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ディジー、はじめましてのご挨拶をする 1
しおりを挟む公爵家までの一週間ほどの旅路はとても快適なものだった。
日中、馬車は街道をゆっくり進んでいく。私は馬車の窓から風景を眺めていた。
エステランドから出たのははじめてだが、街道から見る風景はエステランドとさほど変わらなかった。
草原が広がり、山脈が連なっている。川があり、丘があり、谷がある。
夕方には街にたどり着いて、馬を休ませて、私たちは宿で休んだ。
私のそばには常にロゼッタさんがついていてくれて、髪をとかしたり着替えを手伝ったりと、甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。
申し訳なさを感じながらも、私は大人しくしていた。
髪をとかしてもらうのは気持ちがいいし、結ってもらえるのは嬉しいものだ。
話し相手にもなってくれるし、ロゼッタさんが側にいてくれるのはとてもありがたかった。
「ロゼッタさんのお兄様が、ミランティス家の執事なのですね。ロゼッタさんはずっと、ミランティス家に?」
「はい。我が家は古くからミランティス家に仕える家なのですよ」
「それはとてもすごいですね! 私などは代々続く羊飼いの家で……もちろん、羊たちは可愛いですしエステランドの羊毛はふかふかで素晴らしいと考えてはいるのですが、公爵様の元に嫁げるような身分とはとても思えず」
「そんなことはありません! エステランドの羊毛は有名ですよ。特に冬場は、エステランドウールのコートなどは非常にあたたかく、人気があります。チーズも美味しいですし!」
馬車に揺られながら、ロゼッタさんが力説してくれる。
「ダンテ様は使用人一同に、エステランドウールで作ったコートをお仕着せとしてつくってくださいますし、エステランドチーズも毎年買い付けています。チーズとトマトとオリーブオイルのサラダ、最高に美味しいですよね」
生真面目そうなロゼッタさんが、やや興奮気味に話をしてくれる。
ロゼッタさんはどうやらお酒が好きらしい。「葡萄酒のおつまみに……い、いえなんでもありません」と、お酒の話をしかけて、慌てたように訂正した。
ダンテ様、そんなにエステランドの特産品を買ってくださっているなんて。
万が一にも本当にダンテ様のいうディジーが私であった場合、ダンテ様は羊毛好きか、チーズ好きという可能性がでてきた。
チーズと羊毛を買い付けるついでに、私も娶ってくださるつもりなのだろうか。
「ありがたいことです。私にとっては、ダンテ様とはお会いしたこともない雲の上にいるようなかたなのに」
「ディジー様、ダンテ様と知り合いではないのですか……? 不躾な質問、申し訳ありません」
「遠慮なさらず、なんでも聞いてください。知り合いではないと思います。父もお手紙をいただいたときはとても驚いていて」
「それは驚きますよね。ダンテ様の噂をディジー様はご存じですか?」
「うまれてから一度も笑ったことがないという噂ですか?」
「ダンテ様は……どちらかといえば寡黙で、どちらかといえば表情が乏しく、真面目な方です。けれどけして怖いかたではないので、ディジー様が驚かないでくださると、嬉しいのですけれど……もちろん、このロゼッタ。何があってもディジー様をお守りしますので」
「ありがとうございます、ロゼッタさん。お気持ち、とてもありがたいです」
守る――と言われたことなど、生まれてから一度もなかったように思う。
困ったことがあればロゼッタさんに頼っていいのだと思うと、とても心強い。
とはいえ、私はやっぱり勘違いされている違うディジーだと思うので、なんだか騙しているみたいで申し訳なかった。
旅路は順調で、公爵家にはあっという間に辿り着いた。
砦のようにぐるりと街が高い壁に囲まれている。これは昔、王国内で争いが耐えなかった時代の名残。
敵から街を守るための壁だ。
ミランティス公爵家は王の剣として名高い。王都に攻め込むにはミランティス公爵家を落とさなくてはいけない。
それ故に防御に特化した、城塞都市というのだという。
公爵家の館を中心に壁をつくりながら街が外に外に広がっていっている。
内側にもいくつかの壁があり、壁と壁の間に建物がひしめいている。
ひしめいている――といっても、その敷地はものすごく広い。エステランドの領地がすっぽり十ぐらいは入ってしまいそうなほどだ。
そんなヴィレワークの街の中心に、ミランティス公爵家はある。
公爵家の領地はヴィレワークの街だけではなく、もっと広大である。領地の中には五つの都市があるのだと、ロゼッタさんが教えてくれた。
城塞都市とは、白菜やキャベツに似ている。
街の中には街路樹ははえているし、川も流れているし、水車もある。
ヴィレワークの街の外には葡萄畑が広がっている。葡萄酒作りが盛んなのだろう。
もう少し南下すると、海もある。港町なので、立派な船が何艘もあるらしい。
ロゼッタさんは「きっと、ダンテ様が連れて行ってくださいますよ」と、にこにこしながら言っていた。
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