桃語り

はちみつみかん

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第四話 思い出したこと

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時間は飛ぶように過ぎる。が、それは新入生でなかった場合だ。友達作りやら、先輩たちにつれてもらって教授方に挨拶やら、食堂のメニュー確認に、座席の確保。何もこれも全部が初めての新入生には濃すぎるぐらい、時間は充実している。

特にスミレは、開国をし、政治をしてきた3公爵のうちの1人、桃木家の娘だ。
同性であれば親友、異性であれば婚約者を狙われるのは、もはや伝統と言っても問題ないだろう。

話がずれたので戻すが、スミレは無事平穏にここまで3ヶ月を過ごした。

「スミレさん、またあの話を聞かせてくださいな」

「ごめんなさい、樹里さん。あの話とは…?」

午前中の授業がすべて終わったばかり、スミレの親友、明条樹里は振り返って言った。スミレの前の席に座っているのだ。

だが、スミレが聞き返したことにより、樹里はちょっと怒ったかのように顔をしかめた。

「お昼をご一緒にする時に、お兄様方の恋のお話を聞かせてくださると、昨日おっしゃっていましたよ」

「そうでした!....。あの、もしよろしかったらお昼をご一緒にしませんか?兄さまと姉さまと一緒に…」

「もっちろんですわ!少しだけお待ちになって、シェフに重箱を用意させますので!」

ここ数日、すっかり2人のファンになってしまった樹里には、願ってもない提案であった。
申し訳無さそうに、予定帳を捲るスミレには気づかない。

…そろそろ文官が必要ね…。情けないわ。

 貴族、特に3公爵の方々は、用事が日々詰め込まれているため、通常は学園に入学するまでに文官、いわば秘書を用意する。しかし、スミレは用意していなかった。
理由としては、兄である冬夜、姉であるかすみが必要性を感じず、用意していなかったからだ。かすみが大好きなスミレも当然のように用意しようとしない。
 
 隣でずっと聞いていた梨は、予定帳をめくる手を止めて無表情になるスミレに気づいて、声をかけようとする。

「スミレさ…」

「梨くん。今日は先に樹里さんと行っててくれませんか。用事を思い出してしまいました」

「…はい。分かりました」

ここ3ヶ月で敬語を外し、お互い名前を呼んでいたためか、梨は少しだけ、さみしくなった。なにか言いたげだったが、スミレが空を眺めだしたため、聞きたかった事も、結局聞けなかった。

…誕生日はいつですか、なんて。

この間、梨はスミレにプレゼントを貰った。その日はちょうど、梨の誕生日だったのだ。

2人が行って、教室の中がスミレだけになった頃、スミレは自分の名前を3回書いた。お父さまが、漢字をつけてくれなかった名前。お母さまだけがつけてくれた名前。

…今日は、スミレの誕生日だった。
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