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 マナーを学ばせてください、旦那様 2

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 私はダンテ様をじっと見ながら、ダンテ様の真似をした。
 スープは、たぶんエンドウ豆のクリームスープだ。濃厚なエンドウ豆の味がする。美味しい。

「美味しいです。すごい。お野菜の味がはっきり感じられますね。こんなに美味しくお料理していただけて、エンドウ豆も幸せです」

「エンドウ豆が幸せなのか」

「はい。きっと幸せです。私がエンドウ豆だったら、美味しく食べて欲しいと思いますから」

 ダンテ様は何故か私から激しく視線を逸らすと、眉間に深く皺を寄せた。
 エンドウ豆の話はお嫌いだったのだろうか。

「このつぶつぶは何でしょう。お肉のつぶつぶ……」

「それはサメの卵だな」

「サメ……?」

「エステランドには海がなかったか」

「はい。川はありますが、海はありません。サメを食べるのですか? サメとは海の怪物のことですよね」

 私は見たことがないけれど、そんなものが海にいると噂に聞いたことがある。
 あとは、人間よりも大きな魚とか、足がぬるぬるしているイカとか、チクチクしている謎の物体であるウニとか。

「あぁ。ある種のサメは、ヒレと卵を食う」

「まぁ、すごい。食の神秘ですね」

 私はダンテ様の真似をしながら、お肉を小さく切って、黒いつぶつぶと一緒に食べた。

「そういえばダンテ様、エステランドから沢山、色々とご購入してくださっているようでありがとうございます。羊毛のついでに私を娶ってくださったこと、感謝いたします」

「ついで、ではない」

「違うのですか?」

「どちらかといえば、羊毛がついでだ」

「羊毛がついで……? ダンテ様! 怪物の卵、美味しいです……! しょっぱいのですね。海の怪物だからですね、きっと」

「……可愛い」

「海の怪物は実は可愛いのですか? 私、見たことがなくて」

「……違う」

 深々と溜息をつくダンテ様は、ふと私の手元を見て、それから私を見つめる。

「君は何故、俺と同じタイミングで、同じものを食べるんだ?」

「ダンテ様のマナーは完璧ですから、真似をして学んでいるのです。これからも、沢山教えてくださいね。私、妻としてダンテ様に迷惑をかけないように頑張りたいのです」

 誤解ではないと分かれば、私は婚約を受け入れたのだ。
 今更寂しいから家に帰りたいなんて、我が儘は言えない。
 自分が公爵様の奥方として相応しいとは思わない。だからせめて――学べるものは学んでいきたい。

「……っ、ディジー……」

「はい」

「……分からないことがあれば、俺に聞け」

「はい!」

 何故娶ってくださるのかは分からないけれど、ダンテ様は優しくてとても素敵な筋肉をお持ちになっている。
 できることなら夫婦として仲良くしていきたい。
 今まで寂しい生活をしてきたダンテ様が――笑ったことのないダンテ様が、一緒にいて安心できると思えるような家族になれたらいい。


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