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第4章 ゴブリン退治

第23話 ゴブリン退治

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 第23話 ゴブリン退治
 
 洞窟から出てきたゴブリンの群れは10匹で、弓を持っていたという事は森で狩りに出かけたのだろう。
 ゴブリンは農業を行わず狩りや略奪で食糧を得ている。
 
 冒険者達がゴブリン退治を行った為に村から略奪できず飢えていると見ていい。
 恐らく他の略奪できる村を探して移動すると思う。
 その前に叩いておこうという事だ。
 
 「狩りに出かけている10匹を除けば洞窟にいるのは多くて20匹だろう。うまくいけば大半のゴブリンを眠らせる事が出来る」
 
 シグレさんがそう言ってセシルさんが再度偵察に走る。
 セシルさんが軽々と枝に飛び乗り再びゴブリンの偵察に出かけた。
 今度は一時間程して戻ってきた。
 
 「洞窟からかなり離れた場所まで狩りに出かけたよ。どうやら近場の獲物は狩りつくしたみたいだね」

 狩猟採集はかなり広範囲まで遠出しないと食料が手に入らない。
 遊牧生活をしているモンゴルの人は数家族で東京都と同じくらいの草原が必要だと本で読んだ。
 近場にあるキノコや木の実は食べつくしたので遠距離の狩りに出かけたのだろう。
 
 洞窟から離れた森の奥へと入っていったので、僕達が洞窟を襲撃したと知ってもすぐには戻れないはずだ。
 陽は傾いてきているから狩りに出かけたゴブリン達は今夜は森の中で夜を過ごすと思われる。
 
 洞窟についた頃に陽はかなり傾いてきていた。
 洞窟の入り口に2匹のゴブリンがいるがあくびをしている。
 ゴブリンは夜行性だから夕方は寝起きになる。
 まずはあの2匹を仕留めよう。
 出来るだけ速やかに仕留めないといけない。
 
 「それじゃあたしの出番だね」

 そう言ってセシルさんがショートボウを取り出した。
 矢は二本持っている。
 見張りのゴブリンが欠伸をした瞬間セシルさんは一本目の矢をつがえ放つ。
 そのまま腕を下げず二本目の矢をつがえ放った。
 二本の矢はそれぞれゴブリンの喉を貫き、ゴブリンは声を上げる間もなく絶命した。
 
 「お見事です」

 僕が感嘆の声を上げるとセシルさんは軽く親指を上げて応える。
 セシルさんが匂いを消す魔法をかけると僕達の身体から汗などの匂いが消えた。
 この魔法はスカウトなど隠密行動をする職業の人は必ず持っていて6時間ほど効果が続く。
 
 そのままセシルさんを先頭に洞窟へと入っていく。
 洞窟の中は暗く夜目がきかないと迷いそうだ。
 セシルさんは松明に火を灯して辺りを照らすと、慣れた様子で洞窟の床や壁を目視していった。
 
 ゴブリン達はこの洞窟に長居するつもりは無かったようで、簡単な鳴子や足を引っ掻ける段差などしか用意していなかった。
 ゴブリンに聞こえないように黙っているが、松明の灯りが見えたら気が付かれるだろう。
 
 セシルさんを先頭に歩き続けると左右の分かれ道に出会う。
 
 「どちらが倉庫でしょう?」
 
 僕はシグレさんに声をかける。
 こういう時は足跡が多いほうが居住区だと教わったけど、ここのゴブリンは仮の宿として洞窟に住んでいるらしく目立った足跡は無い。
 
 「わかるかセシル?」
 
 シグレさんがセシルさんに声をかけるとセシルさんが皮手袋をはめた地面に手を触れて触る。
 するとセシルさんが小さく舌打ちをして左の方を指さした。
 
 「あっちが居住区だね」
 
 「どうしてわかるんですか?」
 
 僕にはまったく見分けがつかない。
 そう思っているとセシルさんが皮手袋についた赤い血液を見せてくれた。
 
 「この血液は右に続いている。多分人間を引きずった時についた血だね。囚われた人の中には重傷者がいるみたいだ。ゴブリンが人間を貪り食うなら兎も角、居住区に重傷者を運ばないって訳」
 
