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第12章 フミンの少女
第82話 下船
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第82話 下船
それから10日くらい航海したあと、僕たちの乗ったサン・セント号は目的地のアルスラン帝国ファジア港に到着した。
アルスラン帝国は巨大な大陸の半分を支配する帝国で香辛料や宝石の産地として有名だ。
遠く東方のシリカ国と更に東の大国ショウ帝国とも陸路で繋がっている。
ショウ帝国の工芸品や絹、南方の香料や香辛料が輸出される港でいつもなら商船でにぎわっている筈だった。
今は海の怪物や海賊が増えて航行する商船が減ったのでいつもの半数以下らしい。
その影響で港の倉庫には輸出用に集まった東方や南方の品が沢山集められ、値崩れをしそうなほどだった。
到着と同時に僕とミレーヌとシグレさんとセシルさん。
フェリシアとクヌートが船長室に集められた。
船長のジョルジュさんが僕たちに船から降りるように言ってきたのだ。
「あんた達とミレーヌお嬢ちゃんが伝説の勇者で魔王を倒す為に戦っている事はよくわかった。だがあんな化け物に付け狙われたら俺たちも船も無事にフレーベルへ戻れるかわからない。俺には積み荷とこの船を守る責任があるんだ。勿論冒険者ギルドにはあんたらが任務放棄したんじゃないと俺から報告を入れておくし、片道分とはいえ正当な報酬を払うよ」
ジョルジュ船長のいう事は一見正しいけど、僕にはその考えは甘いように見えた。
僕たちがいたから船は無事に目的地に着いたが帰りも無事だと言えないと思う。
この船に僕もミレーヌも、もう乗っていないという事を魔王軍が知っていると思うのは都合が良いのではないだろうか。
「でも僕たちがもうこの船に乗っていないと魔王軍が知っているとは限りません。その場合海の魔物は総力を上げてこの船を襲うでしょう。その時にこの船が無事だという保証はありません。それに僕は犠牲者を出さない為にこの船に乗り込んだんです。途中で投げ出すわけにはいきません」
僕はなおも食い下がる。
だけどジョルジュ船長の決意は固いようだ。
無理もない。
あんな危険な目にあい船と積み荷ごと自分たちが海の藻屑になる所だったんだ。
今更ながらにそれが怖くなったんだろう。
だから僕たちを厄介払いしようとしているのだ。
「それに僕もミレーヌも船を降りる気はありません」
そこまで言うとジョルジュ船長は苦渋の表情をうかべる。
そしてしばらく考え込んだ後、また口を開く。
「船の上では船長の命令は絶対だ。悪いが降りてくれ。あんた達がこの船に乗るって事はとても危険な事だ。この船はこれから海賊に襲われる事が多くなるし、いやもっと危険な目にあうかもしれない。俺はこんな所で世界の希望の勇者を失いたくないんだよ」
ジョルジュ船長は自分が悪者になってでも人間たちの希望の光である勇者ミレーヌを船ごと沈めたくはない。
たとえ自分たちが船ごと沈んだとしても勇者を道ずれには出来ないと言っている。
その真意に気が付いた僕はジョルジュ船長に深々と頭を下げた。
そう言ってジョルジュ船長は港の倉庫へと向かった。
荷下ろし人が金塊を持ち逃げしないように監視しないといけないし、香辛料の中身をすりかえられていないか確認しないといけない。
船長の仕事にはそういう事も含まれている。
僕たちは船長室の椅子に座って今後の相談をする事になった。
「ボク、迷惑なのかな」
「そんな事はないよ。船長はミレーヌを危険に晒したくないからああ言ったんだ」
ミレーヌの瞳に涙が浮かぶ。
僕は悲しそうに俯くミレーヌの手を優しく握りしめた。
僕とミレーヌを見詰めたセシルさんが手を頭の後ろに組み、椅子を傾けながらつぶやく。
「ま、ようするにだ。あたい達の役目は終わったって事さ。いいんじゃない?あたいも暇な船の生活に飽き飽きしてたしさ」
セシルさんを咎めようとしたシグレさんも口を開きかけたが黙り込む。
船長が決定したのなら従う。
シグレさんの瞳を見ればわかる。
だけど口を開けばジョルジュ船長への不平不満が出てしまう。
だから口を閉じたのだろう。
生真面目なシグレさんらしいと僕は思った。
「まったく人間というのは勝手なものだ。助けろと言ったりもういらないと言ったり。まったく理解に苦しむ」
クヌートは怒りを通り越して呆れているようだ。
それはそうだと僕も思う。
「だがフェリシアを危険に晒すことが無いなら俺に異論はない。奴らが帰路に生きようが死のうが俺の知った事か」
常に妹の身を案じるクヌートらしい言葉だ。
クヌートはエルフと人間の間に生まれたハーフエルフで、いつも冷静な印象があるエルフと違って怒りっぽい。
ハーフエルフは怒りやすいのだろうか?
