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ヴァルディアの惨劇 1
しおりを挟むローラウド皇帝、クオンツ・ローラウドはローラウド人に特徴的な燃えるような赤毛の男である。
赤毛に金の瞳は太陽を思わせるが、穏やかな陽光ではなく、乾いた大地に照り付けるような肌を焼く強い日差しのようだ。
口元に浮かぶ笑みはどこか酷薄で、金の瞳は人を射るような輝きを放っている。
威風堂々とした体躯に、豪奢な鎧とマントが、ローラウド皇帝の姿をさらに大きく見せていた。
ローラウド皇帝は挨拶をしてからずっと、まるで壇上に立つ舞台役者のように、独壇場を続けている。
「我が国が抵抗を続ける周辺諸国を平定する間、我が国を攻めず、どこにも組せずにいてくださったことに感謝を。ローラウドのような弱小国は、ヴァルディアに攻められればひとたまりもありませんからな。それに、他国と同盟を組まれて救援でもされたらと――ずっと恐れておりました」
「――他国の情勢を調べないわけがあるまい。我が国が内乱のために身動きが取れなくなっていたことを、ローラウド殿はよくご存じのはずだ」
ヴァルディア王が穏やかな口調で言う。
どうにも信用ならない人物だと思う。俺の隣にいる父上も同様に思っているのか、いつも厳しい表情を更に厳しくさせていた。
ヴァルディア王は感情を顔に出さない。にこやかなままだ。
頼りない印象の方だと感じたが、違うのかもしれない。
そもそも、ヴァルディアの内乱の原因は、早い話が跡目争いだった。
先代の王の弟君が王国南部の貴族たちをまとめて、玉座を簒奪しようとしたことがきっかけで起きた騒乱である。
俺にとっては過去の争いだが、ヴァルディア王にとってはそうではないだろう。
色々と、気苦労も多かっただろう。だが、その苦労を匂わせないのだから、俺の印象は間違いで、芯の強いかたなのかもしれない。
「あぁ、そうでしたね。ヴァルディアが内乱後の混乱の最中にあって、俺はとても助かりましたよ。そうでなければ、ヴァルディアに怯えてとても、周辺諸国を平定などできませんでした。俺は運がよかった。いい時期に、王位を継いだものです」
ローラウドの情報は、あまり入ってこない。
いつどのようにしてローラウド皇帝が──かつてはローラウド国と呼ばれていた国で王となったかまでは、情報がない。国交は、ほぼ皆無だったのだ。
ローラウド皇帝が周辺の小国を支配下に置き、ローラウド国はローラウド帝国と名を変えたのはつい最近のことである。
そして、クオンツもまたローラウド皇帝を名乗るようになった。
「それで、クオンツ殿。貴殿から、我が国と友好を結びたいとの申し出を受け、会合の場を設けたのだ。もてなしの準備をしている。食事でもしながら、ゆっくり話そうか」
「それには及びません」
ローラウド皇帝が軽く手を上げた。
すると──背後に控えているローラウド王の護衛兵たちが、一斉に弓を構えた。
弓──なのだろうか。見たことのない形状をしている。弓とは、弦をひくものだが、それがない。
水平に構えられた弓の鏃には鋭利に尖った石が組み込まれている。
その石は、青い光を帯電していた。
「──どういうつもりだ、クオンツ」
「弱小国だと侮り、謁見を許したのか、ヴァルディア王。とんだお人好しだ。我が国がどのような兵器を使って戦勝をあげてきたのかさえ、調べなかったのか」
「皆、ローラウド兵を討て! クオンツを捕らえよ!」
ヴァルディア王の下知が飛ぶ。
全く警戒していなかった訳ではもちろんないのだろう。すぐさま、ローラウド兵よりも数倍多い兵士たちがローラウド兵たちを取り囲んだ。
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