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エニード、再びの強制休暇
しおりを挟むクラウスと別れたエニードは、せっかく軍服を着ているのだからと騎士団本部に向った。
休暇も本日二日目である。
たとえばクラウスとの婚礼のような用事があっての休暇ならいいが、ただ休むというのは落ち着かないものだ。
部下たちは元気か顔を見に行こう――と、思ったのは、少し浮かれていたこともある。
クラウスの目が節穴なのは仕方ないとして、彼はエニードのために道ならぬ恋を諦めた。
セツカにきちんと想いをつたえて、そして諦めるとは、なかなかよい心がけだ。
ただの公爵閣下にしておくのは惜しい。きっとよい騎士になるだろう。
騎士というのは誠実であるべきなのだ。
ジェルストも恋人がよく変わるが、一人一人きちんと別れ話をしてから新しい恋人を作るので、あれはあれで誠実なのである。
「ジェルスト。皆は元気か?」
エニードはにこにこしながら、しかし他者からみると無表情で、ひょっこりと騎士団本部に顔をだした。
騎士団本部は城の敷地内にある。シルヴィアを送っていくついでに寄りやすい場所だ。
「せ、セツカ様……っ」
「せ、せせ、セツカ様……!」
「そんなに、せを連呼せずとも、聞こえている」
顔を出した途端に部下たちがわらわらとやってきて、「せ」を連呼し出すので、エニードは眉を寄せた。
「団長、そんなに怖い顔をしないでください。閣下と喧嘩をしたからといって」
「喧嘩?」
「はい。さきほど、城の前の大橋で、団長と閣下がただならぬ雰囲気だと聞いて、皆で覗きに行ったのですが」
「仕事をしろ」
ジェルストが話す内容に、エニードは更に眉を寄せた。
仕事中に持ち場を離れるとは、私が一日いないだけでたるんでいるのではないか。
そもそも、遮蔽物のない大橋のどこから、隠れてこっそり見ていたというのか。
「我らの団長になにかあってはと心配で。団長が乙女の顔をして閣下と愛を育んでいるところを見たくもあり」
「お前は何を言っている。私はいつだって乙女の顔をしている」
「団長の自己評価の高さ、羨ましいです」
「自分で自分を信じずにして、誰が私を信じるというのだ」
自分を信じるのは騎士道の基本である。
呆れた顔でエニードはやれやれと嘆息した。他者から見れば無表情――以下同文である。
「まぁ、そんなわけで見に行ったところ、閣下となにやら喧嘩をしている。別れ話にまで発展しているではありませんか」
「聞いたのか?」
「いえ。シルヴィア様に何があったか教えていただきました。我らの場所からは会話までは……クラウス様が顔を真っ赤にして怒りの形相を浮かべているのはわかりましたが」
あれは、照れていたのだ。
遠目で見ると、怒りの形相に見えたのだろうか。
しかし、セツカを見て照れていたなどは言えない。クラウスのせっかくの覚悟に泥を塗りたくない。
「何をしたんですか、団長。まさか、閣下の物理攻撃力をあげようと訓練して、ぼこぼこにしたとか」
「私は騎士でもない一般人とは訓練しない」
「騎士でもない悪人を訓練して血反吐を吐かせていたではないですか」
「悪人は別だ。悪人だからな」
またも妙な勘違いをされているが、エニードは沈黙を選んだ。クラウスの名誉のために。
「ともかく、騎士団に顔を出してる場合じゃありませんよ」
「そうですよ、セツカ様」
「その通りです、団長」
「来週まで休んでいいので、閣下と仲直りしてきてください」
「いや、私は」
喧嘩はしていないのだ。
だが、エニードは親切な部下たちによって、騎士団本部を追い出されてしまった。
すっかり手持ち無沙汰になってしまった、三日目の休暇の朝。
週末には公爵家に戻るとクラウスと約束をしているので、手土産でも買うかと家を出た。
ラーナには、エニード様は無趣味すぎると嘆かれてしまった。
そんなこともないのだが、エニードの趣味は山籠りと鍛錬なので、ドレスではできないのだ。
エニードは、本日もドレスである。
一生分のドレスを着たのでは、というぐらい、ここ数日はドレスを着ている。
カゴにはアルムを入れている。
散歩が好きなアルムは、尻尾を振ってお出かけを喜んでいた。
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