などと口を滑らそうものなら決闘を申し込まれるのは確実なので黙っておいた。
「クヌート兄さま。私の事なら大丈夫です。ですからそんなにお怒りなさらないでください」
フェリシアがクヌートをなだめるように言うとクヌートは怒った表情のまま黙り込んだ。
そんなクヌートを困った顔をしたフェリシアが見ているとシグレさんが口を開く。
「下船しろというなら従うしかないだろう。各自荷物をまとめておくとしようか」
そう言ってシグレさんが椅子から立ち上がる。
僕たちも船長室を出て船室に戻り荷物をまとめる。
荷物と言っても冒険者は旅人なので必要最小限のものしかない。
シグレさんが選んでくれたリュックに床に敷き被る毛皮。
食事キットの中にはナイフとスプーンと飯盒と水筒がある。
野外活動用のナイフは薪を割ったり草を掃ったり地面に穴を掘るのにも使える。
医薬品は乾燥した薬草で消毒薬や解熱剤などのセット。
トイレ用品。自然に戻るトイレットペーパー。
替えのシャツとパンツとかも3枚しかない。
それから10日くらい航海したあと、僕たちの乗ったサン・セント号は目的地のアルスラン帝国ファジア港に到着した。
アルスラン帝国は巨大な大陸の半分を支配する帝国で香辛料や宝石の産地として有名だ。
遠く東方のシリカ国と更に東の大国ショウ帝国とも陸路で繋がっている。
ショウ帝国の工芸品や絹、南方の香料や香辛料が輸出される港でいつもなら商船でにぎわっている筈だった。
今は海の怪物や海賊が増えて航行する商船が減ったのでいつもの半数以下らしい。
その影響で港の倉庫には輸出用に集まった東方や南方の品が沢山集められ、値崩れをしそうなほどだった。
到着と同時に僕とミレーヌとシグレさんとセシルさん。
フェリシアとクヌートが船長室に集められた。
船長のジョルジュさんが僕たちに船から降りるように言ってきたのだ。
「あんた達とミレーヌお嬢ちゃんが伝説の勇者で魔王を倒す為に戦っている事はよくわかった。だがあんな化け物に付け狙われたら俺たちも船も無事にフレーベルへ戻れるかわからない。俺には積み荷とこの船を守る責任があるんだ。勿論冒険者ギルドにはあんたらが任務放棄したんじゃないと俺から報告を入れておくし、片道分とはいえ正当な報酬を払うよ」
ジョルジュ船長のいう事は一見正しいけど、僕にはその考えは甘いように見えた。
僕たちがいたから船は無事に目的地に着いたが帰りも無事だと言えないと思う。
この船に僕もミレーヌも、もう乗っていないという事を魔王軍が知っていると思うのは都合が良いのではないだろうか。
「でも僕たちがもうこの船に乗っていないと魔王軍が知っているとは限りません。その場合海の魔物は総力を上げてこの船を襲うでしょう。その時にこの船が無事だという保証はありません。それに僕は犠牲者を出さない為にこの船に乗り込んだんです。途中で投げ出すわけにはいきません」
僕はなおも食い下がる。
だけどジョルジュ船長の決意は固いようだ。
無理もない。
あんな危険な目にあい船と積み荷ごと自分たちが海の藻屑になる所だったんだ。
今更ながらにそれが怖くなったんだろう。
だから僕たちを厄介払いしようとしているのだ。
「それに僕もミレーヌも船を降りる気はありません」
そこまで言うとジョルジュ船長は苦渋の表情をうかべる。
そしてしばらく考え込んだ後、また口を開く。
