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第30話 ボクに出来る事。

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 第30話 ボクに出来る事。
 
 ソシアルナイツ秘密基地内会議室。
 
 ソシアルナイツの基地内にある会議室で大きなスクリーンに向かって神威由紀が話かけている。
 日本政府官僚と世界の主な官僚に対してのみ報告しているが彼らはソシアルナイツの秘密基地がどこにあるのか知らない。
 お互いその方が良い。
  彼らが家族と自分の命と引き換えにこの基地の場所を言わない保証は無いのだ。
 

 「雛月博士の研究データによるとエナジーとは人間の魂そのもの。そしてエナジーを生み出すのはその人間がもっとも大切に思っている存在なのです。カレンさんは人類を誰よりも愛していた。その心が揺れているうちはカレンさんのエナジーは常人の域を超えません。つまり変身出来ないのです」
 
 神威由紀はそう言って説明を続ける。
 神威由紀の話によればエナジーを最も強く発するのは人間では無く魂なのだという。
 それも純粋な少年少女の魂でなければ変身できるほどのエナジーは得られない。
 世界各国で適合者を秘密裏に探してはいるが、いまだにカレンとヒロ以外に見つかっていない。
 日本人にしか適合者がいない可能性もあるが二人だけに人類の未来を託す事はできない。
 
 (このあいだまでカレンちゃん一人を戦わせていた癖にやっと重い腰を上げたわ。この屑共。自分の命に危険が及ぶとやっと理解したのね)

 神威由紀は心の中で彼らを罵るが流石に顔に出すわけにはいかない。
 彼らを説得できなければ予算が集まらないのだ。
 
 「薬でも洗脳でもなんでもいい。なんとか強制してでも戦わせる事はできないのかね」
 
 スクリーンに映った官僚の一人がそんな発言をして由紀は頭が痛くなった。
 こいつはさっきまで何を聞いていたのだ。
 カレンが人々を愛する心を取り戻さない限り変身できるほどのエナジーが戻る事は無い。
 何よりそんな非人道的な事ができるのならとっくにやっている。
 自分の良心の呵責など世界中の人々の命にくらべれば安い物だ。
 神威由紀はそういう人物でもある。
 彼女が若ければ自分がバスタースーツを着て戦う事が出来るだろう。
 それに彼女は生娘ではない。
 中学生の時にレイプされた。
 だから乙女の心など持ち合わせてはいなかった。
 清純で貞節な乙女であるカレンが怪人にレイプされた時、カレンはどれだけ辛かっただろう。
 そして人々の罵倒を浴びたカレンが正義の心を失ったとしたら。
 それをどうして責められる?
 責められるのはカレンのサポートを怠った全ての大人たちなのだ。
 カレンが愛した人類全てがカレンを傷つけた。
 それを思うと心が痛かった。
 カレンには身も心も愛してくれる人が必要だ。
 宮村和美が男性で恋人だったら最適だったのだが今更言っても仕方がない。
 カレンの交友関係を全員審査したがカレンの恋人になれそうな男子は見つからない。
 ヒロはどうなのだろう。
 ブルーバスターであるヒロなら自分の身を守りカレンの支えとなり共に戦えるだろう。
 だがこればかりはどうしようもない。
 ヒロとカレンが本当に愛し合う恋人にならないといけない。
 純粋な愛が無ければカレンを立ち直らせる事はできないのだ。
 自分に出来る事はこの俗物共が暴走する前に予算をふんだくり基地の強化をする事。
 カレンとヒロの支えになる事。
 それだけしか出来ない己を恥じた。
 
 ◆◆◆

 ◆◆◆

 基地内が騒がしい。
 その喧騒の声でカレンは目を覚ました。
 時計を見ると18時25分。
 6時間ほど眠っていただろう。
 
 「早く医療ポッドに入れないと。準備は出来てるわ。ヒロもう少しの辛抱だからね。死んじゃ駄目よ」

 カレンはその声を聞いて部屋から飛び出した。
 医療ポッドはカレンの病室近くにある。
 目の前を数人の医師と共にヒロを乗せた医療ベッドが走っている。
  医師の中に神威由紀の姿も見える。
 
 「……ヒロ!?」
  
 医療ベッドの上に横たわるヒロはブルーバスター姿のまま。
 ヒロの右腕は肩の下から無くなっていた。
 多量の出血でヒロの顔を青ざめていて唇が紫色になっている。
 ヒロの惨状を見てカレンは泣き叫びながらヒロのベッドに縋りついた。
 
 「ヒロ!!ヒロ!!」
 
 (駄目ですカレンさん!!今邪魔をしたらヒロさんは死んでしまいますよ。大丈夫ここの医療ポッドならヒロさんの右腕を再生する事は可能です)

 AI・マシロの言葉に立ち止まったカレン。
 カレンに気が付いたヒロはカレンに微笑んだあと意識を失った。
 すぐに治療室に運ばれていったヒロを見て、その場にへたり込んだカレンにAI・マシロが声をかける。
 
 (大丈夫ですカレンさん。まだ間に合います)
 
 (でも……)
 
 (まずは落ち着きましょう)

 (ヒロは助かるよね!?だってエナジーが尽きない限り死なないんでしょ!?)

  (理論上はそうです。ですがヒロさんの魂が同じ体に定着できるとは言い切れません。ヒロさんの魂がいずれどこかの身体に定着するとしても人間とは限りませんし、カレンさんに出会っても気が付かないでしょう)
 
 (それじゃ二度と会えないって事?それじゃ死んだのと同じじゃないか)
 
 (そうです。たとえ転生したとしてもそれは人間のヒロさんではありません。人間だとしてもカレンさんと出会える確率は80億分の1です。それも明日か1000年後になるかわかりません。二度と会えないと思っていいでしょう)
 
 (そんな……そんなの嫌だ!!ヒロに会えなくなるなんて嫌だよ)

 部屋に戻ってベッドにうつ伏せになったカレンは枕を抱きしめて泣き続ける。
 その時カレンは初めて神威ヒロという男の子の事が好きだと自覚した。
 だけど怖かった。
 こんな汚れた自分がヒロに愛される資格があるのだろうか。
 汚らしいと軽蔑されるかもしれない。
 カレンに優しくしてくれるのは親戚だからだけなのかもしれない。
 
 (……ボクは決めたよ)

 (カレンさん?)

 AIマシロの問いにカレンは頷いて大きな姿見の前で服を脱ぎだした。
 身体には傷あと一つない。
 胸は大きく腰はくびれている。
 お尻から太ももにかけてむっちりとしていてとても色っぽい身体つきをしている。
 肌の色は白く透き通るように美しい黒髪と相まって神秘的ですらある。
 自分の裸体から目を離さない。
 
 (ボクの身体変じゃない?ヒロに見せても大丈夫だよね。)

 (カレンさんはとても美しい身体をしています)

 (……こんな汚れた身体でもヒロは抱いてくれるかな?)

 (ヒロさんはカレンさんの事を汚れているなんて思っていないはずです)

 (そうかな?)

 (そうですよ)

 (うん……そうだよね。ヒロは優しいから……)
 
 (はい)

 (ヒロの為にボクができる事。ううんボクもしたい事。AI・マシロはボクの事を笑う?)
 
 (応援します)
 
 (ありがとう)
 
 カレンは鏡に映る自分の裸を見ながら決意する。
 気持ちを受け入れてくれなくてもいい。
 ただの肉体関係でもいい。
 傷ついた少年にカレンが出来る事。
 傷ついた少女にヒロが出来る事。
 短絡的だけど。
 カレンは生まれて初めて自分からSEXを望んだ。
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