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 家具職人ユリウス様 2

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 あくまで私はソロキャンプを楽しんでいるので、寝床は別でないといけない。
 食事は一緒でも、寝床は別。

 それがソロキャンプ。

 うん。なんだかだんだん定義が曖昧になってきた気がするわね。
 ユリウス様と一緒の場合は何というのかしら、ファミリーキャンプかしら。まだファミリーじゃないけど。

「リコリス、俺の分の卵の話はどうなった」

 ログハウスの話で盛り上がる私たちに、ヴィルヘルムが言う。

 じいっと私の分のオムレツを見つめ続けているので、どうせ私は全部は食べられないだろうから、半分分けてあげることにした。

 半分に切ったオムレツをヴィルヘルムのお皿に乗せてあげると、途端に機嫌を直したヴィルヘルムは、ばくばくとオムレツを食べ始める。

「そんなに美味しいのですか、ヴィルヘルム。作りがいがあって良いといえば良いのですけれど」

「お前たちも食ってみろ。俺の食った卵はいったい何だったのだと戸惑うほどに美味いぞ」

「それは親父殿が殻ごと生で食らったからでは……」

「御託は良いから、食うと良い」

 誰も御託を並べてはいないのだけれど、ヴィルヘルムは食事についてと神竜の乙女の件については結構うるさい。
 私とユリウス様は顔を見合わせると、それぞれ席についた。

 ユリウス様と私は向かい合わせで、ヴィルヘルムはユリウス様の隣である。

 カマドをどちらの席からでも見ることができる位置に、テーブルは設置されていた。

 久々に地べたではなくて椅子に座ると、健康で文化的な生活を取り戻したような気がする。
 私が今回目指している、おしゃれ女子力キャンプにすごい速さで近づきつつある。ユリウス様のおかげだ。

「リコリスの手料理か、……はじめての手料理だな。俺は今日この日、この瞬間を、死ぬまで忘れたりはしないだろう」

 ユリウス様が祈るように手を合わせながら、うっとりとした口調で言った。

 今すぐにでもポエムを読みそうな雰囲気だ。
 ポエムは後にして、とりあえず食事をして欲しい。

「ユリウス様、早く食べましょう。冷めてしまいます」

「あぁ、わかった。俺は幸せ者だ、リコリス。君の手料理を、美しい海と君の顔を見ながら食うことができるとは。ありがとう、リコリス。愛しているぞ」

「ええ、その、ありがとうございます。食べてください」

 学園に通っている時は、朝の挨拶ぐらいの頻度で囁かれていたユリウス様からの愛の言葉が、妙にくすぐったい。
 私はお皿の上のオムレツに視線を落とした。

 それから「いただきます」と挨拶をして、フォークですくって口の中に入れる。

 とろとろの黄金色のオムレツは、ナイフで切る必要がないほどに柔らかい。
 とろりとしている部分と、固まっている部分が半々ぐらいで、気を抜くとフォークから溢れそうになってしまう。

 オムレツの中には、鬼マタンゴのスライスが、ぽつぽつと顔を覗かせている。
 卵のまろやかな香りの中に、炙ったベーコンのような芳醇さが加わっている。

 一口口に入れる。
 口の中で卵がとろりと溶けていく。

 舌の上でとろける柔らかで優しい味わいは、いつも食べている鶏の卵に似ている。
 けれど、それよりもずっと味が濃い。

 舌に残らないほどに、噛まずに溶ける卵が、するりと喉の奥へと流れていく。
 一緒に鬼マタンゴを食べると、高級肉に卵を絡めたような味がする。

 鬼マタンゴの濃く深い味わいを、卵が優しく包んでいるようだ。

「美味いな、リコリス! 君が作ったからだろうか、王都で食っていた料理よりもずっと美味い」

「炒めて混ぜて焼いただけですけれど」

「やはり愛情という名のスパイスが、料理を一層美味しくさせるのだろうな。なんて旨い料理なんだ。リコリス、俺は幸せだ」

「それは良かったですね」

「ユリウス、手が止まっているぞ。食わないなら、俺が食ってやろうか」

 自分の分がまだ残っているのにユリウス様のオムレツをじっと見つめるヴィルヘルムから、ユリウス様は自分のお皿を庇うようにした。

「いくら親父殿といえど、リコリスの料理を渡すわけにはいきません」

「そうか。まぁ、卵はあと一個あるからな」

「今日はもうオムレツは作りませんよ」

 オムレツは作らないけれど、巨大目玉焼きは作ってみたい。
 果たして美味しいのかどうか、ちょっと謎だけれど。

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