 「ボクそんなの許せない」
 
 ミレーヌが静かに呟いた。
 人の痛みに敏感なミレーヌにとって許しがたいのだろう。
 冷静になろうとしているが手が怒りに触れているのが僕にはわかる。
 
 「救出を優先する予定だったが重傷者を連れて洞窟を出るのは難しいな。軽傷者が多い事を祈ろう」
 
 シグレさんはそう言うとゴブリンの居住区を指さす。
 軽傷者は歩けるけど重傷者は担いで運ぶしかない。
 つまり重傷者を救出するためにはゴブリンを一匹残らず殺すしかなくなった。
 
 僕もミレーヌも敵を皆殺しにするのは未経験で、生き残る為なら殺害も必要だと覚悟はしていたがいざとなると怖い。
 
 シグレさんもセシルさんもこういう経験を乗り越えて来たから生き残ったんだ。
 やっぱり僕とミレーヌはシグレさん達と比べて甘すぎるのだと痛感した。
 
 だけど反省をし続ける訳にはいかない。
 冒険者を続けるなら乗り越えないと。
 セシルさんに続いてシグレさんミレーヌ、僕の順番で奥に進むと洞窟の奥に気配を感じた。
 
 シグレさんが手で僕とミレーヌに合図すると眠りの雫の入った小瓶を取り出した。
 そのままシグレさんが音を立てないように居住区に入っていく。
 奥には眠りから覚めたばかりのゴブリン達がいた。
 ゴブリンが騒ぐ前にシグレさんが居住区の入り口で眠りの雫を振りまく。
 シグレさんに気が付いたゴブリン達が叫び声を上げる前に再び眠りに落ちる。
 
 「丁度寝起きだからよく効いたな」
 
 そう言ってシグレさんがショートソードを抜いた。
 そして眠っているゴブリンの喉に剣先を突き刺し絶命させる。
 ゴブリンは叫び声を上げる事も出来ず殺された。
 
 「ユキナ。ミレーヌ。やるんだ」
 
 そう言ってシグレさんが僕とミレーヌに決意を促す。
 戦場で敵対するゴブリンを殺した事はあるけど、抵抗できない相手を殺すのとは違う。
 あの時は生き残るのに必死だったけど今から行うのは虐殺だ。
 
 でもやるしかない。
 
 僕はショートソードを鞘から抜いて眠っているゴブリンの喉元に剣先を当て、体重を乗せて突き刺した。
 ずぐりという肉を貫く感触と緑色をしたゴブリンの血が飛び散る。
 
 僕の隣で血の気を失っていたミレーヌを見つめる。
 
 (嫌なら僕が代わりにやろうか?)
 
 (大丈夫。ボク出来るよ)
 
 そうミレーヌに目で訴えたらミレーヌは意を決してショートソードを抜きゴブリンの喉を剣で一突きにした。
 
 僕達4人は眠るゴブリンを殺していく。
 機械的に死を量産している自分は今どんな姿なのだろう?
 きっと恐ろしい化け物みたいな姿なのだろう。
 ミレーヌもそうなのだろうか。
 そんなミレーヌを直視できず、僕は殺戮を続けた。
 
 「……25匹。そのうち子供は5匹か」
 
 シグレさんがゴブリンの死体を数える。
 僕とミレーヌには酷だと思ったのだろう。
 ゴブリンの子供はシグレさんとセシルさんが殺してくれた。
 
 僕もミレーヌも無言で頷く。
 感傷に浸っている暇はない。
 早く怪我をした人たちを助けに行かないと。
 ゴブリン達の死体を振り返らずに僕達は倉庫へと向かった。
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