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地下の記録庫 2
しおりを挟む書架の奥へと進んでいく。分厚い本を手にして開く。
それは古い紙だった。今の紙よりも厚みがある。変色していて、紙の端もギザギザしている。
文字も、今のものとは違う。
これは、古代文字だ。授業で習ったので覚えがある。
「あの、お二人とも。ここに、五代目の王の話が……」
分厚い本を手にしてゼフィラス様たちに声をかける。お二人は書架から入り口のテーブルまで戻ってくる。
テーブルの上に本を置いて、頁を捲った。カンテラの灯りに照らされて、紙の上の文字が蟻の列のように浮かびあがる。
「……これは、神官家の記録ですね。五代目の王についての話が書いてあります。……このことは、門外不出である」
アルゼウス様が、頁を指先で辿った。
「知られてはいけないという意味だな。このまま読んでもいいのか?」
「五代目というと、今から六百年程度過去の王です。そのころの神官家の秘密など、今更秘する必要は感じません」
「わかった。リーシャもアルゼウスも古代語が読めるのだな。私はどうにも苦手でな。読んでくれるか?」
「はい。……これは。……申し訳ありませんが、僕の口からは。リーシャ様、頼んでもいいですか」
文章に目を通したアルゼウス様は、口元を押さえて俯いた。
何が書かれていたのだろうと私も本に視線を落とし、指で辿りながら文章を口にする。
「王妃に頼まれ、男児を殺めた。第二妃の男児が王位を継ぐのが許せないと、泣きつかれたからだ……」
私は、息を飲んだ。
これは、告発文だろうか。
時の神官長の書いたものだと、その文面からは知ることができる。
マルーテ様は――フィオーラ様の子供を、殺していた。
神官長に頼んで、殺したのだ。
そう、はっきりと書いていある。
悪夢が思い出されて、私は怯える心を押し殺した。
――病でもなく、呪いでもなく、やはり暗殺だったのか。
「マルーテ様が、あまりにも不憫だった。私はマルーテ様をお救いしたかった。だから、呪いを使い男児を殺めた。王妃の子が生まれると、第二妃が許せないと言って私に、殺めるように命令をした。私はそれに従った。隣国から嫁いできた姫は気位が高く、残酷だ。私は、娘の命を、人質に取られていたのだ」
フィオーラ様は、子供をマルーテ様と神官長に殺されたことに気づいていたのだろう。
だから神官長の娘を人質にした。
けれど、呪いとは一体何だろう。人が呪いの力を使えるというのだろうか。
アルゼウス様が、力無く首を振った。
罪の告白だ。アルゼウス様にとっては、遠い祖先の罪である。
聞くのは辛いことだろう。一度言葉を区切ると「続けてください」とアルゼウス様に言われた。
「私は繰り返し、王子を殺めた。呪いを、疫病だと偽った。そして私は気づいたのだ。このままでは国が亡ぶ。マルーテ様は心を病んでいる。フィオーラ様も同様だ。私は国を救わなくてはいけない。私は、王妃たちを呪った。最後の呪いだ。娘を王に嫁がせた。これでこの国は安泰だ。もう誰も、呪いのことを知る者はいない。鏡に触れてはならない。そこには呪いが、封印されている」
鏡に、触れてはならない。
そこには、呪いが――。
「……なんてことを。人を殺すなど」
アルゼウス様が押し殺した声で言った。
「アルゼウス。六百年以上前の罪だ。もう終わったことだ。だが……病ではなかったのか。呪いとは一体」
私は、本の文字を追いかける。
まだ続きがある。
「呪いを病と偽るために、王に進言した。病から身を守るため、王子の名前と性別を偽る必要があると。疫病から身を守るためにはそうするべきだと。私の罪には誰も気づかない。鏡には触れてはならない。誰も触れてはならない」
ぞわりとした悪寒が、背筋に走る。
嫌な気配を感じて振り向くと、雑然と置かれた宝物の奥に、大きな姿鏡があるのを見つける。
鏡は私たちの姿を映しているが、まるで鏡に見られているような気さえした。
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