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精霊竜ルヴィア
しおりを挟む美しく輝く白き竜。それは精霊竜ルヴィアと呼ばれている。
正確には、精霊竜。精霊竜には名前がない。
フラウリーナがルヴィアと契約を交わした時に、ルヴィアと名づけた。
白い美しい竜だから『ルヴィア』。
雪のように白く輝く者という意味である。
フラウリーナが精霊竜の元へ辿り着くことができたのは、レイノルドの元へ押しかる少し前のことだった。
ルヴィアとの付き合いは案外短い。
王国の南方にある最果ての孤島のクリスタル地底湖で静かに眠りについていた精霊竜を、フラウリーナが叩き起こしたのである。
『どこにいくのじゃ、主よ』
ルヴィアの声がフラウリーナの頭の中に響いた。
大きな竜の姿ではあるが、ルヴィアの声は案外幼い。
愛らしい少女の声をしている。
精霊竜は王国を作ったと言われている。
だが、ルヴィアは他に生命のない時代から精霊の皆さんとともに生きてきただけだった。
やがて精霊竜と精霊の皆さんの魔力が大地に満ちて、植物や動物や人がうまれた。
その意味では、ルヴィアにとって人とは全て自分の子供のようなものだと、フラウリーナはルヴィアから話を聞いた。
人と関わることを止めたのは、はるか昔ルヴィアの強大な力を巡り人々は争いを起こしたからだ。
それを厭うたルヴィアは、最果ての孤島で眠りについていたのである。
フラウリーナに叩き起こされるまでの数百年間、ずっと静かに暮らしていた。
再び人と交わることがあるとは考えていなかった。ルヴィアを目覚めさせるための門には封印が施されていたのだ。
全ての精霊たちと契約をしないと、ルヴィアの門は開かない。
まさか、全ての精霊たちを従えて自分の元に辿り着く人間がいるとは、ルヴィアは考えていなかった。
だからフラウリーナがあわられたとき、眠りから目覚めたルヴィアはそれはもう驚いていた。
『あれがお前の言っていた愛しい男か。ずいぶん貧相じゃの』
「人を見た目で判断してはいけませんわ。貧相ではありません、美しいです。レノ様は無精髭さえ輝いておりますわよ」
『悪趣味な女じゃ』
現生に呼び戻されたルヴィアは、いつもはその姿を隠している。
フラウリーナが呼び出した時だけ現れるようにしているのは、今だ古い時代の争いの記憶が抜けないからである。
竜の姿をしているが、その心は優しい――たとえていうなら、祖母のようなものだとフラウリーナは思っている。
ちなみに、おばあちゃんと呼んだら怒ったので、二度と呼ばないようにはしている。
「ヴィルル山脈に行くのですよ、ルヴィア。人助けです」
『お前は人助けが好きじゃな』
「私の命は、レノ様が引き延ばしてくださいました。本当は今ここにいなかったはずの私の命は、レノ様がくれたもの。レノ様のくれた命を、人々のために役立てる。それはレノ様の幸せにつながると考えています」
『あのような願いのために、妾を起こしたのじゃからな。お前は変わっている』
ルヴィアはそれ以上、フラウリーナに意見をしなかった。
空を駆けてしばらく、眼下にはヴィルル山脈が広がっている。
雪深い山である。山からは川が流れている。水源がせき止められているとしたら、川の上流のどこかだろう。
フラウリーナはルヴィアに降りるように命じた。
川は山脈の木々によって隠れてしまっている。空からの捜索は難しそうだった。
「さぁ、行きますわよ、私」
自分自身に声をかけて、気持ちを振るい立たせる。
鬱蒼と茂った木々の間、ごろごろと大きな石が転がる河原に降りたフラウリーナは、いつ魔物が出るかもわからない不気味さに竦みそうになる足を一歩前にすすめた。
お化けは恐い。それから、突然現れる魔物も怖い。びっくりするからだ。
精霊の皆さんがフラウリーナの頭や肩に乗って「ぷあ」「ぴうう」と言った。
多分、頑張れフラウリーナちゃんと言っているのだろう。
「頑張りますわね! 全ては愛のために!」
両手を握りしめて気合を入れる。スライムを退治するだけなので、きっとすぐに終わるだろう。
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