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第2章 冒険へ
第10話 死線
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第10話 死線
僕は今、ティタニア王国の王都ティタニアから遠く離れた国境付近の砦に来ていた。
ここは魔王軍の侵略を受けていて、ここを守るために戦っている。
戦況は悪い。
敵兵は強くはないけど数が多くて、こっちの兵たちの補充が間に合わない。
正規軍の補充が間に合わない時、本来は国軍ではない冒険者も依頼という形で参戦する。
冒険者は本来参戦する義務はないけど国家の危機に馳せ参じなかった自己中心で臆病者という汚名と、ギルド永久追放処分という重い扱いを受けるので義務に等しい。
普段は個人戦がメインの冒険者は兵士として訓練されていないから戦場では火消し役、遊撃部隊という名目で最も激戦区に投入されるのが常だ。
僕は草原で皮鎧と小さな盾を身に着けロングソードを振るっていた。あちこちから剣戟と叫び声が聞こえる。
大勢の叫び声に僕は振り向く。
目の前に見える草原には沢山の人間の死体が転がっていた。
よく見ると人間にまじって異形の怪物。ゴブリンの死体もある。
ゴブリンとは緑色の肌と血をした人間の子供のような身長と体力を持つ毛の無い醜悪な妖魔で数が多い。
通称『小鬼』と呼ばれている。
魔王軍の攻撃にティタニア王国含む人間の連合軍は苦戦している。
魔王軍はゴブリンのような数の多いモンスターを先頭にして人間の正規軍を損耗させつづけていた。
人間1人でゴブリン2体の損失だったがゴブリンの数が多すぎて対処が出来ない。対処できず崩れた陣地からオーガやトロールなど屈強なモンスターが人間側の陣地へと突入してくる。
前線から開いた穴は後方を脅かし、後方で指揮を取っていた貴族達に襲い掛かる。
「第6軍司令官グルーゼ侯爵戦死!!」
伝令がまた大貴族の戦死を伝えるなかティタニア国王パラス6世は激しく動揺していた。
グルーゼ侯爵はティタニア王国と血縁関係の大貴族で彼の陣地が蹂躙されたという事は魔王軍がすぐここまで迫っているという事だ。
王は近衛兵に守られながら後方に下がる。
王の周囲にいる近衛騎士は精鋭ぞろいではあるが魔王軍相手では心許ない。
パラス6世が護衛の騎士達と共に戦場を離脱しつつある事なんて末端の僕が知る由も無く、ただ無我夢中でロングソードを振るう。
僕は既に3匹のゴブリンを倒していた。
ゴブリンは力は強くなく武器もショートソードと小さな丸い盾を持っている。
装備も筋力も並み以下だが知恵が回る。
こいつが得意としているのは待ち伏せや罠を仕掛ける事。
戦場には不向きなモンスターだが数が多いから厄介だ。
僕が青銅級冒険者なら2倍、もっと上ならゴブリンが何十匹いても勝てるだろう。
今は銅級だけど生きてさえいればこれからチャンスはいくらでもある。
僕の身に着けた皮鎧はゴブリンの緑色の血で染まり足元は敵味方の血と肉と内臓でぐちょぐちょだ。
足を踏ん張ろうとしても血で濡れた地面でブーツが滑る。
(嫌だ死にたくない!!生まれ変わって折角健康な身体を手に入れて、誰かの為に戦う冒険者になろうって決めたのに)
「ギャアォォォ!!」
4匹目のゴブリンが断末魔の叫びをあげる。
僕は4匹のゴブリンを倒した。
ゴブリンの緑色の血糊と油で切れ味の鈍くなった剣を捨て、死んだ仲間の兵士の死体からロングソードを拾って構える。
(こんな所で死んでたまるか。僕はミレーヌとまた会おうって約束したんだ!!)
4匹も倒したんだ。
開戦前だと敵は3倍だと聞いていたからそれ以上を倒した筈だ。
もうすぐこの戦争も終わる。
そう思っていた僕の目の前に両手持ちの戦斧を持った大型のゴブリンが1匹立っていた。
「……なんで」
僕は知らなかったがパラス6世が撤退した為に魔王軍の攻撃が僕達に集中していた。
逃げそびれた僕は目の前のホブゴブリンを倒すしか生き残る道は無い。
「うおおおおおっ!!」
僕はホブゴブリンへと立ち向かう。
既に体力の限界で手足がもつれそうになるが、倒れたらあの戦斧で八つ裂きにされる。
ロングソードを手にして長時間戦うのが限界なのに、戦斧を戦場で振るうホブゴブリンの呆れた体力に心が挫けそうになる。
血糊で濡れた地面を走り全身の力を込めて戦斧ごとホブゴブリンの身体を切り裂こうとしたが、逆にロングソードを弾かれて草原に叩きつけられた。
慌ててロングソードを拾おうとしたら真っ二つに折れていてもう使えない。
勝利を確信したホブゴブリンが戦斧を振りかぶり僕にトドメをさそうとする。
(何か武器はないか!?)
