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ダンテ・ミランティス、苦悩する 2
しおりを挟む以前から度々、隣国に位置しているローラウド帝国は我が国に攻め入ろうと国境を侵すことを繰り返していた。
帝国は元々は小国だった。だが、野心家のローラウド皇帝が周辺諸国を侵略し支配する形で大きくなり、とうとう我が国にも攻め入ろうとしてきている状況である。
ローラウド帝国にとって我が国――ヴァルディア王国は目の上の瘤のようなもの。
ヴァルディアは周辺諸国の支配地域をすべてあわせたローラウド帝国よりも国土が広い。
ヴァルディアを落とさなければ、その先にある他の国にも手を伸ばせない。
それほど国土を欲してどうする――と、思うものだが。
ローラウド皇帝には子供が多いと聞く。徐々に、皇帝の血筋の者たちや、戦で武功をあげたもの、他貴族たちにも、領地として与えられる土地が足りなくなってきているのだろう。
それに今までが、うまくいきすぎていたのだ。
戦勝を重ねれば、次も次もと、戦を繰り返す。属国から搾取するという甘い汁を知ってしまえば、そこから抜け出すことは困難だろう。
俺は、国を守るべく体を鍛え、馬術や槍術や剣術の訓練を重ねてきた。
いつか大規模な戦が起こるだろうと想定してのことである。
それに、ローラウドには――遺恨もあった。
ミランティス公爵領は宝石や鉱物がよくとれて豊かだ。
資金の一部を軍事力に回し、いつでも戦に参戦できるように準備を整えてきた。
そして予想通りに、三年前――侵略戦争がはじまった。
国境には国王陛下も軍を率いてきており、各地の軍を有している有力貴族たちも集まっていた。
全ては、国を守るために。
俺の場合は――ディジーを守るため、だったのだが。
戦は三年続き、ローラウドが兵を引き上げさせたのが一年前である。
ようやく公爵領に戻ってくることができた俺は、気づけばもう二十歳を過ぎていた。
ディジーは十八になる。もっと早くに婚約を申し込みたかったが、そんな余裕はなかった。
もしかしたら既に別の男と婚約をしているかもしれない。
恋人がいるかもしれない。
そんな不安を抱きながら手紙を書いた。
だから、婚約が了承されたときは、奇跡だと思い、手紙を天に掲げて神に感謝の祈りを捧げたものである。
「あぁ。そうだ」
ロゼッタは普段はあまり多くを語らない。
だが、ディジーのことがとても気に入っているようで、珍しく色々と心配をしてくる。
エステランドからここに来るまでの間、ディジーと親しくなったのだろう。
正直、羨ましい。
「でしたら、婚礼の儀式までにディジー様とたくさんの時間を過ごしてください。いつまた、戦場に向かわれるのかわからないのですから、ディジー様に不安を与えるようなことはしないでください。ただでさえダンテ様はお顔が怖く、無愛想で、口もうまくないのですから」
「……そうだな。自覚はある」
はっきり指摘されると、胸に針が突き刺さるようだった。
威圧的な顔立ちも、体格も、戦場においては役に立つものだが、女性との恋愛にはまるで役に立たない。
気のきいたことを言えたらいいのだが、頭に浮かぶのは、ディジーが可愛いという単純な感想ぐらいだ。
その夜、俺はディジーの夢を見た。
エンドウ豆の鞘につつまれたディジーが「美味しく食べられたいです」と恥ずかしそうに言う夢を。
朝目覚めて、罪悪感で頭を抱えた。
我ながら――なんという妄想をしているのかと。
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