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近くに座ってもいいですか、旦那様 2
しおりを挟む一人になった私は、ふかふかのソファに座った。
私が座るとすぐに傍に寄ってくるエメラダちゃんが恋しい。アルマも羊たちも、家族たちも。
すぐに帰れると思っていたから、あまり深く考えていなかった。
私はソファのクッションを引っ張ると、ぎゅっと抱きしめた。
ふわふわのクッションは、本の少しだけふかふかの羊たちに似ていて、僅かに安心した。
忙しい毎日を過ごしていた私にとって、ゆっくりするというのは結構難しい。
ロゼッタさんの用意してくれた紅茶を飲み終えると、座っているのも落ち着かなくなってきてしまった。
かといって人様の家のなかを勝手にうろうろするのも――と悩んでいると、ロゼッタさんが「夕食の準備ができました、ディジー様」と迎えに来てくれた。
家族や羊たちが恋しくても、お腹はすくものである。
むしろお腹がすいていたから、不安になってしまったのかもしれない。
そんなことを考えながら、ダイニングに案内して貰う。
ダイニングには長い長いテーブルが置かれていて、テーブルは燭台や花で飾られている。
料理よりも装飾品のほうが多いのではないかしらというぐらいに、豪華で美しかった。
「旦那様、ご一緒していただいてもいいのですか?」
「あ、あぁ。構わん」
ダンテ様が先に座っていて、私はその対面に。
長い長いテーブルの端と端に座るらしい。
すごく、遠い。
これではお話しができないし、とても寂しい。
食事というのは賑やかにするものだと考えていた私は、衝撃を受けた。
「あの、旦那様」
「なんだ?」
「私、こちらに座ってもいいでしょうか」
はす向かいの席があいている。というか、椅子はかなりあいている。
ダンテ様のすぐ傍の椅子に触れて尋ねると、ダンテ様はじろりと私を睨んだ。
貴族の方々の至近距離に座ってはいけないのだろうか。
でも確かに、神様と庶民が同席するのはいけないことだ。一定の距離とは大切なのかもしれない。
「ごめんなさい。あちらに行きますね」
「い、いや。構わん。ディジーがそうしたいのなら、その……す、好きにするがいい」
「ありがとうございます」
怒りに満ちた低い声だったけれど、許して貰えたみたいだ。
私はダンテ様のはす向かいに座る。
蝋燭の明かりに照らされたダンテ様も立派な姿だ。
蝋燭を見たり、花瓶を見たり、薔薇を見たり、銀の食器を見たりしていた。
見るものがなくなると、ダンテ様の横顔を見つめた。
檻の中の猛獣――というほど、怖くは見えない。
私が違うディジーだと気づいているのに、優しくしてくれるのだから。やっぱりいい人だと思う。
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