必死に手探りをすると戦死した兵士の持っていた長槍を見つけて構える。
それは只の幸運だろう。
いま正に戦斧を構えていたホブゴブリンの胸に長槍が突き刺さる。
「ギャアアアオオオ!!」
槍に突かれた痛みでホブゴブリンは戦斧を取り落とす。
ホブゴブリンの持っていた戦斧を掴んだ僕は残り少なくなった体力を振り絞り叩きつける。
ホブゴブリンの胸を切り裂いて大量の緑の血液をまき散らしながらホブゴブリンは倒れる。
ホブゴブリンを倒したが体力はとうに限界を超えており、戦斧を手に立ち上がりゴブリンを睨みつける。
すると何故か恐怖心が薄れていくのを感じた。
そして頭の中に声が響く。
(また会おうね。絶対だよ!!)
ミレーヌの声。
僕が好きな女の子。
青銅級冒険者のミレーヌもここにいるかもしれない。
「死んでたまるかあああ!!」
僕は倒れそうな身体に鞭打ってゴブリンに戦斧を振り回す。
(ミレーヌ!!ミレーヌ!!ミレーヌ!!)
頭の中は愛しい女の子の事だけしか考えられなかった。
ドドドドドッ!!
戦場に人間側の騎馬隊が突入し魔王軍を蹴散らしていく。
その音を聞いたゴブリンは逃げて行った。
僕は命拾いしたあと周りを見る。
赤と緑に染まった草原は敵味方の死体だらけだ。
「そうだ!助けないと!」
味方の死体を見て慌てて駆け寄ると僕は死体に触れてみる。
触れても冷たくなって硬くなっているだけで死体に動く気配はない。
「死んじゃ駄目だ!!家族が悲しむだろ!!」
そう叫んでも兵士はすでにこと切れていて微動だにしない。
「もういいよ。そいつは死んでる」
後ろから仲間の兵士が声をかけてくる。
死者は蘇らない。
「坊主ありがとう。おかげで助かったぜ」
別の兵士が僕にお礼を言ってくる。
3匹のゴブリンと1匹のホブゴブリンを倒した事で、この人たちを救う事ができた。
でも僕は人の役に立てたという実感より生き残れた喜びが大きかった。
傷ついている兵士に治癒魔法をかけていく。
肉体的にも精神的にも限界だったが一人でも助けようと治癒魔法をかけ包帯を巻いた。
周りにいた兵士たちもタンカをつくり重傷者を運んでいく。
「とにかく、ここじゃ危ないので安全な所に移動しよう」
そう言って指揮官の男性が兵たちに指示を出す。
僕も他の兵士たちと一緒に野営地へと向かった。
野営地は野戦病院と化していた。
テントには負傷者が集められて神聖魔法と医術で治療されている。
軍医が兵士から慎重に矢を抜き毒を魔法で中和していた。
うめき声と血の匂いに咽ながら、配給のパンをかじり固いチーズを口に押し込み野営地の奥にある砦へと歩いていく。
ここは国境付近の小さな砦だ。
魔王軍との戦闘が激しかったせいで廃墟のようになっている。
砦の中で僕たちは休憩しながらお互いの自己紹介をしていた。
兵士の他にも冒険者がいて皆、青銅級冒険者だった。
生き残ったのはほぼ青銅級冒険者で僕と同じ銅級冒険者は殆どが戦死していた。
僕と同じ日に冒険者になった同期の殆どはもうこの世にいない。
死んでいった仲間たちを思いながら焚火にあたる。
涙が出ない。
先ほどまで戦場にいた恐怖で身体が震える。
「坊主これも食えよ」
そう言って隣の兵士が僕にパンとソーセージを渡してくれる。
先ほどの野営地の惨状を見ながら無理やり口に詰め込んだパンとチーズだけでも吐きそうだ。
僕が口を抑えるのを見て兵士が苦笑しながらソーセージをかじった。
「いいから食っておけ。次はいつ食えるかわからん。食って寝て歩くのが兵士の仕事だ」
そう言って兵士は麻布を地面に敷いて横になるとそのままいびきをかきはじめた。
すぐ寝れるというのは冒険者や兵士にとって重要な要素だと思う。
僕は意識が途切れるまで寝れそうにない。
「坊主は冒険者なんだろ。今回の戦争はこれで終わりだからまた冒険者に戻れるぞ」
別の兵士がそう言って僕の背中を叩いてくれる。
それは兵士の武骨な慰めだった。
僕は今、ティタニア王国の王都ティタニアから遠く離れた国境付近の砦に来ていた。
ここは魔王軍の侵略を受けていて、ここを守るために戦っている。
