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 残されていた大切なもの 2

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 私に本をくれたメルアは、肩からさげている鞄の中身をごそごそとあさった。
 
「鞄、シスターがくれたの。大切なものはいれて帰ってきなさいって。本とか、靴とかお洋服とかは、サーガさんが持ってきてくれるって言ってたから、入るものだけ」

「シスターに優しくしてもらっているのね」

「うん。あそこは、怖い場所だったけど、今はお姉さんと騎士様と、王子様のおかげで、皆優しくなったよ」

 ゼフィラス様は「よかった」と呟いた。
 騎士様も王子様もどちらもゼフィラス様なのだけれど、不思議な感じがする。

 鞄からは、飴の包み紙や、綺麗な小石がでてくる。どれも、孤児院でみつけたメルアの宝物らしい。
 それから、大き目の金属製の輪のようなものを、メルアは取り出した。

「騎士様には、これをあげる。これ、なんだかわからないんだけど、お父さんとお母さんが死んだ場所に、落ちてたんだって。親切な人が、孤児院に届けてくれたの。優しいシスターが、怖いシスターにみつからないように、隠していなさいって言って、ずっと、隠していて」

「……これは」

 ゼフィラス様は金属製の輪を手にすると、仮面をしている顔の前に掲げて観察をした。
 不思議な形をしている。どこかで見たことがあるような気もする。
 ――どこだったかしら。

「ありがとう、メルア。貰っていいのか」

「うん。私には、ミミちゃんがいるもの。それに、本棚の本も、無事だったから。それは、いらない。みたことがないものだし……何に使うかわからないけど、高価そうだから、騎士様にあげる」

 ゼフィラス様はそれ以上その金属については触れずに「ありがとう」と言って、ローブの内側にそれをしまった。
 もう少し見たい気がしたけれど、今はやめておこう。

 見たことがない形なのに、見覚えがある気がするのは何故だろう。
 その金属は、何かをかたどっている気がする。金属の輪の中にあるのは――何かの、紋章のように見えた。

「今日は、一緒に来てくれてありがとうございました。大切なもの、残っていてよかった。ありがとう、お姉さん、騎士様!」

 メルアは礼儀正しくお礼をしてくれた。
 私は遠慮がちにメルアの前に膝をついて、その体を抱きしめる。

「……あなたにとって孤児院が、優しい場所になってよかった」

「うん。もう逃げたりしないよ。ありがとう、お姉さん」

「孤児院まで送ろう。メルア、大切なものが戻ってきて、よかったな」

「ありがとう、騎士様。騎士様もお姉さんと結婚できるといいね」

「あ、あぁ……そうだな。頑張る」

「うん、頑張ってね」

 メルアの中では、ゼフィラス様が私に片思いをしていることになっているみたいだ。
 私はメルアの体をそっと離すと、秘密を打ち明けるようにその耳元で囁いた。

「私も、騎士様のことが好きなのよ、メルア」

「ふふ……そうなの? よかった。騎士様、聞こえた?」

「あぁ。聞こえた。……嬉しい」

「よかったね、騎士様。お姉さんも。好きな人が好きになってくれる確率は、流れ星をみつけるよりも少ないんだって。お父さんが言ってた。だから、お母さんと結婚できたのは、奇跡みたいにすごいことなんだって」

 メルアは、まるで自分のことのようによろこんでくれる。
 流れ星をみつけるよりも少ない、奇跡。

 ゼフィラス様と出会えたことは――私にとって、本当に奇跡なのかもしれない。

 私も、頑張らないと。
 過去のことは忘れて、ゼフィラス様とのことをきちんと考えて、前を向いていかなくては。

 メルアを孤児院に送り届けると、もう夕方になっていた。
 
「リーシャ、君に話がある」

 アールグレイス家の方向とは別の方向に歩きながら、ゼフィラス様が低い声で言った。


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