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第10章 僕とボクの行き違い

第65話 急転

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 第65話 急転
 
 僕がバージと子供達から離れて再び楽団の演奏を聞きに噴水へと向かう。
 この演奏を聞いたら次は何をしようかなと思ってた時だった。
 広場の一角が何か騒がしい。
 遠目から見ると数人の新聞売りが広場の人々に紙を配っている。
 
 「何かおこったのかな?」
 
 「ボク達も行ってみよう」
 
 噴水の近くで楽団の演奏を聞いていた僕達は楽団員の所にある帽子に数枚のルクス銀貨。
 ルクス侯領で作られている純度の高い銀貨を入れると広場で騒いでる人たちの所へ走っていく。
 新聞売りが配ってる紙を受け取るとこう書かれていた。
 
 『シャムド男爵家の船がまた沈没。海の魔物に襲われたのか!?死者行方不明者100名!!生存者は巨大な闇を目撃!!』
 
 広場にいた人たちはみんな新聞売りの配る紙に書いてある死者・行方不明者名簿に知人の名前がないか確認している。
 取引のあった知人を亡くし隣で泣き出す店主など襲われたのが商人なので市場の人達は一様に顔が暗い。
 商品の損失も深刻のようだ。
 
 特にフレーベル国の船は香辛料などを貿易に頼っているので船の損失は死活問題だった。
 ただ僕とミレーヌの目を引いたのは海の魔物と巨大な闇という所だった。

 「ユキナこれって」
 
 「うん、さっきの曲にあった真の闇かもしれない」
 
 僕とミレーヌは頷きあって配られている紙に書かれた文を読むが詳細はのっていない。
 新聞売りが売る文は不正確でいい加減で売り上げを伸ばそうと大々的な見出しは書いているけど情報源としては甚だ信ぴょう性に欠ける。
 
 「ミレーヌ冒険者ギルドに行ってみよう」
 
 「え、でもボク達のデートはまだ始まったばかりだよ」

 確かにそうだと思い僕は足を止める。
 でも海の魔物という事は冒険者ギルドに行けば何か情報が集まるかもしれない。
 デートを優先させるか迷ったけど。
 
 (僕はこの世界で人々の為に生きると決めたじゃないか)
 
 そう思いなおしミレーヌの手を取った。
 
 「ユキナ?」

 「ごめんミレーヌ。今日は冒険者ギルドに行きたい。デートの続きは明日にしよう」
 
 本当はもっとミレーヌと遊びたかったけど100人も犠牲者が出ている魔物の被害を放ってはおけない。
 ミレーヌも迷ったみたいだけど僕の意志が固い事を理解したのかため息をついてから。
 
 「もし何も情報が無かったら、ユキナの奢りで今夜は沢山御馳走してよね」
 
 妥協してくれたミレーヌの行動は素早かった。
 僕と一緒に宿屋への道を走る。
 普段と違う靴と服に戸惑っているけど元々ミレーヌは足が速い。
 僕達は全力疾走で宿に戻るとお互いの鎧などいつもの冒険者姿に着替えて冒険者ギルドへ向かった。
 

 ◆◆◆
 
 冒険者ギルド『斜陽の都亭』
 
 ギルドの依頼掲示板の前で依頼書を眺めていた時、一際高額の報奨金が出るクエストが新しく張り出されていた。
 それはシャムド男爵の依頼で、商船の護衛で船に乗り込みモンスターに襲われたときに船を守って戦うという内容だった。
 
 任務期間は往復で60日というから長い航海になる。
 内容だと各港町で冒険者を募集しているようだ。
 募集要項は鉄級以上となっている。
 海賊等なら青銅級で十分だからこれは余程強力な魔物が現れたとみて間違いない。
 
 僕とミレーヌがその依頼を見ていると冒険者ギルド『斜陽の都亭』の受付嬢のマリアさんが僕とミレーヌを手招きする。
 
 「マリアさんがボク達を呼んでるね」
 
 「何だろうね?」
 
 僕とミレーヌがマリアさんの所に行くとマリアさんは普段鍵がかけられている部屋のドアを開けて入ってくるように促す。
 何かわからないけど入ったほうが良さそうなので招かれた部屋に入るとマリアさんがロックという鍵かけの魔法をかけた。
 そうしてマリアさんは僕とミレーヌに部屋にあるソファを勧める。
 何がどうなってるのかわからない僕達は勧められる通りソファに座った。
 マリアさんが外に聞こえないように小さな声で僕達に話し出す

 「あの依頼あんまりおススメしないわよ。船の護衛って一言で言っても海のモンスターは巨大で強いから並みの冒険者では歯が立たないのよ。あなた達二人は鋼級冒険者だから募集要件は満たしてるけど船の上って逃げられないから船主がどんな無理難題を吹っかけてくるかわからないわよ」
 
 そういうマリアさんの目は先ほどまでの軽口を叩いていた時と違って真剣だった。
 余程難易度が高い依頼らしい。
 マリアさんは僕とミレーヌの担当だし可愛がってくれているのでこういう事を教えてくれる。
 本当はこういう情報を流すのはよく無いんだけどね。
 
 「別にあなた達借金してる訳じゃないんでしょ?それならこんな危険な依頼を受けなくてもいいんじゃない?」
 
 「でも100人も犠牲者が出ている事件を放ってはおけないです。僕は鋼級だから依頼を受ける資格はあるでしょう?」
 
 僕とミレーヌは鋼級冒険者だ。
 冒険者ギルドでも上位5%しかいない精鋭だ。
 ここで受けないと折角鋼級の冒険者になった意味がないと思う。
 いやこれはうぬぼれ過ぎかな。
 
 でも鋼級の僕達が引き受けないといけないくらい危険な魔物が出るのだろう。
 鉄級では厳しいと思う。
 船に乗せれる護衛の数は限られているので鉄級ばかりより鋼級がいたほうが安全になるはずだ。
 つまり僕達が乗り込めば鉄級冒険者の危険性も減る。
 これはうぬぼれでは無く事実だ。

 「確かにあの依頼は鉄級以上の冒険者なら受ける事は可能だわ。でも危険が大きすぎるわよ」
 
 「この依頼を受けます。それでいつ出発ですか?出来れば早いうちがいいんですけど……」
 
 僕は決意を固めるとマリアさんに尋ねた。
 すると彼女は少し困ったような顔をして答える。
 
 「受けるなら止めれないけど本当にいいの?命を落とすかもしれないのよ。私も出来るだけのサポートはするけどね。でもさ、恋人の意見は聞かなくてもいいの?」
 
 「あ……」
 
 そう言って僕はミレーヌの方を見た。
 ミレーヌは少し怒った様子でむくれている。
 きっと僕が勝手に話を進めた事が嫌なんだろう。
 
 僕とミレーヌの顔を両方見比べてマリアさんが
 
 「このクエストは3日後だから二人で相談して決めなさい。ミレーヌちゃん不安や不満は恋人にちゃんと伝えるのよ。頑張ってね」
 
 そう言ってマリアさんはミレーヌに頑張れって声援を送る。
 僕とミレーヌは冒険者ギルドから街中に借りている宿へと戻る途中に喫茶店で話し合う事にした。
 その間ずっとミレーヌは何も喋ってくれなかった。
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