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正規軍の補充が間に合わない時、本来は国軍ではない冒険者も依頼という形で参戦する。
冒険者は本来参戦する義務はないけど国家の危機に馳せ参じなかった自己中心で臆病者という汚名と、ギルド永久追放処分という重い扱いを受けるので義務に等しい。
普段は個人戦がメインの冒険者は兵士として訓練されていないから戦場では火消し役、遊撃部隊という名目で最も激戦区に投入されるのが常だ。
僕は草原で皮鎧と小さな盾を身に着けロングソードを振るっていた。あちこちから剣戟と叫び声が聞こえる。
大勢の叫び声に僕は振り向く。
目の前に見える草原には沢山の人間の死体が転がっていた。
よく見ると人間にまじって異形の怪物。ゴブリンの死体もある。
ゴブリンとは緑色の肌と血をした人間の子供のような身長と体力を持つ毛の無い醜悪な妖魔で数が多い。
通称『小鬼』と呼ばれている。
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魔王軍はゴブリンのような数の多いモンスターを先頭にして人間の正規軍を損耗させつづけていた。
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前線から開いた穴は後方を脅かし、後方で指揮を取っていた貴族達に襲い掛かる。
「第6軍司令官グルーゼ侯爵戦死!!」
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グルーゼ侯爵はティタニア王国と血縁関係の大貴族で彼の陣地が蹂躙されたという事は魔王軍がすぐここまで迫っているという事だ。
王は近衛兵に守られながら後方に下がる。
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僕は既に3匹のゴブリンを倒していた。
ゴブリンは力は強くなく武器もショートソードと小さな丸い盾を持っている。
装備も筋力も並み以下だが知恵が回る。
こいつが得意としているのは待ち伏せや罠を仕掛ける事。
戦場には不向きなモンスターだが数が多いから厄介だ。
僕が青銅級冒険者なら2倍、もっと上ならゴブリンが何十匹いても勝てるだろう。
今は銅級だけど生きてさえいればこれからチャンスはいくらでもある。
僕の身に着けた皮鎧はゴブリンの緑色の血で染まり足元は敵味方の血と肉と内臓でぐちょぐちょだ。
足を踏ん張ろうとしても血で濡れた地面でブーツが滑る。
(嫌だ死にたくない!!生まれ変わって折角健康な身体を手に入れて、誰かの為に戦う冒険者になろうって決めたのに)
「ギャアォォォ!!」
4匹目のゴブリンが断末魔の叫びをあげる。
僕は4匹のゴブリンを倒した。
ゴブリンの緑色の血糊と油で切れ味の鈍くなった剣を捨て、死んだ仲間の兵士の死体からロングソードを拾って構える。
(こんな所で死んでたまるか。僕はミレーヌとまた会おうって約束したんだ!!)
4匹も倒したんだ。
開戦前だと敵は3倍だと聞いていたからそれ以上を倒した筈だ。
もうすぐこの戦争も終わる。
そう思っていた僕の目の前に両手持ちの戦斧を持った大型のゴブリンが1匹立っていた。
「……なんで」
僕は知らなかったがパラス6世が撤退した為に魔王軍の攻撃が僕達に集中していた。
逃げそびれた僕は目の前のホブゴブリンを倒すしか生き残る道は無い。
「うおおおおおっ!!」
僕はホブゴブリンへと立ち向かう。
既に体力の限界で手足がもつれそうになるが、倒れたらあの戦斧で八つ裂きにされる。
ロングソードを手にして長時間戦うのが限界なのに、戦斧を戦場で振るうホブゴブリンの呆れた体力に心が挫けそうになる。
血糊で濡れた地面を走り全身の力を込めて戦斧ごとホブゴブリンの身体を切り裂こうとしたが、逆にロングソードを弾かれて草原に叩きつけられた。
慌ててロングソードを拾おうとしたら真っ二つに折れていてもう使えない。
勝利を確信したホブゴブリンが戦斧を振りかぶり僕にトドメをさそうとする。
(何か武器はないか!?)
