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幕間のはなし
しおりを挟む夜の海を、ヴィルヘルムとユイマールは並んで眺めている。
ユイマールはすらりとした体つきの女性の姿であり、ヴィルヘルムは竜の姿ではなく、ユイマールと話がしやすいように、創世の時代からついぞとったことのなかった人間体になっていた。
月明かりが黒い海に落ちている。
ほのかな明かりが、ヴィルヘルムの銀糸のような長い髪を照らしている。
銀の鎧に身を包んだ美しく雄々しい姿だ。額には、赤い紋様がある。
月明かりが照らす海に映る人間体の姿を、ヴィルヘルムは気に入っていた。
けれど、人間体に変化をする理由が今の所見つからないので、基本的には幼体の竜の姿でいるようにしている。
その方が、食事を食べたときに満腹感を感じやすい気がしているからである。
「ヴィルヘルムも気づいていたわよね。世界に危機が訪れて、それが回避されただろうこと」
「あぁ。そのようだな」
人間たちは、もう眠りについている。
きっと声は届かないだろう。
けれど、ユイマールは小さな声で囁くように言う。
「リコリスちゃんがキャンプと出会わなかったら。アリアネちゃんが手を回して、リコリスちゃんを東の荒地に流刑にしなかったら。この世界はどうなっていたかしら」
「リコリスが流刑ではなく処刑になっていた場合、ユリウスの持つ賢者の石の力と、アリアネの聖女の力が暴走し、この国は酷い有様になっていただろう。リコリスがキャンプに前向きではなかったら、俺はリコリスに興味を持たず、リコリスは魔物や獣の餌食になっていたかもしれない」
その場合も、ユリウスとアリアネは国を滅ぼしていただろう。
そう、ヴィルヘルムは心の中でつぶやいた。
けれど世界は、今も平和なままだ。
破滅の訪れは、感じられない。
聖女アリアネの心は幸福に満ちていて、ユリウスの魔力も暴走する気配さえない。
二人の神竜は、顔を見合わせる。
それから、これならしばらくは出番はなさそうだと、それぞれの乙女の顔を思い浮かべて、ふと笑みをこぼしたのだった。
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