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第13章 アルスラン帝国

第92話 恩人との再会

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 第92話 恩人との再会
 
 内陸に位置する首都アストラハンの朝は寒い。
 路上生活者が時々凍死しては死体処理場で処分されるのが日常だった。
 彼らも職と暖かな家を求めてやってきたのにああいう末路を辿る。
 社会保障なんて言葉はこの世界にはほとんどない。
 実家があるのに冒険者なんていうリスクの高い職にすすんで入る僕とミレーヌは愚か者だと笑われるだろう。
 そんな事を考えていると僕たちはアストラハンにある冒険者ギルド。
 『黄金の獅子亭』に到着した。
 
 黄金の獅子亭の外見は荘厳とは無縁の建物で小さな砦のようだ。
 壁は高く燃えにくいレンガ造りの建物で6階建て。
 8角形の建物で空から見ればバッジのように見える。
 8角形なのはアルスラン帝国では天国を模した意味だそうだ。
 冒険者ギルドが天国を意味するなんて洒落なのかヤケなのか僕には判断が付きかねた。
 
 フレーベル国にあった『斜陽の都亭』とは大きさも規模も二回りは違う。
 受付嬢のマリアさんは元気でいるだろうか。
 中身はカウンター兼酒場になっているのが共通点で依頼の張り出しもしている。
 まずは受付で冒険者章を見せよう。
 
 「ヒヒヒ、いらっしゃい」
 
 「あ、すみません来るところを間違えました」
 
 思わず回れ右をしたくなったのは受付にいるのが受付嬢ではなく白髪の爺様だった事。
 身なりは整っているがどうみても麻薬中毒者にしか見えない外見。
 目は落ちくぼんでおり皺は深く顔色も悪い。
 おかしいな、僕の知っている受付とは随分ちがう。
 
 「もう、ギルドマスター。またお客さんをからかって遊んでるんですか?」
 
 そういって現れたのは長い金髪と切れ長の目をした耳が尖っている美女だ。
 エルフの女性だった。
 
 「はじめまして、受付のエレナよ」
 
 そう言ってギルドマスターの老人を押しのけて受付の椅子に座るエレナさん。
 エルフの女性は細めが多いのは肉を食べていないからだとクヌートが言っていた通り細めの体型だった。
 僕はミレーヌみたいに胸もお尻も大きい健康的な体型の女性が好み。
 エレナさんは胸もお尻も小さいので細い人が好きな人はドストライクだと思う。
 
 エレナさんはエルフらしくハーフエルフのクヌートとフェリシアを見て驚いて口元を両手で押さえて涙ぐむ。
 エルフはハーフエルフを嫌っているので驚いたのだろうと思っていたが少し違う反応だった。
 慌ててクヌートとフェリシアを見ると二人とも驚いていた。
 
 「クヌート…フェリシア」
 
 「エレナ姉さん」

 え?え?この人と二人は知り合いなの?
 そう思っていたらエレナさんが魔法障壁で守られていた受付カウンターに足をのせてカウンターを飛び越えると、クヌートとフェリシアに抱き着いた。
 
 「クヌート!!フェリシア!!探したのよ」
 
 「エレナ姉さん!!」
 
 「エレナ姉さま!!」
 
 そのまま抱きしめあいながら喜びの涙をながすエレナさんとクヌートとフェリシア。
 3人はそのまましばらく抱きしめあい涙を流していた。
 
 ◆◆◆
 
 しばらくして泣き止んだエレナさん達を伴って僕たちはギルド内にある喫茶店で談笑をしていた。
 
 「エレナさんはクヌートとフェリシアの叔母さんになるんだね」

 「ええ。私の姉がこの子たちの母親になるんです」
 
 エレナさんのお姉さんが人間の男性との間に生まれたのがクヌートとフェリシアらしい。
 二人は実の母も含めて他のエルフ全員に疎まれていたが、エレナさんだけは優しくしてくれたらしい。
 動物の肉を食べなくては生きられないクヌートとフェリシアの為に率先して森の動物の狩りをしてくれたのがエレナさんだ。
 二人が自立できる年齢まで森で育つ事ができたのはエレナさんのお陰らしい。
 
 「エレナ姉さまがいなかったら私たちは生きてはいませんでした」
 
 そう言ってエレナさんの隣に座って手を握り合いながらエレナさんに笑顔で甘えるフェリシア。
 いつも陰がある表情のフェリシアがこんなに懐くなんて余程の事だと思う。
 おかげでロッテは寂しそうにしていた。
 いつもフェリシアの隣にいたのはロッテだったからだ。
 そのロッテはシグレさんとセシルさんに挟まれて頭を撫でられている。

 「二人とも苦労したのね。ごめんなさい。私がもっと強く言えばよかったわ」
 
 「いいえエレナ姉さん。あれ以上俺たちを庇ったらエレナ姉さんまで森を追い出されていたよ。あれでよかったんだ」
 
 そう言ってエレナさんを慰めるクヌートだ。
 クヌートがこんなに相手を思いやるなんて初めて見る。
 よほどエレナさんの事が好きらしい。
 
 「エレナ姉さん。俺たちも冒険者として働けるようになったんだ。だから心配しないで」
 
 クヌートがそう言うとエレナさんは悲しそうな顔をしたけど、すぐに笑顔になった。
 
 「わかったわクヌート。でも無理はしちゃダメよ。皆さんクヌートとフェリシアの事をよろしくお願いします」
 
 そう言ってエレナさんが目を伏せて僕たちにお願いする。
 誇り高いエルフが人間に目を伏せてお願いするなんて聞いたことがない。
 エレナさんは余程クヌートとフェリシアの事を大切に思っているのだろう。
 そのあと一時間くらいクヌートとフェリシアの事を僕たちに語ってくれた。

 エレナさんがクヌートとフェリシアを実の子供のように思っている事。
 森での生活がいかに大変だったか。
 そして森のエルフ全員が人間に対して憎悪を持っている事。
 恵まれた子供時代を過ごした僕には想像できないけど、周りのみんなが自分に憎悪を抱いているなんて想像がつかない。
 初対面のクヌートが拝金主義だったのもフェリシアを守るため。
 お金以外頼れるものが無かった二人の過去に僕は心の中で涙を流した。
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