必死に手探りをすると戦死した兵士の持っていた長槍を見つけて構える。
それは只の幸運だろう。
いま正に戦斧を構えていたホブゴブリンの胸に長槍が突き刺さる。
「ギャアアアオオオ!!」
槍に突かれた痛みでホブゴブリンは戦斧を取り落とす。
ホブゴブリンの持っていた戦斧を掴んだ僕は残り少なくなった体力を振り絞り叩きつける。
ホブゴブリンの胸を切り裂いて大量の緑の血液をまき散らしながらホブゴブリンは倒れる。
ホブゴブリンを倒したが体力はとうに限界を超えており、戦斧を手に立ち上がりゴブリンを睨みつける。
すると何故か恐怖心が薄れていくのを感じた。
そして頭の中に声が響く。
(また会おうね。絶対だよ!!)
ミレーヌの声。
僕が好きな女の子。
青銅級冒険者のミレーヌもここにいるかもしれない。
「死んでたまるかあああ!!」
僕は倒れそうな身体に鞭打ってゴブリンに戦斧を振り回す。
(ミレーヌ!!ミレーヌ!!ミレーヌ!!)
頭の中は愛しい女の子の事だけしか考えられなかった。
ドドドドドッ!!
戦場に人間側の騎馬隊が突入し魔王軍を蹴散らしていく。
その音を聞いたゴブリンは逃げて行った。
僕は命拾いしたあと周りを見る。
赤と緑に染まった草原は敵味方の死体だらけだ。
「そうだ!助けないと!」
味方の死体を見て慌てて駆け寄ると僕は死体に触れてみる。
触れても冷たくなって硬くなっているだけで死体に動く気配はない。
「死んじゃ駄目だ!!家族が悲しむだろ!!」
そう叫んでも兵士はすでにこと切れていて微動だにしない。
「もういいよ。そいつは死んでる」
後ろから仲間の兵士が声をかけてくる。
死者は蘇らない。
「坊主ありがとう。おかげで助かったぜ」
別の兵士が僕にお礼を言ってくる。
3匹のゴブリンと1匹のホブゴブリンを倒した事で、この人たちを救う事ができた。
でも僕は人の役に立てたという実感より生き残れた喜びが大きかった。
傷ついている兵士に治癒魔法をかけていく。
肉体的にも精神的にも限界だったが一人でも助けようと治癒魔法をかけ包帯を巻いた。
周りにいた兵士たちもタンカをつくり重傷者を運んでいく。
「とにかく、ここじゃ危ないので安全な所に移動しよう」
そう言って指揮官の男性が兵たちに指示を出す。
僕も他の兵士たちと一緒に野営地へと向かった。
野営地は野戦病院と化していた。
テントには負傷者が集められて神聖魔法と医術で治療されている。
軍医が兵士から慎重に矢を抜き毒を魔法で中和していた。
うめき声と血の匂いに咽ながら、配給のパンをかじり固いチーズを口に押し込み野営地の奥にある砦へと歩いていく。
ここは国境付近の小さな砦だ。
魔王軍との戦闘が激しかったせいで廃墟のようになっている。
砦の中で僕たちは休憩しながらお互いの自己紹介をしていた。
兵士の他にも冒険者がいて皆、青銅級冒険者だった。
生き残ったのはほぼ青銅級冒険者で僕と同じ銅級冒険者は殆どが戦死していた。
僕と同じ日に冒険者になった同期の殆どはもうこの世にいない。
死んでいった仲間たちを思いながら焚火にあたる。
涙が出ない。
先ほどまで戦場にいた恐怖で身体が震える。
「坊主これも食えよ」
そう言って隣の兵士が僕にパンとソーセージを渡してくれる。
先ほどの野営地の惨状を見ながら無理やり口に詰め込んだパンとチーズだけでも吐きそうだ。
僕が口を抑えるのを見て兵士が苦笑しながらソーセージをかじった。
「いいから食っておけ。次はいつ食えるかわからん。食って寝て歩くのが兵士の仕事だ」
そう言って兵士は麻布を地面に敷いて横になるとそのままいびきをかきはじめた。
すぐ寝れるというのは冒険者や兵士にとって重要な要素だと思う。
僕は意識が途切れるまで寝れそうにない。
「坊主は冒険者なんだろ。今回の戦争はこれで終わりだからまた冒険者に戻れるぞ」
別の兵士がそう言って僕の背中を叩いてくれる。
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