「船の上では船長の命令は絶対だ。悪いが降りてくれ。あんた達がこの船に乗るって事はとても危険な事だ。この船はこれから海賊に襲われる事が多くなるし、いやもっと危険な目にあうかもしれない。俺はこんな所で世界の希望の勇者を失いたくないんだよ」
ジョルジュ船長は自分が悪者になってでも人間たちの希望の光である勇者ミレーヌを船ごと沈めたくはない。
たとえ自分たちが船ごと沈んだとしても勇者を道ずれには出来ないと言っている。
その真意に気が付いた僕はジョルジュ船長に深々と頭を下げた。
そう言ってジョルジュ船長は港の倉庫へと向かった。
荷下ろし人が金塊を持ち逃げしないように監視しないといけないし、香辛料の中身をすりかえられていないか確認しないといけない。
船長の仕事にはそういう事も含まれている。
僕たちは船長室の椅子に座って今後の相談をする事になった。
「ボク、迷惑なのかな」
「そんな事はないよ。船長はミレーヌを危険に晒したくないからああ言ったんだ」
ミレーヌの瞳に涙が浮かぶ。
僕は悲しそうに俯くミレーヌの手を優しく握りしめた。
僕とミレーヌを見詰めたセシルさんが手を頭の後ろに組み、椅子を傾けながらつぶやく。
「ま、ようするにだ。あたい達の役目は終わったって事さ。いいんじゃない?あたいも暇な船の生活に飽き飽きしてたしさ」
セシルさんを咎めようとしたシグレさんも口を開きかけたが黙り込む。
船長が決定したのなら従う。
シグレさんの瞳を見ればわかる。
だけど口を開けばジョルジュ船長への不平不満が出てしまう。
だから口を閉じたのだろう。
生真面目なシグレさんらしいと僕は思った。
「まったく人間というのは勝手なものだ。助けろと言ったりもういらないと言ったり。まったく理解に苦しむ」
クヌートは怒りを通り越して呆れているようだ。
それはそうだと僕も思う。
「だがフェリシアを危険に晒すことが無いなら俺に異論はない。奴らが帰路に生きようが死のうが俺の知った事か」
常に妹の身を案じるクヌートらしい言葉だ。
クヌートはエルフと人間の間に生まれたハーフエルフで、いつも冷静な印象があるエルフと違って怒りっぽい。
ハーフエルフは怒りやすいのだろうか?
などと口を滑らそうものなら決闘を申し込まれるのは確実なので黙っておいた。
「クヌート兄さま。私の事なら大丈夫です。ですからそんなにお怒りなさらないでください」
フェリシアがクヌートをなだめるように言うとクヌートは怒った表情のまま黙り込んだ。
そんなクヌートを困った顔をしたフェリシアが見ているとシグレさんが口を開く。
「下船しろというなら従うしかないだろう。各自荷物をまとめておくとしようか」
そう言ってシグレさんが椅子から立ち上がる。
僕たちも船長室を出て船室に戻り荷物をまとめる。
荷物と言っても冒険者は旅人なので必要最小限のものしかない。
シグレさんが選んでくれたリュックに床に敷き被る毛皮。
食事キットの中にはナイフとスプーンと飯盒と水筒がある。
野外活動用のナイフは薪を割ったり草を掃ったり地面に穴を掘るのにも使える。
医薬品は乾燥した薬草で消毒薬や解熱剤などのセット。
トイレ用品。自然に戻るトイレットペーパー。
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