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アールグレイス家での挨拶 2
しおりを挟むベッドなどは、お兄様が手配したもの。インテリアは少ない。机の上には針箱。下手の横好きで、私は刺繍が嫌いじゃない。
あんまり上手くない自覚があるから、滅多に人にはあげないのだけれど。
「リーシャらしい部屋だな」
「あまり、女らしくなくて……」
「そんなことはない。十分、女性らしいよ。だがリーシャ、女性らしいかどうかなど、気にしなくてもいい。そのままのリーシャが、私は好きだ」
「はい……ありがとうございます、ゼフィラス様」
「おやすみ。よい夢を」
私の手の甲に唇をつけて、ゼフィラス様は挨拶をした。
扉を閉じたら、もうさようならだ。
一抹の寂しさを感じる。お別れをしてしまったら、この数日の出来事が全て、夢の中のことで、目覚めると何もかもが消えてしまうような不安が胸をよぎった。
「ゼフィラス様、あの……また、お会いできますか?」
「もちろんだ。……君も私に会いたいと思ってくれていると、期待しても?」
「は、はい。……お会いしたいです」
「リーシャ、昨日も今日も、夢のように楽しかった。だが、夢ではないのだな。私の、愛しい婚約者。これからも私は、君にもっと好かれるように努力しよう」
照れてしまって何も言葉を返せない私にゼフィラス様はもう一度おやすみを言って、それから私の頬を軽く撫でる。
私はそういえばと思い立って、顔をあげた。
サーガさんと話していたときから気になっていったことを、まだ言い出せていない。
「ゼフィラス様、もし、メルアのご両親の件を調べるのなら、私も一緒に。私も、メルアを騙した人たちや、ご両親を傷つけた誰かに、許せない気持ちを抱いています」
「……実は、明日調べようと思っていた。だが君は、大変な思いをしたばかりだ。だからしばらくはゆっくり」
「もう元気です。それに、海に落ちたのはゼフィラス様も同じです。だから」
「わかった。では、一緒に」
「はい。ありがとうございます、我が儘を言ってしまってごめんなさい」
「我が儘ではないよ。……リーシャ、ありがとう。君がいてくれたら、心強い」
ゼフィラス様は明日また迎えにくると言って、お兄様の元へと戻っていった。
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