が踏み固められて、道ができていく。
その後をお兄様の牛も従った。
「馬に乗る者は多く見ますけれど、牛に乗る者を見るのははじめてです」
「あぁ。牛に乗るとは、考えたこともなかったな」
「馬よりも牛の方が強いのではないでしょうか。甲冑を着せて敵軍に突っ込めば、すぐに敵兵など散り散りに……」
ダンテ様に話しかけているカールさんを、ヴァルツが鼻先で強く突いた。
「ごめん、ヴァルツ。馬の悪口じゃないんだ、許せ。ごめんって」
「ヴァルツも頼りになりますよ」
私はヴァルツの体を撫でる。ヴァルツは甘えるように私に鼻先を擦り付けた。
「カールさん、馬心がわかっていませんね」
「馬心がわからないから、女心もわからないのです」
「本当にそう」
ロゼッタさんが呆れて、侍女さんたちが口々にカールさんを責める。
カールさんは「悪かったなぁ、だから恋人がいないとか言いたいんだろ」と苦笑した。
「それにしても、君の家族は、力強いな。君と同じで」
「ふふ、そうでしょう。私の家族は、ダンテ様の家族でもあります。それにお父様もお兄様も、オルデイル牛に乗りたかったのだと思いますよ」
あれほど立派なオルデイル牛は見たことがないから、もちろん大聖堂の救援のためもあるのだろうけれど、オルデイル牛に乗りたい気持ちも多くあったのではないかしら。
それぐらい、二人とも生き生きしている。
雪山に慣れている牛たちは、難なく丘を登り切った。
牛たちののぼった後には、人が通ることができるほどの道ができていた。
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