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第14章 転生者達

第99話 暗躍する邪教

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 第99話 暗躍する邪教
 
 冒険者ギルドマスターのオットーさんは、僕達を気遣ってか、話題を変えた。
 先ほどとは違い仲間の思い出話をする老人の顔からギルドマスターの顔に変わっていた。
 多分これがオットーさんの本当の姿なのだろう。
 僕はその顔色に思わず背筋が伸びる。
 やはりこの人は油断がならない。
 
 「でだ。ユキナとミレーヌに相談があるんじゃ」
 
 「何でしょう?」
 
 僕とミレーヌは声を揃えて聞いた。
 多分ろくでもない話に違いない。
 
 「お主らこのアルスラン帝国がシリカ国と戦争になるという事は知っておるな?」
 
 「察してはいます」

 街中で出会う兵士がやけ酒を飲むぴりぴりとした雰囲気。
 さっきの商店主が異常に好戦的だったのも売り物の食品の高騰が理由の一つだろう。
 宿の主人が漏らしたビールの貯蔵施設まで軍に押さえられて食糧庫にされた事。
 アルスラン帝国の銀貨が質を落してまで発行量を増やしたのも軍費にあてる為だろう。
 
 「この戦争はのう。アルスラン帝国が負ける」
 
 オットーさんがそういうと僕はその原因を考えてみる。
 兵力はアルスラン帝国が圧倒的に多いけど、多分兵站がもたないのだろう。
 兵站とはわかりやすく言えば食料や武器などの物資から補充の兵士までを含む、戦争を続けるための準備という事だ。
 これには経済力が大きく関わってくる。
 
 アルスラン帝国が発行しているイリヤル銀貨は含まれる銀の量が少ない。
 戦争の為にさらに銀の量を減らして枚数を増やせば一時的には効果的だけど、価値の下がった銀貨はみんなが嫌がる。
 アルスラン帝国はさらに銀の量を減らすかもしれないという不安感もあるだろう。
 逆にシリカ国が発行するクラン銀貨は銀の量が多く、大きな声では言えないが主要な取引はクラン銀貨のほうが信用がある。
 食料や武器などはクラン銀貨で取引されていると思う。
 
 「つまりイリヤル銀貨を使うアルスラン帝国は、クラン銀貨をつかうシリカ国に経済面で劣るという事ですか?」
 
 「正解じゃ。ミレーヌよかったのう。お主の恋人は経済感覚が優れておるようじゃ」
 
 オットーさんがそう言うとミレーヌはとても嬉しそうに笑う。
 恋人の僕が褒められたのが素直に嬉しいようだ。
 ミレーヌが僕の腕にすり寄ると、ミレーヌの大きな胸が僕の腕にあたる。
 夢で見たミレーヌのお母さんの勇者マリータさんの胸に大きさは及ばないけど、ミレーヌの胸は十分大きいし形が良いことを僕はよく知っている。
 
 「当たり前だよ♪ボクのユキナは頭がいいんだから」
 
 「若い者は羨ましいのう。戦争は金塊の殴り合いじゃからな」

 第二次世界大戦で戦ったアメリカは2024年価格の日本円で2億円するM4シャーマンという戦車を34780両、それより劣る1億5千万円の戦車を12000両作れた。
 対して日本は1億円の戦車を4500両しか用意できなかった。
 これに空母やトラックや戦闘機を加えると更に差は広がる。
 つまり経済面でも勝負にならなかったのだ。
 
 「経済面もじゃがアルスラン帝国がシリカ国を攻めるには北の草原か南の森しかない。これがどれだけ困難かわかるじゃろう」
 
 「そうですね。僕なら草原にいる遊牧民にお金を渡してアルスラン帝国の補給部隊を襲って貰います。森を通るなら細く伸び切ったアルスラン帝国軍をゲリラ戦で迎え撃ちますね」
 
 「そういう事じゃ。守りに入り経済力で勝るシリカ国はクラン銀貨を上手く使えばアルスラン帝国の補給をつぶせる。補給が出来なくては大軍も意味がない」
 
 最初はアルスラン帝国が優位に戦争を進めているように見えるけど、最後は負けるとオットーさんと僕の意見は一致した。
 やっぱりオットーさんは兵士だったから補給の大切さをよくわかっている。
 でもアルスラン帝国にだってプロの軍人も経済に明るい官僚や大臣もいると思う。
 僕でも負けるとわかる戦争をどうしてするのだろうか?
 
 「少し考えれば負ける戦争をどうしてアルスラン帝国は行うのですか?」
 
 「このままではアルスラン帝国のイリヤル銀貨はシリカ国のクラン銀貨に乗っ取られる。つまり経済力で支配されるという事と、かつての世界帝国の威信を取り戻したいというのが表向きの理由じゃ。じゃが本当の理由は別にある」
 
 「というと?」
 
 僕がそう聞くとオットーさんは紅茶を一口飲む。
 僕もミレーヌもオットーさんが口を開くまで待つことにした。
 こういう時の老人は話をする前に頭の中で思考をまとめている時だ。
 コチコチと時計の針が動く音だけが部屋に響く。
 しばらくしてオットーさんが口を開いた。
 
 「新しい皇帝が意見する部下を容赦なく殺しているのじゃ。だが皇帝が狂っているのは別の者が皇帝を操っているからじゃ」
 
 「別の者って誰ですか」
 
 「宗教じゃよ。皇帝はマナジ教という魔王崇拝の宗教に操られておる。マナジ教はフォーチュリア最大の国家アルスラン帝国を壊滅させて魔王が世界征服しやすくする為に暗躍しておる」
  
 初めて聞く宗教だった。
 そんな宗教がアルスラン帝国に暗躍していたなんて。
 でも僕の頭に疑問が浮かぶ。
 
 「でもそんな事が簡単に出来るのですか?」

 前世でもキリスト教は最高権力者だったローマ皇帝を宗教的に操って暗躍した。
 アルスラン帝国をマナジ教が蝕む事は不可能じゃないと思う。
 
 「実は今の皇帝は実の父親と後継者だった兄を暗殺して皇帝になったのじゃ。その暗殺にマナジ教が関係しておると儂は考えておる。だが証拠はない。そこでお主たちにマナジ教の事を調べてもらいたい」
 
 「随分変わった依頼ですね。冒険者の仕事というより兵士や官僚の仕事ではないでしょうか?」

 「さっきも言ったが新しい皇帝は反対者を殺しておる。誰も止められないのじゃ。このままではアルスラン帝国は勝ち目のない戦争を始めてしまう。そうなる前に止めなければ沢山の人が死ぬ。勇者として見過ごせんじゃろう?」
 
 そう言ってオットーさんはミレーヌを見つめた。
 ミレーヌは僕とオットーさんを交互に見た後頷く。
 
 「ボク難しい事はわからないけど、戦争を止められるなら何でもするよ」
 
 「うむ。ミレーヌならそう言うと思っとった。ユキナは?」
 
 「僕も同じ気持ちです」
 
 僕がそういうとオットーさんは深く頭を下げる。
 
 「ありがとうユキナ、ミレーヌ。儂らが魔王を倒せなかったから二人には迷惑をかけてすまんな。報酬は弾むぞ」

 それから僕とミレーヌはマナジ教の事を調べる事になる。
 シグレさん達にどう説明しようか迷ったけど、僕とミレーヌの気持ちは変わらなかった。
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